ザ・グレート・展開予測ショー

未来掲示 別編 ラプラスの語り30


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(03/ 1/ 4)

其処は一筋の陽光も蛍光灯も無い薄ぐらい部屋である。ある特殊な牢屋だ。
貴方はどうしてもその鬱蒼とした部屋の奥に行かねばならなかった。
=なっ?居てるのか=
悪魔ラプラス確実に未来を映し出す能力を持つ。

待ちなって、未来ってのは無限の可能性がある。それと同等の数の俺がいる訳だがな。
それでも聞きたいのなら、俺が知っている未来を語ろうじゃないか。そう忠告を一つ。
・・。俺は何も持ってないぞ。鍵も。テッシュも。

横島が法的におとなになるにゃ何年必要だい?
そう大体3〜4年だ。だがな。男ってのは馬鹿なモンだぜ。もう一昔前のコトになるのにをひきずっちまうのさ。
今は夕日のきれいな気だるい時間、真っ赤な太陽を浴びている横島は上空にいる。
東京タワーの展望台の一箇所。そこに立ち尽くしている。
「また・・来ちまったよ。ルシオラ・・」
横島は泣いている・・。今はそっとしておけ。

俺の感覚ではほんの少し、ほんのちょっぴりなんだが、普通の時間ではかなり長くいたんだろう。
日が沈む最後まで見届けてから、横島はベンチに向かってな。
そこに女が一人いたんだ。
「もう、いいのかい?」
「太陽も沈んだからな。悪いな急に付き合ってもらって」
「・・・・いや。いいんだ匿ってもらってるからな」

匿ってもらってる。つまりは逃げ出したって事だな。この女は。
おっと誰だか言ってなかったな。そう正確には女ではない。魔界に属する者だからな。
もう予想はついてるだろう。べスパだ。
もう一つ教えよう。パピリオは問題なかったんだ。
だが、
「怖いものだな。死期が判るのは」
元々のリミットが来たのか、はたまた病気か。そんなことはどうでもいい。
あと数時間しかないってのが現実だ。
・・・。俺の知ってる確定した未来だ。
「どこか、行きたいところはあるか?」
「ある」
そこが、海ほたるであることは賢明な聴者諸君には判ろうってものだ。
前にも言ったが横島はもう成人男性だ。
車の免許なんぞはとっくに取得しているぜ。
余談だが、車種はヴォルクス・ワーゲンだ。
激しい仕事をする男にゃうってつけの車だな。
・・・。ほんとに余談だな。こいつの助手席に、珍しく魔界に属する者が身を任せたのさ。

「なぁ」
潮風のあたる人工的な波止場にゃ車を止めてな。
幸か不幸かこの三年後にゃこの道は車両数も激減していてね、
あたりは静かな物さ。
波音を静かと感じることが出来るのならな。
渡り鳥の鳴き声を静かと感じることが出来るのならな。
「なんだ?横島」
「どうして・・お前は魔界から逃げるような事を」
「ふっ。そういえば話してなかったね。そう間に合わなかったのさ。除隊届をだしたりしたらな」
お役所仕事ってのはどの世界でも面倒な手続きが付き物って奴でね。
「どうしても来たかったのさ。地上に」
あいつが・・愛したこの風景をとは言えなかったようだぜ。
胸が詰ってな。

そうだな最後になる前に二人の邂逅だけ説明しておこうか。
男子三日合わざるば克目せよ、なんて諺があるがね。その通りよ。
今となっては元オーナーの美神令子よか一目置かれているってワケよ。
だからこそだ。危険な波動をキャッチしたICPOが横島に危険な依頼を願い出たのは。
「大丈夫?横島クン、私も行こうか?」
なんてしおらしく伺う美神令子だったがね。
「いや、大丈夫だよ。それよりも・・・」
お腹の子供たのむぜ、だとよ。
・・・。これは俺の知ってる未来だ相手が違う未来も無限にあるんだぜ。
でだ。様々な怨霊をなぎ倒した先に知り合いの悪魔がいたって寸法さ。
「おい、どういう事だ?べスパ」
最初は胸倉をつかもうとする勢いだがな。その勢いが削げたのも無理は無い。
「けほっ」
吐血こそ無かったが、その顔色やつれた様子から弱ってるのだけは見て取れたのさ。
「お前・・一体」
その問いには答えずに。
「た、たのむ匿ってくれ。ほ、ほんの数日なんだ」
虫の息って奴よ。
今は辛うじて文殊の力で呼吸が整っているって程度だ。
残念だが、死期を捻じ曲げる程の力はこの時持っていない。今の横島にはな。

あの時、人間がジャッチメント・ディと歴史に名を残すその日と同じ三年後の、
同じように風の少々ある強い日の夜さ。
男と女が波止場に一組。
何も言わない。・・いえないンだな。
少々の沈黙はどの種にもある程度の安堵をあたえようが、過ぎると妙な雰囲気さ。
そいつを破ったのは・・女のほうからだ。
「お前に一つだけ聞きたい」
「なんだい?」
「・・もしもだ。女の子が生まれたらなんて名前をつける?」
「なんだよ突然」
「頼む。教えてくれ」
蛍、そう言ったんだ。小さな風にかき消されそうな弱い声と、
ちょっとばかりの照れを含んでな。

不意にだ。
横島に身を任せ泣き出しちまったんだ。
「うっ、うぅう」
「ど、どうしたんだよ?べスパ」
「わ、私はあいつがうらやましい。あいつの魂は生きている、でも、でも!」
べスパが本気で愛した相手は・・今更言うまでもなかろうが、アシュはもうこの世の、
否!全世をめぐっても会えない相手なんだ。
「・・べスパ」
抱きしめたその体は弱弱しかったンだそうだ。
もう既に事切れ始めている。
「約束するよ、もしもだ。蛍に妹が出来たら・・名前はべスパお前の・・」
だが、最後を聞き取ることの出来ないべスパにとってやれる最後の行為は。
真っ青になった唇をつけるだけだったのさ。幾ばくかの笑顔と共にな。

再度の沈黙を破ったのはだ。何処から現れたのか魔界の女軍人よ。
「・・・礼を言わせて貰うよ」
「そうか。礼を言われた告いでだ。こいつの亡骸は俺に任せてくれ」
「あぁ。・・。それとな単なる紙切れなのだが」
べスパの魔界軍除隊書が手渡された。

それから更に数年後だ。もう諸君にも馴染みの白井病院でな。
「おめでたですな。横島さん」
「うふふ。でも二回目だからもう前みたいに取り乱しはしないわ」
で、男の子かどうか聞くと、女の子らしい、という答えが返ってきてね。
名前は蜂から連想してハチミツ。それから転じて満子だそうだ。
せめて
せめて、この俺もその子が幸せに満ち足りた生活を送れることを祈るね。

-くくくく、忠告したはずだぞ。俺は何も持っていないと-
この話は貴方の心を青色に染めるに十分な内容であることは間違いない。
堪えていた感情が迸るのも時間の問題だ。
あまり見せられたものでない表情を隠す。
せめてハンカチでもあればと探す貴方にラプラスは一言。
=泣いているのか・・=

新春ラプラス三部作
FIN

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