ザ・グレート・展開予測ショー

妙神山(前)


投稿者名:運値
投稿日時:(03/ 1/22)

その日、漢が一人妙神山の門を叩いた。
不甲斐ない自分を鍛え直すため。
自分の主人−飼い主とも言う−を見返すため。
その瞳には決意の炎が滾り、意思の光が溢れていた。
普段、締りの無い顔が、引き締まり精悍な顔に変貌している。
そう、今の彼の姿を見た者はなべてこう言うだろう。

「「「横島君じゃ無いみたい」」」

…と。


妙神山の中ほどに進み、主が姿を現わす。
中華風の着物を身に纏い、美しい髪は肩の辺りで切り揃えられている。
十人中十人が美しいというその美貌。しかし、美しい薔薇には刺があると
いう格言の表す通り、人間の命の炎を一瞬で散らすことの出来る力を有し
ている。

瞬間、先ほどまでの精悍な顔は何処へやら。横島はその女に鼻の下を伸ばし
話し掛ける。
…結局は横島は横島ということであろうか。

「ちわっす。小竜姫様」
「ええ、横島さん。お久しぶりです」

一見、にこやかな会話が続く。その中で彼女は横島の陰を感じる。人里離れ
た山の中。横島一人でここに来た理由。それが彼女に会う為であることは残
念ながら考えられない。そう考えるには彼女はあまりにも謙虚だった。

「ところで、横島さん。今日はなぜ妙神山に?」

会話の流れが一段落したのを見計らい小竜姫は本題を切り出す。その一言で
横島の顔色はガラリと代わり何処から出したか分からない酒とカウンター席
で管を巻き始める。

「…う、ヒック、あの守銭奴がぁ、散々尽くしたのに…ヒック…」
「あらあら」

彼の話を要約すると、除霊の際の小さな失敗を散々虚仮落とされて事務所か
ら叩き出された…らしい。
そして、妙神山で修行をして美神を見返したい…らしい。

だが、と彼女は思う。
もう彼には『力』と言う点での修行は無意味だ。事実、彼は人間界ではかな
りの霊力の持ち主であり、この妙神山最高ランクに位置する修行は修了済み
だ。
…ならば、彼に足りないのは心構え。霊を滅する為に必要な様々な技術。そ
して精神。
諦めの悪さ・応用力。この点で彼はもう教える必要の無い位のものだ。後は、
後に必要なのは…。
彼女は一つ閃いた。彼に足りないのはプロとしての自覚、そして自身。これ
を身に着けさせるに丁度良い人材が今、妙神山に居た。

「横島さん。貴方にピッタリな修行を思いつきました」
「…へ?」

小竜姫は横島の耳元で囁く。
横島は気持ち良さそうに悶えている。

「ハアハア…耳に息が…」

そんな彼を優しい眼差しで見つめ、横島に決断を迫る。

「…危険っすか?」
「いえ、命の危険は無いと思いますよ?」
「やります、是非、やらせてください」

傍らで聞くと非常に怪しい会話だが、横島はともかく小竜姫の瞳はあくまで
澄んで真剣なものであった。

そして、運命の時。あっさり、誓約書にサインした横島が教官の名前を聞き
詐欺だと喚く。

教官の名前、それはジークフリート。魔界正規軍の仕官であり、妙神山にデ
タントの為に留学している青年であった。



彼女のこの判断が後に如何なる事態を招くのか、彼女は分からなかった。

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