ザ・グレート・展開予測ショー

東京ジャングル17


投稿者名:居辺
投稿日時:(03/ 1/20)

42.ネバーアゲイン
 もつれるように、地面に転がるエミとオクムラ。
 倒れたオクムラに馬乗りになって、エミがナイフを突きつける。
「どうする? 今すぐ、あんたの望み通り、殺し屋に戻ってやろうか?
 最初の獲物はあんたなワケ」
「くそ!! どうしてガスが効かないんだ!!」
 オクムラの目が、タイガーの後ろ姿を捉える。
 タイガーはエミを守る壁となって、兵士の前に立ちはだかっていた。
 奪い取った銃を、棍棒代わりに振り回している。
 やがて、散発的に発射されていた、ガス弾が途絶えた。
 タイガーは全てを受け止め、よろめきながらも倒れる気配が無い。

「量が足りなかったんじゃないの?」
 エミがナイフの刀身で、オクムラの頬をなぞった。
「さっさと武装解除するワケ!!」
 嘘だ。
 実の所、タイガーは、とっくに気絶している。
 今のタイガーは、エミの操り人形だ。
 タイガーの髪を植えたワラ人形を、さり気なくオクムラから遠ざける。
 エミはタイガーの身体を操りながら、自らも行動すると言う、綱渡りをこなしていた。

「通常弾だッ!! 通常弾を使えッ!! 男の方は殺しても構わん!!」
 エミの下になったオクムラが叫んだ。
 目に見えない兵士がガチャガチャ音を立てる。
「止めさせるワケ!!」
 エミのナイフがオクムラの首に食い込む。
「刺したければ刺すがいい。お前を連れて帰れば、私の仕事は成功だ。
 私の命などは、二の次で構わんよ。
 むしろ、私を殺すことで、再教育の一歩目になれば、最高だね」

 せせら笑うオクムラ。
 いくらエミでも、タイガーを通常弾の的にするのは気が引けた。
 コントロールを解くと、タイガーが、糸の切れた人形となって、倒れて行く。
 オクムラの唇の端が持ち上がる。
 エミは目を伏せるとナイフを引いた。
 オクムラが勝利を確信して、息を吐く。
「あんたには死よりも残酷な運命を、与えるしかないようね」
 エミがささやくように言った。
 安堵しかけた奥村の顔に奇妙な表情が浮かんだ。

「どうするのが良い? 次の中から選ぶワケ。
 一つ、光アレルギー。わずかな光でも浴びると肌が爛れる。
 二つ、1時間毎に1回、1分だけ心臓が止まる。それが一生続くワケ。
 三つ、誰の言葉も信じられなくなる。あんたの仕事にぴったりかもね。
 四つ、一切の隠し事が出来なくなる。仕事できなくなるワケ。消されるかも。
 五つ、ナメクジとゴキブリしか食べられなくなる。他の物は食べても吐いてしまう。
 六つ、上司の顔を見ると吐く。これなんか意外とお勧めなワケ。
 七つ……」

「いい加減にしろ!!」
 背後から、誰かが怒鳴った。
 見えない兵士の一人だろう。
 微かだが、草を踏む音がする。
「近寄らない方が良いワケ。こいつに掛ける呪いの、とばっちりを喰うワケ」
 草を踏む音が強くなった。兵士達の動揺が手に取るように分かった。
「さ、どれが良いの!? 答えるワケ!!」
 エミがオクムラの胸ぐらを引き上げた。
 首が絞まって、苦しいのだろう。
 オクムラは無言で、必死に首を横に振る。

 意地の悪い微笑みを浮かべたエミの、視線がオクムラの頭に注がれる。
 ぴっちりと撫で付けられたそれは、オクムラがどんなに頭を振っても乱れることは無い。
 エミの視線に、気付いたオクムラが恐怖の色を浮かべた。
「昔ッから気になってたんだけど、あんた、ヅラ?」
 エミは意地悪な笑みを浮かべると、オクムラの頭に手を掛け、強引に引っ張った。
 バリバリと音を立てて、頭皮が剥がれていく。
 オクムラが悲鳴をあげた。
「くッ!! 蒸れてるワケ」
 エミがカツラを放り投げて鼻を摘んだ。
 オクムラは両手で頭を押さえて泣きわめいていた。

「決めた! あんたへの呪いはこれよ」
 エミがオクムラの頭のてっぺんを、手のひらでピシャリと叩く。
 そこには、まばらな髪が、場違いですいません、と言わんばかりに生えている。
「ここから角が生える。毎日少しずつ伸びて行くワケ。
 頑張って削るといいワケ。神経通っててかなり痛いだろうけど」
 それを聞いたオクムラが暴れ出すのを、エミは鉄拳でおとなしくさせた。
 その時『茶色いお砂糖』が流れ出した。
 エミはオクムラの胸ぐらを放り捨て、携帯電話を手に取った。
「カオス? 何の用なワケ? 今忙しいワケ……。
 ……ナニそんなに興奮してるワケ?」 

43.復讐の女神
「死になッ!! 美神令子!!」
 メドーサの一撃に、神通棍が軋む。
 流し切れずに放り出された美神を、誰かが空中で受け止めた。
「大丈夫か、令子さん!?」
 青年が腕の中の美神に話しかける。
「あんた、誰?」
 両手で押しのけようとするが、青年の力は強く、かえって身体を押し付けてしまう。
「危ない! 落ちるって!」
 青年は美神の身体をしっかりと抱えると、木立の一画に着地した。

「メドーサ!! 相変わらず悪ふざけが過ぎるようだな」
 青年がメドーサに指先を突きつける。
 美神は青年の手を振りほどいて、木の影に逃れた。
「現れたね、ヨコシマ。その女と遊んでれば、必ずやって来ると思ってたよ」
 ニヤニヤと笑いながら、メドーサは刺股(さすまた)の柄をしごいた。
 美神が目を見張る。
 ジャケットにネクタイをルーズに締めたこの男、確かに横島の面影がある。
 しかしそこに居るのは、美神の知らない横島。
 本物よりカッコいい横島だった。

「令子さん、ここで待ってて」
 横島は美神に微笑むと、駆け出して行った。
 呆気に取られた美神の顔が、みるみる赤みを増していく。
「カッコいい横島なんて、横島じゃないわよ!!」
 自分の顔が真っ赤なのを自覚しながら、美神は地団駄を踏む。
「だいたい、貴様いつからそんな偉そうになった!!」

「お前、今すぐ謝ったほうが、いいんじゃないか?」
 メドーサがニヤニヤしている。
「いやいい。いつものことだし」
 青年横島が冷や汗を拭った。

 ジャケットのポケットから、ザラザラと文珠を取り出す。
 横島は手のひらいっぱいの文珠に『攻』と『護』の文字を込め、宙に浮かべた。
 文珠が人工衛星のように、横島の周りを回り始める。
「昔のアニメがヒントだ。ν横島とでも呼んでくれ」
 文珠の飛行速度はグングン上がって、目で追うのが困難なほどだ。
 淡い輝跡を残して、文珠から数本のビームが発射された。
 メドーサがステップして、かわしたのを合図に、横島が霊波刀を構えて突っ込んでいく。

 文珠はビームを出したり、盾を出したりしながら、メドーサを追いかける。
 少しでも止まれば、周りを文珠に取り囲まれることになる。
 文珠からの目まぐるしい攻撃を、メドーサは辛うじて捌いてみせた。
 全身いたる所に、ビームを受けているが、掠った程度で済ませている。

「う〜ん、これをかわすとは、さすがだな」
 言いながらの横島の攻撃を、メドーサは受け止めもせずに背後に回り込む。
 横島の影になったメドーサを、追って文珠が回り込む。
 至近距離から、メドーサが霊波を放出する。
 背中にメドーサの手の感触を感じた途端、横島はしゃがみ込みながら、霊波刀で背後を攻撃する。
 背中に太い焼け焦げの線を残して、メドーサの霊波が通りすぎる。
 一瞬遅れて、文珠からのビームが数本。
 しかし、メドーサはもうそこには居ない。
 刺股を使って、棒高跳びの要領で、横島を飛び越えている。
 空中からの刺股の一撃を、横島が辛うじて受け止めた。

 すぐに刺股を引いて、横島から距離を取るメドーサ。
 文珠が追撃のために、メドーサを追いかけていく。
「遅いッ!!」
 メドーサの髪からビッグイーターが、次々に飛び出してくる。
 ビッグイーター達は、空中の文珠と横島に襲いかかっていった。
 動きの速い文珠に対して、ビッグイーターは数で応戦していく。
 1匹を犠牲にして、その間に回り込むと言う戦法で、少しずつ文珠は破壊されていった。
 文珠とビッグイーター双方が数を減らしていく中、美神はメドーサが、姿を消したことに気付いた。

 横島は少しでも文珠を残そうと、ビッグイーターに切り掛かっていた。
 メドーサの気配が消えたことは分かっているが、ビッグイーターを残すと後が怖い。
 いきおい意識はビッグイーターに向いてしまう。
 不意に、背中に当たった感触。
 驚いて顔を向けると、そこには美神の横顔があった。
「こっち見るな!! 目の前に集中するのよ! メドーサは絶対にまた来るわ!」
 横島は苦笑いしながら、目の前に来たビッグイーターを叩き切る。
「令子さん、危ないって。出てこなくてもいいのに」
 脇腹に美神の肘が突き刺さる。
 横島の身体が折れ曲がった。

「あんた、もう1回教育し直す必要があるようね!」
 神通鞭が空中のビッグイーターを捉える。
 引き裂かれた出来の悪い鯉のぼりのように、空中を漂いながら消えていく。
「いくら、修行して能力を高めた所で、あんたはあたしには敵わないのよ!!
 思い上がるのもいい加減にしなさい!」
 向こうを向いたままの横島が、楽しげに聞いてくる。
「久しぶりに聞いたなァ、令子さんの啖呵(たんか)。昔を思い出すよ。
 それはそうと令子さん、なんか声が若返ってるんだけど、また新しいエステ見つけた?
 俺のために若く居てくれるのは嬉しいけど、事務所のお金を注込むのは、いい加減にした方がいいよ。おキヌちゃんが泣いてた……」
 美神は神通棍を横島の首筋に当てた。

「今度、その口でレイコって呼んだら、その場で殺すからね」
 ドスの利いた声に横島が慌て出す。
「あれ? れい…、美神さん? なんだかとっても懐かしい雰囲気?」
「何でもいい。今はメドーサを倒すのが先決よ。話はその後ッ!!」
 美神の神通鞭が、最後のビッグイーターを撃ち落とした。

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