ザ・グレート・展開予測ショー

帰ってきた横島 ―8―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/ 1/24)

横島忠夫という男は、異常な程・・・・・・という言葉で片付けるには圧倒的に不足と思えるほどに、数多くの臨死体験を繰り返してきた男である。

大概コミカルに!稀にシリアスに!!
いつもは自業自得で!時にはとばっちりで!!
ほとんどの場合突発的に!でもよく考えると結構計画的に!!
日本中で!更には世界中で!!人間界をも飛び越えて!!!いつだったかは大気圏の外でだってそう言えば!!!!

いつも死の一歩手前まで行って来た男である。
・・・・・・半歩前だった事もある・・・オンラインだった事だって・・・・・・・・・一歩超えてから戻ってきた事もあったなぁ・・・・・・・・・・・・

・・・・・・ま、そんな訳で、

彼はもう、自分でだって数え切れていないだろう回数の・・・・・・“死”と向かい合い続けて来た男だ。
そんな彼が!今また、新たな“死”と向かい合っている・・・

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

その名は美神令子。
横島にとって、それは死の類義語という側面を持つ・・・・・・
現在・・・横島は美神に胸倉を捕まれ、悪魔も裸足で逃げ出すだろう眼光で睨み付けられていた。

・・・・・・・・・・・・二分間無言で。

美神が横島を睨み付けている間・・・部屋の中に居る誰もが只の一つも、声はおろか物音一つ立てずにいる。
立てられる状況じゃ無い。
そんな状況の中で、横島は・・・・・・


( Side 横島 )

―― 怖えーーーー!!?死ぬーーーーーーーーーーー!!! ――

俺が悪いって事は重々承知している!シバかれるのも!半殺しも!!最悪、勢い余って本当に殺されるんじゃ無いかって事も考えてた!!!

―― それはしょうがない ――

とにかく命だけは守る。それ以外の罰は全部受ける。とりあえずそれがケジメだ。
美神さんが多少なりともスッキリしてくれるまで俺はサンドバッグだ!!2時間か?半日か?!それとも丸々一昼夜かっ!!?
そう考えると鬱になるけど・・・・・・それでも悪いのは俺なんだからしょうがない。俺も男だ!耐え切ってみせる!!
そんな風に考えていた。

―― けど! ――

なんなんだっ?!この状況はっっっ!!?
美神さんが俺の胸倉掴んでる・・・で、俺を睨み付けてる。それは良い。いつもの事だ。でもなんで・・・・・

・・・・・・睨み付けるだけなんだ?

いつもここから、派生技に持ってくだろっ?!
黄金の右ストレートとか?!(←→P)
往復ビンタとか?!(→←→P連打)
ハイヒールで踏みつけとか!?(↓K〜↓K連打)
神通鞭一閃とかっっ!!!(→→→P+K)
鬼のようなコンボ(←→P→→PPP↓K↓K↑P+K→→PPP・・・無限コンボ)を決めてくるだろうっ!!?

―― なんで何もして来ないんじゃーーーー?!!!! ――

ああああああ、困る!こういう生殺しが一番困る!ぶっ飛ばすにしろ、張っ倒すにしろ早いとこやってくれーーーっっ!!
だいたい、こんなの美神さんらしくないって!ほら?!一発ガツンとやって下さいよ。
あれ?なんだか俺、自分からシバかれたいって思ってる?ヤバイ!?思考がヤバイ方向に向かってる!!?

・・・・・・ああああああーーーーーー!!美神さーーーーーーーーーーーーんっっっ!!!!

( Side End )


・・・・・・・・・テンパっていた。

しかし、1年という時間は彼を大きく成長させていたようである。
どこがって?
ここまで一連の思考は、なんと驚くべきことに・・・・・・ただの一言も横島の口から漏れてこなかったのだ!
これは1年前までの彼からは考えられない事である。残念ながら、この場にいる全員がそれに気がつかなかったが(もしかしたら横島にとっては幸運だったかもしれない)・・・・・・・・・
一方、

―― ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ――

そんな擬音を響かせる美神。
いったい、いつまでこの重苦しい状態を続けるつもりなのか?

「・・・・・・・・・・・・」

まるで永遠にこの状態が続くのではないかと、誰もがそんな有り得ない事を真剣に考え出した頃・・・・・・
美神はついに行動に移った!

―― パッ ――

胸倉を掴んでいた手を離す。そして・・・

―― クルッ、ツカツカツカツカ ――

「・・・・・・・・・ほふぇ?!」
横島に背を向け、ハイヒールの音を響かせつつ歩き出す。部屋の隅、ちょうど観葉植物の陰になっている地帯へ・・・
全ての思惑を外された横島が、なんとも形容しがたい声を上げた。目が点になっている。
しかし、ここに美神を知る人間が居たならば・・・その殆どが横島と同じ行動を取ったに違いない。
それぐらい「今の状況で美神が横島をシバかない」という事は予想外の行動だったのだ。しかも事後にその行動の意味を理解することも困難・・・・・・いったい何故、美神は横島に一切手を上げなかったのだろうか?

・・・・・・そう、令子・・・あなた・・・・・・

今この場では只一人、母の美智恵だけがその・・・美神の心情の移り変わりを推し量ることが出来た。

「ヨコシマっっ!!!」
「!!?」

だがしかし・・・そんな機微を慮る事も、勿論呆けている暇も・・・・・・今の横島には無い。何故なら・・・・・・
まだこの場には、彼に物申すべき人間、彼が全身全霊を持って謝罪しなければならない人間が・・・・・・
まだ・・・まだ・・・・・・まだ・・・・・・・・・
存在していたから・・・・・・


( Side タマモ )

ようやく・・・・・・・・・・・・ようやく・・・・・・・・・ようやく・・・・・・ようやく・・・ようやく!ようやく!!ようやく!!!ようやく!!!!ようやくーーーーーーっっっ!!!!!

―― ようやく帰ってきたわねーーーーーっっっ!!!! ――

「ヨコシマっっ!!!」

気が付けば、私は思いっきり叫んでいた。こんなに大きな声を出したのは、いったいどれくらいぶりだろうか?
それもこれも・・・

―― 全部アンタの所為なのよっ!? ――

私はヨコシマに近づいて行く。
予想外の美神の行動にあっけに取られていたヨコシマ。こんなはずじゃ無いって顔をしている。
って事は・・・

―― 覚悟は出来ている・の・よ・ね!! ――

私の叫び声でこちらを・・・「私を」見つめるヨコシマ・・・・・・
あああ、駄目だ!自分が抑えられない。血がたぎってる・・・・・・
お願いだから、私をイラつかせるような事はしないでよ?!
そんな事したら・・・

―― 本当に殺しちゃうわ!? ――

「・・・・・・・・・・・・」

さっきまで美神がいた位置、ヨコシマの真正面。私は美神とまったく同じように、ヨコシマの胸倉をグイっと引き寄せた。
私のほうが随分小さいから、ヨコシマは私に覆い被さるような体勢になる。接近する私の顔とヨコシマの顔・・・
私を見つめるヨコシマの顔・・・・・・

「・・・・・・・・・何か言うことは有る?」

超々至近距離から睨みを利かせながら、私はヨコシマに・・・・・・一応尋ねた。

「・・・・・・すまん・・・」

―― ゴンッ!! ――

「たっ?!痛っ・・・・・・」
「なんだそれっっ?!!!」

私はヨコシマを引き寄せると同時に頭突きを叩き込む!

「すまん!で済むかっ?!!このっ!馬鹿ヨコシマっっ!!!」

―― ゴンッ! ――

「タッ!?」

アンタが居なくなって、私がどれだけしんどい思いして来たと思ってるのよっ!!?

―― ガンッ! ――

「!っ・・・」
「私がどんなにっ!!」

私は連続で・・・

―― ガンッ! ――

「!?」
「どんな思いをしてきたのかあっ!!」

―― ゴガガンッ! ――

「・・・・・・」
「分かってんのかーーーーーーーーっ?!!!!」

―― ガツゥウンッ!! ――

「・・・・・・・・・」

ぶちかます!!!

「なんとか言いなさいよっ!!?」
「・・・・・・・・・・・・あー・・・その・・・」
「なにっ?!」

ヨコシマが私を見つめてる。何だかやるせない様な眼で・・・・・・・・・気に入らない。

「・・・・・・・・・・・・やめろって・・・」

―― カチン! ――

「そんな事が言える立場かああっ!!?」

―― ガツン!! ――

舐めた台詞を吐くヨコシマに、私は再び頭突きを食らわせた。
なのに・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・なんなのよっ?!」

ヨコシマは全く変わらない表情で私を見つめている・・・・・・・・・本当に気に入らない!

―― ガンッ!! ――

「・・・・・・やめろって・・・痛いだろ?」

―― カチン?! ――

「当たり前でしょうがあっ!!?痛い思いさせてるのよっ?!!アンタいったい・・・」
「違うくて・・・」

私の頭突きを、頭を横にずらしてヨコシマが交わす。勢い余った私は、ヨコシマの右肩に顎を乗っけたような体勢になってしまった。
そのままヨコシマの・・・私の耳の横にある口が囁く・・・・・・

「・・・痛いだろ?・・・・・・タマモがさ?・・・額から血が出てる・・・・・・」
「?!!」

言われるまで気がつかなかった。でも・・・・・・
・・・・・・でもそんなもの、全然気にならない。

「アンタねえっ!!」

―― こんなのがなんだって言うのよっ?! ――

「アンタねぇ・・・」

―― この一年の方がずっとずっと ――

「ア・・・アンタ・・・ね、ヒッ・・・・・・」

―― 駄目だ ――

また・・・・・・・・・止まらない。

「・・・・・・・・・ヒック・・・」

―― グイッ ――

「!!?」

不意に、ヨコシマの右腕が・・・・・・私の体を抱きしめる。
それはあまりに突然に、スッポリと私の体を包み込んで・・・・・・
その感触がもの凄く温かくて・・・・・・私の心の欠けていた物を補ってくれるようで・・・・・・

―― もう ――

これ以上は・・・このままだと・・・・・・・・・私は・・・

「・・・・・・・・・・・・すまん、タマモ・・・・・・・・・・・・ただいま・・・」
「ウウッ・・・ヒッ・・・・・・・・・ウアアァァーーー・・・」

・・・・・・・・・生まれて初めて、他人の胸で泣いた。

( Side End )


そうしてタマモは、ヨコシマの右腕にしがみ付き・・・声を抑えることも無く泣き続ける。
そんなタマモを見つめるヨコシマの眼は、本当に温かいものだった・・・・・・

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