ザ・グレート・展開予測ショー

東京ジャングル18


投稿者名:居辺
投稿日時:(03/ 1/21)

44.自由を我らに
 ダーキニーは、なかなか近づいてこなかった。
 攻撃よりも、その踊るような動きを優先している。
 跳んで回って、剣を掲げて振り降ろす。
 片足を上げて見得を切る。
 長大な刀身に、光がギラギラと反射している。
 もしかして、自分から攻撃する気がないのでは?
 シロの脳裏をそんな考えがよぎる。

 ダーキニーの踊るような足捌きを、目で追いつつ、シロは気配を探った。
 タマモの気配が見つからない。
 逃げたのか、隠しているのか、それは分からない。
 できることなら、逃げてくれた方が良い。
 あいつに、自分が敗れる所を、見られたくない。

 タマモは、にじるようなゆっくりとした動きで、ダーキニーの背後に回り込んでいた。
 体力も、霊力も残り少ない。
 見たところ、シロも同じようだ。
 分かっていたことだが、荼吉尼天は強い。
 やはり荼吉尼天にはかないそうもない。
 シロのやつ、しゃしゃり出てこなければ良かったのに。

 炎が一つ、草むらに浮かんだ。
 炎は分裂して、荼吉尼天を取り囲むように動いていく。
 荼吉尼天はまるで気にせず、剣舞を踊り続けている。
 そのうち炎は円を描き、荼吉尼天とシロの周りを回り始めた。
 炎を荼吉尼天の術と思い込んだシロ。
 覚悟を決めて突っ込んでいった。
 すると、炎がシロを追い越して、荼吉尼天に向かっていく。

 荼吉尼天は地面を軽く蹴ると、空中に舞い上がった。
「今よ!!」
 タマモの叫びを待つまでも無い。シロが迷わず突っ込んでいく。
 ところが荼吉尼天は降りてこない。
 身体を浮かせたまま、上下反転して頭を下にすると、竜巻のように剣を振るった。
 着地する瞬間の足を狙っていたシロは、またも弾き飛ばされ、重傷を負ってしまった。

 全身がバラバラになりそうな程の、衝撃を受けたシロ。
 必死にもがくが、上体を起こすのが精一杯。
 咳をすると、血の味がした。
 地上に降り立った荼吉尼天が、シロを見下ろしている。
「どうしました? シロ殿。もう降参ですか?」
 顔は怖いのに、声だけは荼吉尼天に戻って、ダーキニーが聞いてくる。

「まだよ!!」
 タマモの叫びが聞こえた。
 朦朧とする意識の中、タマモが荼吉尼天に、立ちはだかるのが見える。
 ダメだ。出てくるな。
 シロの叫びは、かすれて声にならない。
 荼吉尼天が剣を振り上げる。
 そこにタイミングを合わせて、タマモが突っ込んでいく。

 ダーキニーはそのまま振り向いて背中を見せると、上体をそらしてタマモの上で宙返りして見せた。
 あまりにも簡単に、背後を取られてしまったタマモ。
 それでも逃げずに、足下に向けて狐火を吹きつけた。
 荼吉尼天の剣が降ってくる。
 ギリギリでよけたタマモを、ダーキニーの足が刈る。
 タマモは、空中で何回転したか分からないほど、回った後地面に叩き付けられた。
 叩き付けられた身体も痛いが、平衡感覚を失ってしまったのはもっと痛い。
 立ち上がることすら出来ないタマモに、ダーキニーの巨大な手が迫る。

45.超加速
 静寂が二人を包んでいる。
 辛うじて残った文珠が一つ、寂しく敵を探し続けていた。
「逃げた…かな?」
 横島がささやく。
「いいえ、まだよ! 殺気が感じられるわ」
「あ〜あ、厄介だよな。どんなに有利に運んでいても、一瞬で戦局が変わっちまう」
 横島が他人事のように言ってのけた。

 最後の文珠が突然割れた。

 神通鞭が叩き落とされたと思った瞬間、美神は数メートル移動していた。
 背後のメドーサが刺股を、美神の首に押し当てている。
 美神の両手は、メドーサの反対の手が捕まえていた。
「…!! 超加速!?」
 焦りの滲む美神のつぶやきを、メドーサが楽しげに聞いている。

「動くんじゃないよ、横島!! 動くとこの女の首が、落ちることになるよ!」
 横島の表情から余裕が消えた。
「メドーサ!! お前の目的は俺だろ!? よせ!」
「嫌だね!」
 メドーサがせせら笑う。
「アシュ様が居なくなってから、あたしがどんな思いをしてきたか分かるかい?
 神界と魔界の両方から、追われる身のあたしだ。
 追われるのは仕方ないさ。
 追っ手をからかうのも、ヒマ潰しのうちと思えばいいからね。
 我慢できないのは、お前だよ、横島!
 あれ以来チラつくんだ。お前の顔が。お前の下卑た笑い顔が!!
 お陰で何をしても楽しくない。
 お前のせいで、私は何をしても楽しめなくなった!
 私はお前が泣き叫ぶ顔が見たい! お前の顔を泣き顔に変えてやる!!」

「あんた本当にメドーサなの?」
 刺股を首すじに押し付けられたままの、美神が冷静に言った。
「全然らしくないじゃない。
 確かにあのバカは腹立つけどさ。
 あんなバカにまともに関わった所で、不幸になるだけよ」
 刺股が首に食い込む。血が滲んで一筋流れた。
「黙ってな。今いい所だよ」
 メドーサの視線の先では、横島が土下座していた。
「横島クン……?」

 起き直った横島が両手を広げる。その目は確信に輝いている。
「ほら、いいぜ。やれよ。
 人質抱えてちゃ、やり難いか? そんなら」
 横島は立ち上がると、スタスタと歩いて、近づいてくる。
「こんなもんでどうだ? お前の得物なら届くだろ」
 メドーサは明らかに狼狽えていた。
「……お前、何故……?」

46.迷宮の御一行様
 タイガーが、マリアのロケットアームにつかまって、昇って行く。
 まだガスの影響で眠ったままだ。
 エミは、オクムラにナイフを突きつけたまま、それを見上げていた。

 空中に開いた穴から、マリアが身を乗り出して、機銃を構えている。
「いかに諸君がうまく隠れようとも、マリアのセンサーには丸見えじゃ。
 無用なマネはせぬことだ」
 マリアの背後から、カオスが喜色満面と言った様子で、兵士達に話しかけていた。

 いかにオクムラが、死んでも構わないと言った所で、部下である兵士達は上官を見捨てる訳には行かないものだ。
 エミが、眠ったままのタイガーを操りながら、カオスに指示された所までたどり着くまで数十分掛かった。
 迎えに行く、と言うカオスの提案を、エミは断っていた。
 見えない兵士達のことを思うと、こちらの人数は最低限のほうが行動しやすい。
 彼らが攻撃してこないのは、こちらが女一人と眠ったままの操り人形だからだ。
 この危ういバランスを、こちらから崩すことは無い。

「次はエミ、お前じゃ」
 頭上からカオスが叫んでいる。
 エミはオクムラに微笑みかけると、彼の頭にわずかに残った髪を指で引き抜いた。
「これで、いつでも呪いを掛けられるワケ」

 エミは、眼下で不安げに見上げるオクムラに、右の手のひらを振って見せた。
 オクムラには言いたいことがたくさん有ったはずなのに、いざとなると出てこない。
 とりあえず、あんたの顔を見なくて、すむのは嬉しいワケ。
 胸の内でつぶやいて、オクムラの居る世界を後にした。

 あらためて見回すとそこに居るのは、後に残ったはずの面々に、おキヌを含めた五人だ。
 タイガーは、気絶した熊のように眠りこけている。
 雪之丞とおキヌが、タイガーの様子を、覗くようにして見ていた。
「なーに? 令子の事務所じゃない!?」
 エミの背後でカオスが、装置のダイアルをひねる。
 ワイヤーを張り巡らせた中で繋がっていた世界が、ハム音を残して消えた。
「良く似とるから間違うのも無理は無いが、ここは美神の事務所ではない。
 異空間の一つじゃ。元空間への逃げ道は、確保しとるがの」
「ふ〜ん。で、ここで何をやってるワケ?」
「何って、お前らを助けにきたに決まっとるじゃろ。
 ま、知的好奇心と言うやつも有るがの」

「そうだ、ピートは?」
「ピートはその先で寝てるぜ」
 雪之丞がテレビを指さす。
 テレビは画面の所が大きくえぐれて、向こう側が見えている。
「そこが逃げ道じゃ。厄珍堂に繋がっとる」
 さっそくピートの所へ行こうとするエミに、冥子が声を掛けた。
「ねえ〜〜〜〜、タイガー君どうしちゃったの〜〜〜〜?」
「麻酔ガスをちょっと吸い過ぎちゃったワケ」
 面倒くさそうに答えるエミ。
 冥子が小首をかしげて、ニッコリ微笑んだ。
「ちょうど良かった〜〜〜〜。いいお薬があるのよ〜〜〜〜」
「わーーーッ!! 止めとけよ!! タイガー殺す気か!?」
 慌てて雪之丞が止めにはいる。
「良く効くのに〜〜〜〜」
 冥子が頬を膨らませた。

「…ピートにイボ○ロリ飲ませたァ!? 冥子あんたって娘は!!」
「いいじゃない〜〜〜〜。治ったんだし〜〜〜〜」
 エミが手を上げると、冥子は頭を抱えてしゃがみ込む。
 おキヌがすぐさま止めに入る。
「あんたに任せたあたしがバカだったわ!」
 言い残して、エミがテレビの向こうに消えた。

 カオスとマリアが、装置を次にどこにセットするか相談している。
「いいんでしょうか、エミさんとピートさん二人きりにして」
 エミを見送ったおキヌが、雪之丞に話しかける。
「いいんじゃねえの?
 いくら小笠原の旦那でも、眠ったままのピートが相手じゃ、何も出来やしねえよ。
 それに、二人ッきりってワケでもねえしな」
 雪之丞はつまらなそうに、カオスの後ろ姿を見つめた。

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