ザ・グレート・展開予測ショー

東京ジャングル20


投稿者名:居辺
投稿日時:(03/ 1/23)

49.巨大樹
 美神は闇の中を、手探りで進んでいた。
 さっき見た横島と美神自身の、未来の姿が頭の中から消えてくれない。
 イヤだ。考えたくない。
 あたしは美神令子。ゴーストスイーパーだ。
 プロは仕事中に、余計なことを考えたりしない。

 踏みつけた靴の下の丸い感触に、美神はふと足を止めた。
 闇の中の手探りだが、すぐに見つかった。
 大きめのビー玉みたいな真ん丸。
 文珠、そう直感した。
 近くに、おそらくこの先に横島は居る。

 拾い上げた文珠を、上着のポケットにしまって、美神は先を急いだ。
 そう。自分でいつも言っているように、あれは一つの可能性に過ぎない。
 いまだ来ぬ未来に思いをはせるくらいなら、今この時を全力で駈け抜けてやる。
 前方に小さな明かりが見えてきた。
 美神は一心不乱に駆け続けた。
 明かりは次第に大きくなって、向こう側の景色を写し出す。

 褐色がかった灰色の壁。
 穴の中から見た第一印象はそれだった。
 ようやく闇から脱出できた美神が見たものは、巨大な木の幹だった。
 あまりに大き過ぎて、全体を捉え切れぬほどの大きさの樹。
 見上げても、梢がどこまで達しているかを、推し量ることは出来ない。
 美神の脳裏に、東京タワーの替わりに生えていた、あの樹がよぎった。
 きっとここだ。
「問題は、この先どうするのか、よね」
 美神が独り言をつぶやく。
 這い上がれと言うのか?

 とりあえず幹の周りを歩いたところ、人が歩いて入れるほどの穴を見つけた。
 穴の縁に霊気が微かにこびりついてた。
 横島と、もう一つ異質な霊気だ。
 美神は迷わずに、穴へと入って行った。

50.救援部隊前途多難
 ドクターカオスがマリアに、装置のセッティングを命じた。
 マリアが命じられた通りに、ワイヤーを壁に貼り付けていく。
 カオスはモニターをのぞきながら、ダイアルを回している。
 もう何度この光景を見たか分からない。
 エミを見つけたのは、十回目を遥かに越えた後だった。
 大抵は何も無い世界に繋がるが、たまに火口に繋がったり、宇宙空間に繋がったりする。
 部屋中の空気を、吸い出されそうになったときはさすがに焦ったが、カオスが素早くスイッチを切ったので、こと無きを得ている。

 そんなわけで、退屈していた雪之丞は、テレビに忍び寄って盗み聞きを始めた。
 うしろにはおキヌが続いている。
 二人とも若いのである。興味津々なのである。

 エミはピートの枕元に座って、彼の様子を見守っていた。
 そのわきで眠っている厄珍のことは、最初から目に入ってなかった。
 接着剤と酸っぱいものが、入り交じった臭いが漂っている。
 冥子のクスリのせいだろう。
「冥子のやつ! 酷い事して……」
 ピートの額に掛かった前髪を、指先でそっと掻き上げる。
 想像していたより穏やかな表情だった。

 悪くないシチュエーションよね。
 病に倒れた男を懸命に看病する女。
 意識を回復した男が最初に見たものは、看病疲れで眠る女の姿だった。
「男の指先が女に触れる。
 はっとして目覚める女。
 絡み合う視線と視線。
 感謝の言葉を弱々しく述べる男に、女はそっと口づける。
 よし!!! これで行くワケ!!」

 テレビの向こうから聞こえてくる声に、おキヌ達は苦笑いを浮かべた。
「ピートさんの前だとエミさんて、あんなに可愛くなっちゃうんですね」
「可愛い? どっちかっつうと女版横島って感じだが」
 おキヌがささやくのを、雪之丞が容赦なく切り捨てる。
「なあに〜〜〜〜、エミちゃんがどうしたの〜〜〜〜?」
 タイガーの治療に飽きた冥子が近づいてくる。
「あ、そんな大きな声出したら……」

「うるっさいワケ!!」
 テレビの穴からエミが顔をのぞかせた。
「その辺に水無い!? こっちの水道、水出ないワケ」
「こっちなら出ますよ」
 おキヌが立ち上がる。
「どれくらい要るんですか?」
「洗面器に入れて持ってきて。タオルもあるでしょ。一緒に頼むワケ」
 おキヌがキッチンへ入って行った。

「イヤな予感がするんだが、水なんかどうすんだよ」
「汗を拭いてあげるワケ!」
 エミの目がキラリと光った。

「よし、同期成功。スイッチオン……!!」
 カオスが叫んだと同時に、装置から水が噴き出した。
 かなりの水圧が掛かっているらしく、吹き飛ばされたカオスは反対の壁に激突する。
 マリアがようやくスイッチを切ったときには、水は部屋のなかば以上を沈めていた。
 水がテレビに開いた穴から排出されていく。
 向こうでエミが騒いでるのが聞こえるが、こちらとしてはどうしようもない。
 事務所の扉を開けて排水したいのだが、水圧でノブが回らない。

 マリアがドアを蹴破った。
 部屋に溜まった水が、階下へ流れ落ちていく。
「なんて事スンのよ!!」
 エミがテレビから顔をのぞかせる。鬼の形相だ。

「しゃーねーだろ。宇宙空間に吸い出されるよりマシだとでも思えよ」
 びしょ濡れの雪之丞が立ち上がる。
 彼は冥子をとっさに抱え上げたため、逃げられなかったのだ。
 その冥子でさえ飛沫を浴びて、ひどく濡れている。
「ありがとう〜〜〜〜。ごめんね〜〜〜〜」
「いやいい。どうやらこれが今回の、俺の役目らしいからな」
 雪之丞がむっつりと冥子に答えている。
 部屋の隅で、見たことも無い形の魚が、ピチピチと跳ねている。

 キッチンから同じくずぶ濡れになったおキヌが顔を出した。
「何があったんですか?」
「海中に・接続した・確率・98.688・パーセント」
 答えながら、マリアがカオスを助け起こした。
「どこに繋がるかまでは、微妙過ぎて制御できんからのう。
 神のみぞ知ると言った所かの?」
 雪之丞が、事務所のドアの所に引っ掛かったタイガーを、引きずって部屋の中央に戻した。
 タイガーは相変わらず眠り続けている。

51.再会
 暗い回廊を抜けると、急に開けた場所になっていた。
 ドーム状のその部屋には、いくつもの通路が繋がっているらしく、暗い穴があちこちに見える。
 中心はぼんやりと明るくなっており、その光はそこに置かれた物体から発せられていた。
 そして、その前に誰かが一人座っている。

「よこし……」
 美神は言いかけた言葉を、途中で飲み込んだ。
 膝を抱えて座り込んだ横島の向こう側、光を放つ蛹(さなぎ)をみたから。
 蛹の中から、人間の姿がぼんやり透けて見えている。
「美神さん……」
 向こうを向いたままの横島が言う。
「美神さん、凄いっしょ。ルシオラ、黄泉返るんスよ」
 立ち上がった横島が、こちらに振り向いた。決意を秘めた表情だ。
「横島クン、罠よ。彼女は本物じゃない。
 確かに存在するけど、それはこの世界だけの話。一時的なものでしかないわ」

「そっスね。でも、だからこそ、守ってやりたいじゃないスか。
 オレがルシオラのためにできることは、これしかないんス」
 横島の霊波刀が伸びる。
 美神は苦い物が、込み上げてくるのを感じた。
 横島の実力は横島自身より、美神の方がよく知っている。
 こと、格闘に限り横島は美神よりも上だ。
 こわばった笑みを浮かべると、美神は腰の神通棍を抜き取って構えた。
「師匠に刃を向けるってことが、どういう結果を招くか、思い知るがいいわ」

 横島はろくに構えもせず、ただ立っている。
 時間稼ぎ。そう読んだ美神は、真正面から、横島に神通鞭を叩き付けた。
 横島は楽々と、霊波刀で払う。
 素早く手元に引き寄せた神通鞭で、今度は横島の足下を払いにかかる。
 横島が危なげなく飛び越える瞬間、鞭は軌道を変え、真上に跳ね上がった。
 それを避けようとした横島の体勢が崩れる。
「そこ!!」
 再び軌道を変えた鞭が、横島の首に絡みついた。
 そのまま床に叩き付けられた横島。

「いつもより、キレが甘いじゃないスか?」
 顔面を血まみれにしながらも、何事も無かったかのように、横島が立ち上がる。
「もしかして、本物の美神さんじゃなかったりして」
 ニヤリと横島が笑う。
「あんたは本物のようね。偽物のあんたはもっとカッコ良かったもの」
 内心の怒りを押し隠して、美神もニヤリと笑い返す。
「あたしが偽物だって言うなら、倒してみせることね」
 神通鞭を棍に直して構える。
「やっぱり、それしかないみたいッスね」
 横島が左手にサイキックソーサーを出して、楯として構える。

 神通鞭は、手数の多い横島相手には不利だ。
 いきおい威力を抑えた神通棍で、相手をすることになるのだが、それでも横島の手数は多い。
 捌き切れずに美神が後退すると、横島はかさに掛かって攻撃してくる。
 衝撃を吸収し切れず、神通棍を握る手が痺れてきた。
 ついに背中が壁に当たる所まで、押し込まれてしまった。
 ようやくかわした横島の霊波刀が、嫌な音を立てて壁にめり込む。
 手元を狙った美神の神通棍は、横島の楯に弾き返された。
 体勢を崩した美神の手から、神通棍が落ちて乾いた音を立てた。
 予備の神通棍に手を伸ばすが、間に合いそうにない。
 足下に手をつき、絶望的な気分で横島を見上げる。
 横島が霊波刀を振りかぶった。

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