ザ・グレート・展開予測ショー

東京ジャングル21


投稿者名:居辺
投稿日時:(03/ 1/24)

52.苦い勝利
 横島の霊波刀は、ついに振り降ろされることが無かった。
 無抵抗の美神を攻撃するのがためらわれたのと、美神の口元が小さく動いたから。
「…………から」
「なんスか、美神さん?」
 瞼を伏せたままの美神に話しかける。
「バカなんだから。そう言ったのよ!!」
 言うなり、美神は練り上げた気を込め、抜き打ちで神通棍を横島に叩き付けた。
 身動きできぬまま、まともに神通棍を受けた横島の姿勢が崩れる。
「チャクラを直撃ね。効いたでしょ?」
 横島が、美神の胸に崩れ落ちる。
 震える手が、美神の腕をつかむと、その手に何か握らせ、そして離れていった。
 涙を浮かべた顔がかすかに微笑んで、横島は昏倒した。

 倒れた横島を見下ろして、美神は小さく息を吐いた。
 だんだん手に負えなくなってきた。
 それが、楽しいかのように笑っている自分を、自覚して少し動揺する。
 美神は手の上の、横島から渡されたものを見つめた。
 それを託された意味。それは何か?
 それは容易に想像がついた。
 だから、美神はそれを大切に握り締めた。

 ぱしん、と薄い殻が割れる音がした。
 振り向いた美神が見たもの、それは光の蛹の背中が割れたところだった。
「遅かったか」
 蛹の割れた中から、彼女の背中がせり上がってくる。
 息を飲んで見つめる中、彼女の上半身が出てきた。

 蛹の殻の縁を乗り越えようとして、足を引っかけ、転がり落ちた。
 まだ身体が慣れてないのか、座り込んで頭を振っている。
「ヨコシマ……」
 そうつぶやいて、ゆっくりと立ち上がると、辺りを見回す。
 ようやく美神と倒れた横島を認め、目に光が宿った。
「ヨコシマ? 死んではいないようね」
 弱々しいが、規則正しい呼吸を感じる。
 ルシオラは改めて美神に対した。
「美神さん? 何故ここに?」

「それはこっちが聞きたいことだけど。いいわ、教えてあげる。
 事故で行方不明になった横島クンを、ここまで追ってきたのよ。
 色々障害は有ったけど、今更そんなことはどうでもいいわ。
 ここまでたどり着いたら、光る蛹と横島クンを見つけたってわけ。
 そしたら、横島のヤツ、ルシオラが黄泉返るからって、あたしにたて突いたのよ。
 黄泉返るなんて、ある訳ないのにね」

53.愛は賭かってない(たぶん)
「ええ。どう言うわけか、横島の思考が転写されているようね。
 ヨコシマの思ってる通りなら、私はオリジナルじゃない。
 この森が、ヨコシマの記憶から生み出した影。それが私。
 でも、生まれたからには、私は生きる権利を主張する。
 そのために、戦わなければならないなら、喜んで戦うわ」
 ルシオラが微かに微笑む。

「そ? じゃ、戦うしかないのね」
「お互いにヨコシマを賭けてね」
 ルシオラが悪戯っぽく笑って応える。
「恥ずかしい言い方をすんな!!」
 頬を染めた美神の、神通鞭が床を叩く。
 そのピシャリと言う音を合図に、ルシオラの身体が発光する。

 ルシオラの身体が明滅を繰り返す。
 美神の目は、光量の変化に対して補正を試み、たちまち付いて行けなくなる。
 ルシオラの身体がおぼろげになり、背景に溶け込んで行く。
「美神さんじゃ、私を倒すのは無理よ。能力差がありすぎるもの」
「そおかしら。一瞬ありゃ充分だと思うけど?」
 視覚を諦め、目を閉じた美神が、不敵な笑みを浮かべる。

 ルシオラの気配をたどって、美神の神通鞭が空を切る。
 その音が邪魔で、ルシオラの殺気を読むのが遅れる。
 ルシオラの殺気が背後に回るのを感じて、美神は神通鞭を肩越しに叩き付けた。
 何の手応えも無い。
 舌打ちすると、ルシオラの殺気を探り直す。
「こっちよ」
 耳元で声がした。

 首にルシオラの手が掛けられた。
 霊波が送り込まれて来る!?
 美神は神通鞭を棍に戻し、ルシオラの居ると思われる方向に叩き付けた。
 首からルシオラの手の感触が消える。
 ホッとするのも束の間、美神の背中、心臓の裏側に衝撃が走る。
 肺から息を搾り出すようにして、美神はうめいた。
 霊波を叩き込まれた!?
 膝が折れる。
「終わりね」
 ルシオラの声が聞こえる。
「殺しはしないわ。ヨコシマの前だから」

 全身から、力が流れ出てしまったかのようにだるい。
 地面に手を着いて、走り終えたマラソンランナーのように、激しく呼吸する。
 ルシオラが横島に向かって、近づいて行くのが見えた。
「賞品に、手を、掛ける、のは、まだ、早い、わよ」
 チャクラが乱れて、神通鞭をコントロールできそうもない。
 よろめきながらも立ち上がり、神通棍を構える。
 そんな美神を、ルシオラは気の毒そうに見ていた。

「美神さん、無茶しないで。安静にしてれば命に別状ないから」
 ルシオラが子供に言い聞かせるように言ってくる。
「ふざ、けるん、じゃ、ないわ、よ!!
 今、無茶、しないで、いつ、しろっての、よ!?」
 息を切らしながら、片手で両耳と首の精霊石をもぎ取る。
 横島がくれた物は、さり気なく口に含んだ。

 何か仕掛けてくる?
 美神が諦めていないことに、気付いたルシオラが身構えた。
 美神はヨロヨロと、ルシオラに近づいて行った。
 手に持った精霊石に注意しながらも、ルシオラは動かない。
 精霊石3個程度ならどうとでもなる。そう判断していた。

 神通鞭の間合いに入る少し前で、美神の足が止まる。
 ニヤリと笑みを見せて、美神は精霊石を握った手を持ち上げ、背後に投げ捨てた。
 ルシオラが呆気に取られる間も無く、美神の背後で爆発する。
 美神は爆風に乗って、飛んだ。

 ルシオラの両手に、急速に霊気が貯まっていく。
 とっさに、美神は口に含んだ玉を吹きつける。
 ルシオラは思わず、目の前に飛んできた、その玉を手で払う。
 その瞬間、ルシオラの動きが止まる。
 美神の渾身(こんしん)の神通棍が、ルシオラのチャクラを貫いた。

「言った、でしょ? 一瞬、ありゃ、充分、だって……!」
 美神は、ルシオラを貫いた神通棍に、すがりつくようにして、ささやいた。
 ルシオラの手の中で『停』の文珠が、効力を失おうとしていた。
「ごめんね。あんたに、罪は、無いのに、ね」
 ルシオラの身体に、ひびが入った。
 パラパラと、砂で作った人形のように身体が崩れて行く。
 唇が「ヨコシマ……」と声にはならないまま、動くのが見えた。

 崩壊して行くルシオラを、美神は最後まで見届けた。
 その義務がある気がしたし、何より身体を休めることが必要だ。
 彼女はルシオラに似た、別の存在だった。
 そのことは横島も、ちゃんと分かっていた。
 おそらく横島は自分で始末をつけるつもりで、文珠を用意していたのだ。
 いったい横島はどんな気持ちで、美神に文珠を託したのだろう。
 美神の視線が、倒れた横島へと向かう。

 倒れた横島の肩が、微かに震えている。
 泣いてるのかな? 美神はぼんやり考えた。
 横島の泣き顔は見たくなかった。
 それに、まだ仕事は終わっていない。

54.核心
 ルシオラとの戦いのお陰で、美神の衣服は、ぼろぼろになっていた。
 精霊石の爆風を受け止めた身体のうしろ側の、大部分の布地が失われている。
 ボディアーマーを、着てこなかったので、火傷と打ち身だらけになってしまった。
 残された布地を、何とかやり繰りして身繕いする。
 何とか、見られる程度に身繕いした美神は、立ち上がって辺りを調べ始めた。

 光の蛹の残がいの向こうの、小さな穴を美神は選んだ。
 何の根拠も無い。直感だ。
 横島が気付いた時のために、簡単に印を残す。
 屈めば通れるほどの大きさの通路を、美神は進んで行った。
 どす黒い壁は、どこか腐った臓物を思い起こさせる。
 それは、先程から微かに漂う、臭気のせいだと気がついた。
 その臭いは、通路の先から臭ってくるようだ。

 途中何度か道が分かれていたが、臭気の強い方を選ぶ。
 印を残しながら美神は進む。
 臭気がだんだん強さを増していく。
 胸の悪くなりそうな臭いを追って、美神は通路を通り抜けた。
 そこは、赤黒い壁に囲まれた小部屋だった。
 壁中から粘液が滲み出て、それが臭いを発している。
 部屋中に漂う黄色いもやは、粘液から出ているのだろうか。
 ハンカチで口元を覆い、部屋の中を見渡す。
 向かい側の壁近くに、その男が座っていた。

 土器の仮面をかぶった男は、両足を前に投げ出すように座っていた。
 銅鏡と勾玉と剣が足下に散らばっている。どれも相当古い物のようだ。
 ゆっくりと顔を上げて美神を見たが、興味無さそうに、また下を向いてしまった。
「どうやら、あんたの手駒は尽きたようね」
 美神が神通棍を突きつける。
 男は動く気配を見せなかった。

 ツカツカと歩み寄り、男の仮面に手を伸ばす。
 何か、滑る音が聞こえる。
 反射的に、後に跳びすさった美神の目の前を、赤みがかった棒の先が通り過ぎた。
 しまった! 敵がまだ……。
 敵は居ない筈だったのに。誰が攻撃を仕掛けたのだろうか。
 そう思った時には、もう遅かった。
 肉色の触手が手首に巻き付く。
 振りほどこうとするが、触手は次々に襲いかかってくる。
 数秒後には、文字通りのがんじがらめになっていた。
「くっ……!!」
 触手の締めつけに、美神の顔面は紅潮し、どす黒く変わって行く。
 男のすすり泣く声が聞こえる。

「許してくれ……」
 男が初めて口を開いた。
「こんなつもりじゃなかった……。
 お前を、こんな化け物にしたかったんじゃないんだ」
 男が壁にすがりつく。
 壁には目や口等の身体のパーツが、でたらめな配置で付いている。
 その目はどんよりと曇り、口からは泡交じりの涎があふれている。
 その唇に微かに残る紅に、気がついた美神は呆然として言った。
「……あんた、自分の愛人に何をしたの……?」

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