ザ・グレート・展開予測ショー

東京ジャングル19


投稿者名:居辺
投稿日時:(03/ 1/22)

47.横島なんて大嫌い
「何故? そりゃこっちのセリフだ。
 何故、超加速で決着を付けなかったんだ? チャンスはいくらでも有ったはずだ」
 横島はわざとらしく両腕を広げたまま、頭をかしげて見せた。
「超加速させないようにって、取っときの新技まで使ったってのに、力ずくで破りやがって」

 メドーサが刺股を引いて、横島に突き出そうとする瞬間、美神が背後を蹴り上げる。
 体勢を崩したメドーサがのけ反った。
 メドーサの手を振りほどいた美神が振り返ると、倒れたメドーサの背中から煙が上がっている。
 その向こうに、文珠が1個浮かんでいた。

「1個だけ隠しといたんだ。悪いな」
 横島がニヤリと笑って、霊波刀をメドーサに突き付ける。
「勝負あり。だろ?」
 霊波刀の切っ先を、メドーサがくやしそうに見つめている。
 横島は、霊波刀を引くと、メドーサに右手を差し出す。
「惜しかったな」

「クソッ!!」
 言い残して飛び上がったメドーサ。横島はとどめを刺すそぶりも見せずに見送った。
「またな。襲うのは俺だけにしとけよ。
 俺だったら神界に、報告行かないようにしてやるからさ」
 手を振る横島に、遠くからメドーサがうるさいと叫び返した。
「またなって、あんたメドーサとこんなこと繰り返してたの?」
「ん? いや、今回が初めてだよ。
 ただ、俺にチョッカイ出すだけなら、目くじら立てる必要も無いかなってね」
 横島は頭を掻きながら、まだメドーサの飛び去った方向を見つめている。

「それはそうと」
 向き直った横島の顔が近過ぎて、美神はドキリとした。
 さり気ないふうを装って、1歩距離を開ける。
 すると横島も1歩美神に近づいてきてしまう。
「美神さん、時間跳躍はやっちゃダメだって、小竜姫様も言ってたでしょう?
 何か大事件でもあったんですか?
 だけど、そんな大事件なら、俺が覚えてないはずないし……。
 まさか、内緒で!?」
 横島の両手が美神の肩に乗せられる。
「ダメだよ美神さん。時間跳躍は危険だって分かってるはずでしょう?」

「ちょっと!! 気安く、さわんじゃないわよ!!」
 美神は横島の手を払い落とした。
「あ!? ごめん、ついいつもの癖で」
「……いつもの? 癖!?」
 美神の身体から、どす黒い気が立ち昇る。
「ちょっ!! 待って!!」
 横島が慌ててフォローしようと喋り出した。
「ほら、こっちの世界の令子さんと、美神さんは繋がってないかも知れないし。
 数ある世界の中で一つくらい、俺と美神さんが付き合ってる世界があってもいいでしょ」

 美神の身体が震える。
「そんなんで……」
「え?」
「そんなんで、納得いくかーーーッ!!」
 至近距離から、美神いきなりのハイキック。
 横島が身を反らして、紙一重でよけた。
 メドーサとの戦闘で、乱れた前髪が舞い上がる。
 間髪入れず、うしろ回し蹴りに移行する美神。
 横島が身を沈めて、これも紙一重でかわす。
 そこへ飛び上がっての踵落とし。
 半身になった横島の肩を擦って、踵が落ちていった。
 空中の美神の身体を、横島が抱きとめる。

「いくら美神さんのでも、そう簡単に殴られるわけには行かないよ。
 俺を殴れるのは令子さんだけだからね」
 素早く美神の両腕を押さえ込む。
「放せ!! 横島!!」
 美神は必死にもがくが、横島の腕ががっしりと、腰を押さえつけて動けない。
「う〜ん……、やっぱ可愛いな。やっぱ、若い方がいい!」
 横島の唇が近づいてくる。
 真っ赤な顔をそむけて、必死の抵抗の美神。
 震える瞼に涙が滲む。

「ふ〜ん、若いほうが良いんだ?」
「そりゃもお! シミだ、小皺だって年がら年中大騒ぎ。
 化粧時間は年々長くなるし……!!!?」
「一生お側に置いて下さいって、言ってたのは誰だっけね?」
 腕を組んで仁王立ち。もう一人の美神令子だ。
 一瞬で土下座した、横島の頭を踏みつぶす。
「二度と浮気はしませんって言ったのは、どこのどいつ!?」
 令子に頭を踏まれたまま、微動だにしない横島。

 本妻に踏み込まれた愛人のように、美神が後ずさりする。
 自分は被害者。悪いのは横島。美神は自分に言い聞かせる。
 この世界の美神令子は、自分とは関係ない。

「ちょっと待ちなさいよ!」
 逃げようと向けた背中に、令子のセリフが突き刺さる。
 覚悟を決めて振り向くと、意外にも令子の表情は穏やかだった。
「一言だけ、言っときたいの。
 あたしは、こいつと積み重ねてきた時間を、後悔してないわ。
 しょっちゅう悩まされるけどね。
 あんたとあんたのトコの横島が、この先どうなるかは分からないけど、後悔しない選択をしてね。
 言いたいことはそれだけよ。早いトコ行ってちょうだい。
 この先を見るとトラウマになるわよ」

 美神は後ずさりすると、森の奥に向かってかけ出した。
 少しすると、横島の断末魔の悲鳴が聞こえてきた。
 耳を押さえて、聞かないようにして走り続ける。
 何故か分からないが怖かった。
 美神は息を切らせて走り続けた。
 自分の周りを闇が覆っているのに気付くまで。

48.お母さんの匂い。
「タマモ、お前の態度は、自らの怯えの裏返しだと、まだ気付きませんか?」
 顔を上げると、そこには荼吉尼天の姿があった。
「強い力を持ったお前がその様な態度では、相手を怯えさせ敵を増やすだけではありませんか。
 以前、そのせいで封印されたのではなかったのですか」
「そんなこと、覚えてないわ……」
「それでは、同じことの繰り返しですよタマモ」
 つぶやくようなタマモに、荼吉尼天が優しい声で言った。
「何故、それほどまでに傷つくのを怖れるのです?」
「傷つくのを怖れる? バカ言わないで、私は……」
「自分が傷つく前に、相手を傷つけるのですね?」
 荼吉尼天がタマモのセリフを引き取って言った。

「お前ほどの能力を持った者を、いったい誰が傷つけると言うのです。
 お前は自分を信じていないのですか?」
「私は信じてるわ。私は、私を、信じてる」
「いいえ、お前は信じていない。
 周りの者の信頼に、応えられるかどうか疑っています。
 だから、いつも皆から1歩離れた所に身を置くのです」

 荼吉尼天が倒れたシロの、かたわらに膝をついた。
「シロ殿はどうしてこれほどまでに、お前のことを信頼しているのでしょうね」
 荼吉尼天のかざした手から、シロの傷ついた身体に、暖かな波動が流れ込んでいく。
「シロはまだ幼いのよ」
「そうですね。だからこそ何の打算も無く、お前を信頼するのでしょう。
 でも、それだけですか? シロ殿は幼くて愚かだから、お前を信頼してるのですか?」
 シロの身体から傷が消えていく。
 タマモは黙ったまま横たわり、シロと荼吉尼天の後ろ姿を見つめていた。

 シロの治療を終えた荼吉尼天が立ち上がって、再びタマモのそばまできた。
「お前が逃げたりしなければ、こんなことには、ならなかったのですよ」
 荼吉尼天の両腕が、タマモを掻き抱く。
「千年ぶりに再生したと聞いて、一目会いたい、そう思って参っただけなのに」
 なんだか、荼吉尼天の身体から、いい匂いがする。
 それは美神の母の美智恵が、次女のひのめを抱いてるときの匂いに似ていた。
 お母さんの匂いなの?
 タマモは荼吉尼天の胸に、額を押し付けてみた。
 柔らかく、そして暖かい。
 タマモ自身は味わったことの無いはずの感覚。
 それなのに、ひどく懐かしい。
 腕の中で、タマモの身体の強張りが解けていった。

「……タマモ、行くでござるか?」
 起き上がったシロがかけた言葉は、かすれていた。
「シロ殿、こちらにおいでなさい」
 荼吉尼天の手招きに誘われるままに、シロが近づいてくる。
 荼吉尼天は、シロの手を取って引き寄せ、タマモと共に抱きしめる。
 タマモが穏やかに微笑んでいる。それをを見てシロも笑みを返した。
「かあちゃ……、母上に抱かれてるみたいでござる」
 シロが気持ちよさそうに目を閉じる。
 タマモもシロに習って目を閉じた。

「……てっきり天界に連れ戻されるのかと思った……」
「それを考えなかったわけでは、ありませんよ」
 荼吉尼天が穏やかな笑い声をあげた。
「お前が昔のように追われる身であれば、そうしようと考えていました。
 でも、その必要は無さそうですね」
 荼吉尼天が抱擁を解いた。
 身体に受けた傷が消え、一抹の寂しさと共に、力がみなぎるのを感じる。

「私はこれでお暇(おいとま)いたします。
 でも、これだけは忘れないで下さい。
 どれほど離れていても、お前は私の眷族。
 私が遠くから、いつもお前のことを気にかけていることを」
 タマモが恥ずかしそうにうつむく姿を、シロが羨ましそうに見ている。
「シロ殿、これからは、シロ殿のことも気にかけることにしましょう」
「拙者、眷族は遠慮すると言ったでござる!」
 慌てるシロに荼吉尼天は、楽しそうにクスリと、笑って見せた。

「シロ殿は私に負けたのですから、もはや私の眷族ですよ。
 嫌なら修行して、また挑んでいらっしゃい。私を倒せたら解放してさしあげましょう。
 とりあえずは妙神山のハヌマン殿と、互角に渡り合えるようになったらいらっしゃい。
 いつでも勝負してさしあげます」

 白雲に乗った荼吉尼天が、空の彼方で小さくなって消えていった。
 並んで見送ったタマモとシロは、いまだに余韻に浸っている。
「あ……! 先生の所まで行く道筋を、教えてもらえば良かったでござる」
 シロがポツリともらした。
「あんたほとほと役に立たないわね!!」
「自分だって忘れてたくせに。同罪でござろう!?」
 溜め息交じりに非難するタマモに、シロが抗議する。
 思えば日頃からタマモに、やり込められてばかりだ。

「同罪? しょうがないわね、二人で何とかしましょ」
 タマモが楽しげに笑っている。
「お前、なんだか感じが変わったでござる。荼吉尼天殿に何かされたでござるか?」
「ちょっとね」
 タマモが秘密めかして答えた。

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