ザ・グレート・展開予測ショー

たった一行で〜 力 前編


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 1/22)


 「どうしても、やるのか?」

 人の気配のない山の中。針葉樹の木々や、背の高い草が生い茂るこの場所は、冬にもかかわらず、生き物の気配に満ち、まるで、本来の世界から取り残されたかのような、別世界の様相を見せている。
 俺は雪之丞との間にある程度の間隔を空け、尋ねる。

 「ああ、お前を安心させるために。それに・・・俺は確かめて見たいんだ。自分の限界がここなのかを・・・俺はお前と出会い、その度に強くなっていった。間違いなく。お前とは比べ物にならない程、小さな変化ではあったかもしれないが」

 口元を自嘲的に歪める。心底、卑屈になっているとしか思えないが、成長の速さで言うなら、確かに俺は確かに驚くべき速さだったと言えるだろう。

 「・・・俺のは元々が悪かったからな。強くなる余地があったんだろ」

 「そう言うことにしとくぜ」

 肩をすくめる。

 「文殊はありか?」

 息を飲む。これが全てが決まるとは言わないが、ある程度有利になる可能性はある。

 「ありだ」

 「・・・分かった」



 魔装術が雪之丞の体を包み込む。弓の時に見せたあの不完全なものではない、完全な状態のものだ。そして、その鎧が大きく膨れ上がる。

 「達磨みたいだな」

 思わず漏れた呟きに、雪之丞は苦笑いを浮かべる。

 「達磨に・・・こんな真似ができるか?」

 言うなり、鎧の前面部が破裂する。そして、動き出す雪之丞。降り注ぐ霊気の欠片は、まるでマシンガンから撃ち放たれた弾のように、俺に向かってくる。両手に作り出したサイキックソーサーで、必要な部分だけは守る。ところどころかすりはするものの、酷い怪我にはならない。魔装術ほど、純粋な意味での威力は少ない。単なる牽制に過ぎない。そう考えても問題はない、俺は捌きながら瞬間、そう判断する。

 「できないなっ・・・確かに」

 欠片が行き過ぎると、次に現れるのは雪之丞。繰り出される拳を受け流し、その突進を、ただ二点で受け止める。繰り出される拳をサイキックソーサーで受け流し、もう片方の手が来る前にその手にある霊気の盾を拳に纏い、向かってくる勢いを利用し、鳩尾に叩き込む、が、固い感触に弾かれる。舌打ちし、横に飛ぶ。サイキックソーサーを投げつけながら。が、それは当たる前に同時に放たれたサイキックソーサーと相殺して消え失せる。
 視線の先には、やや、膨れらんだ霊気の鎧を纏う雪之丞がいた。その顔に、苦々しい笑みを浮かべながら。



 「・・・大抵の連中はここで終わっちまうんだが・・・。まるで、霊力を使った様子がねえな」

 「お前もな。最初に打ち出した弾はある程度はその魔装術が吸収しちまっているみたいだし、それに、まだ、本気を出してない」

 「・・・吸収したっていっても、それがそのまま即俺の霊気回復になるってわけじゃない。それに、お前は」

 「『文殊を使ってない、か。』・・・」

 頭を縦に振る。

 「切り札は、取っておくもんさ」

 出来るなら、使いたくない・・・そう心中で呟く。

 「・・・魔装術に、文殊なしでやりあおうってのか?」

 「なめてるわけじゃない。そのくらいは、分かるだろ」

 「・・・ああ」

 雪之丞が魔装術をとく。膨れ上がった霊気のカスが、その右手に集まり、霊気の球に姿を変える。

 「お前が霊力を使わない戦い方をするなら、俺もそれに合わせなければいけないってことは分かるぜ。魔装術の維持の分だけ、俺が不利になることは自明の理だ」

 「・・・不利か?」

 「お前が文殊を使わないってんなら、俺のスタミナ切れを狙ってるって考えるのが自然だろうが・・・、捌ききる自信があるんだろ?俺の攻撃を」

 「さあな。何も考えてないだけかもしれないぜ?」

 「それなら、それでいいさ」

 十メートルを隔てて、笑みを浮かべ、見詰め合う。タイミングを探っているようであり、何も考えていないようでもある。二人にとっては、僅かに数秒でしかないはずの時間が、数分に感じられる、そんな不思議な流れがそこにあった。
 空気の流れさえも、二人の中でタイミングのファクターとなり得る、そんな机上の計算式では出せない、頭の中でだけのタイミングが生まれ、そして、時が訪れる。
雪之丞が、跳ぶ。大地を這うかのような低い姿勢、しかし、速い。初歩から最速の一歩、二人の距離が一瞬で埋まる。
そして、その手にしていた霊気の球が、彼の手から離れる。先行してやってくるそれが、突然分散する。

 「何だとっ!?」

 まるで、視界いっぱいに広がり、マシンガンのように襲い掛かる幾百の霊気の粒。一つ一つが砂利ほどの大きさとは言え、当たればそれだけ霊気が奪われてゆく。そして、もちろん痛い。とっさに作った、サイキックソーサーを薄く延ばす。まるで、俺の前に壁を作るかのように。霊気の粒はその壁に吸い込まれるかのように消えてゆく。
 そして、その壁が壊される。拳によって。それが来ると殆ど同時に、後ろへ跳ぶ。
 そこには、魔装術で、全身をくまなく覆った雪之丞の姿がある。今までとは違い、目にさえ、黒いサングラスのようなものを身につけている。

 「・・・お前、さっきといってることが違うじゃねーか」

 「霊気の壁を前にしてわざわざ素手で殴ろうなんて思わねえだろうが」

 納得。こいつの言うことはできる限り信じないことにしよう。

 「それに、だ。このくらいの間合いなら、俺はやりやすいんでね」

 僅かに、三メートル。確かに、魔装術で殴るには丁度いい位置だとは思うが。

 「解く気はないんだな」

 言いつつ、後ずさり。

 「は・・・?ああ、魔装術か?解く気はねえよ。必要がなくなった」

 言いつつ、一歩前進。

 「つまり、長期戦にはならないと」

 言いつつ、後ろに小走り。

 「ああ、そう言うことになるな」

 言いつつ、間合いを一定にしたまま、俺に合わせて小走り。
 間合いは一定。縮むこともなく、かといって伸びることもない。立ち止まる。繰り返してみても、疲れるだけだ。

 「どうしても、この間合いじゃないと駄目、みたいだな」

 「そんなこともないけどな。まぁ、このくらいのほうがやりやすい」

 雪之丞の霊気の鎧が、その姿形を崩してゆく。そして、右肩と左肩をさらけ出した状態になる。

 「・・・何のつもりだ?」

 「まぁ、見てろよ」

 冗談っ、俺はサイキックソーサーを両手に持つと、その両肩に投げる。そして、一メートルほどの長さの「栄光の手」を作り出し、右足で踏み込み、僅かな間を一瞬で消す。
 先行したサイキックソーサーが霊気の薄い膜を突き破って素の肉体に当たる。そして、二つの爆発。そのダメージで薄れた鎧を突き破るように栄光の手を繰り出そうとして、―――その手を止め、右に跳ぶ。
 すると、今まで俺のいた辺りに後ろから霊気の球がぶつかる。その霊気の球は雪之丞にぶつかると、霧散する。雪之丞ごと。
 その球が投げられてきた辺りを見る。
 そこには、魔装術を纏った雪之丞がいた。

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