ザ・グレート・展開予測ショー

東京ジャングル22


投稿者名:居辺
投稿日時:(03/ 1/25)

55.ジョーカーの役割
「神の治める国を作りたかったんだ」
 男は向こうを向いたまま、話し始めた。
「太古の邪馬台国のような、国を作りたかったんだ。
 僕は政治家になりたかった。飼い殺しの生活は嫌だった。
 彼女に神を下ろして、僕は彼女を背景に国を治めるつもりだった。
 でも、こんなのは神じゃない。化け物だ」
 男が仮面を外して振り返る。
「彼女を助けてくれ」
 薄れゆく意識の中、美神が口の中でつぶやく。
「……やっぱり……」
 十億円の懸賞のついた男。VIPだ。

「美神さーん!! どこッスかー!?」
 のんびりとやって来たのは横島だった。
 入り口から中を覗いた横島は、美神が身体を拘束されているのを見た。
 霊波刀を構えて、近づこうとする横島に美神が叫ぶ。
「来んなッ!! あんたまで捕まっちゃう!!」
 横島が、空中に片足を持ち上げたまま、固まった。
 見ると部屋の壁から新しい触手が生えて、ウネウネと新しい獲物を狙っている。
 横島は慌てて入り口に戻った。
「美神さん。どうすりゃ良いんスか!?」
 入り口から、顔だけ出して聞いてくる。

「文珠、無いの?」
「さっきあげたので最後ッス」
「しょうがないわね。
 壁を良く見て。身体のパーツが並んでるでしょ」
「え? うわぁ、気持ちワルッ!!」
「余計なこと喋ってんじゃない!!
 どこかに心臓があるはず。それを破壊して」
「どうやって?」
「ハンズオブグローリーとか、サイキックソーサーとかあるでしょ!!」
「違いますよ。どうやって心臓を探すんスか。そんな小さいもの」
「それくらい自分で考えろ!! あああ!!!」
 思わず、美神の口から悲鳴が漏れた。
 触手の締めつけに、全身が悲鳴をあげている。
「横島……クン、お願……い。早く……して……!」

 横島は考えた。
 心臓はピクピクと動いてるはず。
 壁中に身体のパーツが散らばってるなら、心臓のある部分はピクピク動いてるはずだ。
「ああああああ!!!!」
 美神の悲鳴が聞こえる。
 ちくしょう、美神さんがピンチッだってのに、なんでオレは役に立てねえんだ。
「よこ…しま……クン……!!」
 うわ!? 苦しそうだな、早いトコ何とかしないとな。
 だから、壁のどこかがピクピクしてるってわけだ。
 今の美神さんみたいな痙攣とは違うぞ……。
 …………声だけ聞いてると、かなり色っぽいよな…………。
 こないだ見たビデオみたいだ……。
 待てよ、いっそのこと煩悩を充填したほうが、いいかも知れん。
 よし、美神さんで集中じゃ。
「イヤァあああああ……!!!」
 横島の煩悩メーターが跳ね上がった。
 ビデオのタイトルは不明だが、とにかく横島の煩悩メーターはリミットを越え、沸騰した。

「あ!? 出た!」
「何が?」
 美神が苦しそうな声で聞く。
「文珠ッスよ。一個だけッスけど。
 ホンじゃこいつでドカンと……」
 横島は『爆』の字を込めた文珠を、部屋の中に放り投げた。
「ちょっと待って、それじゃあたしも一緒に……!!」
「へ!?」

 力無く放り投げられた文珠を、触手が空中で弾き返した。
 跳ね返った文珠は転がって、横島の足下へ。
 横島自爆。
 爆風で触手がちぎれ、美神の身体がぐらつく。
「今だ!!」
 緩んだ触手から腕を何とか抜いて、神通棍を叩き付ける。
 触手はいくら殴っても、ゴムのように手応えが無い。
 美神にはもう、触手を叩き切る力さえ、残っていなかった。

 美神の意識が遠くなる。
 横島のヤツ死んだのかな?
 そんなことをぼんやり考えていると、急に触手が緩んだ。
 床に投げ出された美神は、神通棍を支えに立ち上がろうとする。
 今攻撃されたら、ひとたまりも無い。
 ポキリと、酷使され続けた神通棍が折れ、美神は再び床に転がる。
 そして美神は気付いた。
 触手が止まってる。

56.崩壊
「……死なせて」
 女の声が言った。
 美神顔を上げると、壁の口が男に話しかけている。
「私が正気でいるうちに、殺して……」
「嫌だ!! 嫌だ!! 僕にお前を殺せる訳が無いだろう!?」
 男が泣き叫ぶ。
「……早くしないと、私またおかしくなってしまう。
 今度はあなたを殺してしまうかも……。
 ……ねえ、早く殺して。
 だんだん、何も、考えられなく、なって、きたの。
 怖い。怖いわ、あなた……たすけ…て……」
 触手が痙攣したように動き始めた。
 男は壁にすがりついたまま、泣いている。

「美神さん、大丈夫ッスか?」
 うしろで横島がささやいた。
 見ると、両足と左腕をやられているようだ。右腕だけで身体を引きずっている。
「なんか様子が変わったみたいッスね」
「さっきの爆発のショックで、一時的に正気に返ったらしいわ。
 でも、それもそろそろ終わりみたいね」
「じゃ、また触手攻撃ッスか。堪らんなぁ」
 横島のセリフはどこか、他人事のように聞こえた。
「バカね。あたしを置いて逃げれば良かったのに」
「なんスか、美神さん。らしくないセリフッスよ。
 でも、せっかくッスから」
 と、這いずって逃げようとする横島の、ベルトを美神がつかまえる。
「ちょっと聞きたいことアンだけどさ。さっきの文珠、どうやって出したの?」
 美神がニヤリと笑って見せた。

 男が剣を手に立ち上がった。
 両手で構えて、壁に向かう。
 狙いを定めようとするが、切っ先が震えている。
「ねえ、早くしてあげないと、彼女本当に狂っちゃうわよ」
 美神は横島にもたれたまま、男に話しかけた。
「人間の心のまま死なせてあげるか、心まで怪物にしてしまうか、あんたの決断一つよ。
 できれば、早く決めて欲しいわね。あんたとあたし達が、殺されてしまう前に。
 彼女の最後の望みをかなえられるのは、あんただけなんだから」

 男の切っ先の震えが止まった。
 男は奇声を上げながら、剣を振り上げる。
 男に、触手の群れが押し寄せてきた。
 一瞬早く、剣は壁に突き刺さる。
 ほとばしる女の悲鳴。そして光。
 壁中に亀裂が走り、そこから光が溢れ出す。
 美神はその中に、男を抱きしめる女の姿を見た気がした。

 触手が根元から床に落ちた。
 床に落ちた触手が、砂の山を作る。
 壁の亀裂から、砂が噴水のように吹き出してくる。
 動けない横島の身体を引きずって、美神は必死に出口を目指した。
 男の姿は、砂に埋もれてしまったのか、見えなくなっていた。
「美神さん、オレを置いていって下さい。
 美神さんだけなら、逃げられるかもしれないでしょ」
「生意気言ってる暇があったら、あんたも少しは努力しなさい。
 あたしはこの手を、絶対に離さないからね」
 天井が崩れる。
 美神は横島の身体に覆いかぶさった。

 その姿勢で、数秒が経過した。
 天井は、結局二人の上に、落ちてくることは無かった。
 おそるおそる顔を上げる美神に、その人型は話しかける。
「大丈夫・ですか・ミス美神」
 マリアの力強い手が、二人に差し伸べられた。

57.大団円
 森は砂丘へと、変貌していた。
 黄色い砂のうねりが、地平線まで続いている。
 GS達は携帯電話の位置表示機能を使って、ここに集まってきていた。
 妙に疲れ切った西条の顔に、一同は退き気味だ。

「で? そこで令子は、何て言ったワケ?」
「イエス『あたしはこの手を、絶対に離さないからね』です。ミス・小笠原」
 ご丁寧にも、マリアは録音を再生して見せた。
 エミは、さっきから何度も、マリアに再生させて大笑いしている。
「ちょっと、カオス。あれ、止めさせてよ」
 美神は頬を膨らませて、言った。
 おキヌの治療を受けているので、動けない。
「何をじゃ? あのくらい勘弁してやれ。事件が解決して、浮かれとるんじゃ」
「そうですよ、美神さん。みんなそれぞれ大変な思いをしたんです。
 あれくらい、良いじゃないですか」
 おキヌが諭すように言った。
「良かないわよ。エミに笑われるなんて、屈辱以外の何物でもないわ」

「これと言うのも、横島のせいよ。
 横島ーーーっっ!!! あんた減給6ヶ月だからね!!」
「なんでなんスかーー!!? ちゃんと助けに行ったじゃないッスか!!」
 横島はシロとショウトラに、舐められながら身悶えしていた。
 かなりくすぐったいらしい。

「あたしに逆らった罰!!」
 美神が叫ぶ。
「単独行動で、みんなに心配かけた罰!!
 助けに来たのに、役に立たなかった罰!!
 あたしを見捨てようとした罰!!
 自分を見捨てて、逃げろと言った罰!!」
「他のはともかく、最後のは納得いかんぞ!!」
 横島が怒鳴り返す。
「それが嫌なら、一生あたしの下で働くのね!!」
 美神が言い放った。
「なんじゃ? プロポーズか……?」
 カオスの一言に全員が凍りついた。
「え?」
 美神は呆然としていた。

「お〜い、向こうにこいつが倒れてたぞ」
 誰かを背負ったタイガーと、雪之丞が砂の山から下りてくる。
 背負われた男の顔を見た、美神の目にハートマークが浮かんだ。
「あああ!!! 十億円!!」
「タイガー!! お逃げ!! 令子に捕まったら許さないワケ」
 何のことか分からないまま、くるりと向こうを向いて走り出すタイガー。
 その後を追って、美神とエミが走っていく。
 通り過ぎる二人を、雪之丞が肩をすくめて見送った。
「うまく誤魔化したわね〜〜〜〜、令子ちゃん〜〜〜〜」
 冥子はニコニコしながら見送っている。

「マリア、十億円を確保じゃ!!」
「イエス・ドクターカオス」
 轟音を轟かせて、マリアが飛んでいく。
「俺たちも行こう、おキヌちゃん!」
「横島さん、怪我は!?」
「そんなこと言うとる場合か!?
 あれで十億円手に入らんかったら、美神さん今度は何を云い出すか分からんぞ。
 シロはエミさんを足止め、タマモはマリアを牽制して近づかせるな」
 タマモとシロが嬉しそうに駆け出した。
「行こう! おキヌちゃん!!」
 横島がおキヌに手を差し伸べる。
「はい!!」
 二人は美神達を追って、駆けていった。

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