ザ・グレート・展開予測ショー

心は共に・5


投稿者名:マサ
投稿日時:(03/ 1/ 4)

「あら?そう言えば、お姉ちゃんは一緒じゃなかったの?」
窓を開けつつ、義母が思い出したように尋ねる。
室内に流れてくる冬のつん、とくる冷気が温かい室温に慣れた頬に気持ち良い。
「えっとね、……山田先輩とデートだとか、そんな事じゃないのよ。……えーと、その…バスケット部の助っ人で熊と試合するから帰りは遅くなるって………」
早苗との約束を守ろうと頑張ったものの、焦った勢いか、どう考えても冗談にしかなっていない。
人、それを〔墓穴を掘る〕と言うのである。
土台、真っ正直な彼女に『人を誤魔化す』などという高等技術を求める事自体が無理な話かも知れないが。
「………ウソはお止めなさい……」(汗)
「…分かっちゃった……?」(汗)
「……ええ…」
静かに、深い溜め息と共に義母は言った。
もはや、怒る気力さえも萎えてしまった為に。
「≪うぅっ、お姉ちゃんごめんなさ〜い…≫」
心の中で静かに姉に謝る事しか出来ないおキヌであった。
否、本当は人選を誤った姉・早苗に非があるような気もするのだが。



その後、やはり遅くに帰ってきた早苗。
「ただいまー」
言付けていても、やはり家の扉を開ける時には人間というものはふと自分の行動を冷静に考えてしまうわけで、遅くなって家族の心配などを掛けているのではないかと考える。
そのため、口から出る声は普段よりも1オクターブ下がり、心持ち小さかった………と本人は思う。
しかし………。
暫くその場(玄関の三和土)で早苗は立ち止まる。
返事が無い。
家には確実に明かりが灯っていた。
玄関と、茶の間と、妹の部屋と…。
此処で、自分の人選の誤りに気付く早苗。
「……おキヌちゃん、巧くやってくれたべか…?」
小声で確認の必要も無さそうな事を呟いてみる。
人間、窮地に陥ると良い方向に物事を考えたくなる習性があるらしい。
のそり、と歩みを進める早苗もその行動とは裏腹にその様な心境なのであった。
こういう時ばかり普段は適当に散らばらないように脱ぎ捨てる靴も何故か揃えてしまうのも、またそうなのだろう。
すぅー、と柔らかい摩擦音を立てて茶の間の襖を開くと、目に飛び込んだのはコップに入った酒を片手に炬燵に突っ伏している父の姿。
それが、今の早苗には妙に背筋に冷たいものを感じさせるものがあるわけで…。
「…帰ったのか?」
俯いたまま父がぽつりと言った。
驚いてびくりとする早苗だったが、取り敢えずは刺激しないようにと努める。
「うん。まんず、遅くなっちまって許してけろ」
当り障りの無いように、先ずは謝っておく。
状況が掴み切れない内は、これが妥当な方法ではなかろうか。
「大体、いい年の女の子が遅くなる時はそれなりに前々から計画を立てておきなさい。………友達と街の方まで行ったって?
「あ、うん」
大した事の無い話だったため、ほっと安堵しつつ、話をあわせて置く早苗。
「まったく、子供ってのは何時の間にか大きくなって…。……で、楽しかったかい?」
最後の方で語調がふっと優しくなる。
「うん、楽しかっただよ」
笑顔を作り、そう答える。
しかし、こうやって面と向かって相手を騙している事に早苗が罪悪感を感じた事も事実だった。
「そうか……」
一言呟くと、父はゆっくりと眠りの底へと落ちていった。

「父っちゃ………」

「少しは反省した?」
「え?」
振り返ると、襖を隔てて廊下にたっている母とおキヌの姿があった。
「ごめんね、お姉ちゃん。義母さんにはバレちゃった」
申し訳無さそうにおキヌ。
「てことは、もしかして…」
「父さんは母さんが誤魔化してあげました。父さんが知ったら面倒だから」
腰に手を当て、目を細める母。
「母っちゃ、まんず、ありが…」
「但し、今度、その山田君に会わせなさい」
「え?!」
早苗の言葉を遮って母から発せられた台詞に驚くしかないのであった。
否、正確に言えば、擂り粉木棒を持った母の右手に力が入った事によるもののような気もするが、……見なかった事にしよう。












=暫くして=


ばりっぼりぼり…
ばりっぼりぼり……

炬燵とストーブで温まる二人の煎餅をかじる音が茶の間に響く。
勉強と称して暖かい茶の間に逃げ込んでいるのだ。
因みに、父は寝室に運んだため此処にはいない。
「ねえ」
早苗が隣で一緒に煎餅を食べているおキヌに声をかける、が。
「…………」
返事が無い。
「おキヌちゃん?」
「………」
「ねえ、おキヌちゃん」
「…ふぇ?…あ、あに?ふぉふぇいふぁん」<…え?…あ、何?お姉ちゃん>
少し声音に力を入れてやっと気が付いたようだ。
驚いて口に煎餅を咥えたままなのがかなり可愛いではないか。
「なぁにぼーっとしてるの?嬉しそうなのはいいんだけど」
「別に大した事じゃないんだけど…そう見えるかな?」
口に咥えた煎餅を取っておキヌが苦笑しつつ答える。
彼女にとってはどうでもいい事のはずだと思っていた事であるだけに。
「うんっ!」
笑顔で無意味に大きく頷いてみたりする悪戯好きな姉であった。
「で、どうしたの?…男?」
「そんな事じゃないってば」(汗)
「じゃあ、何?」
炬燵に前のめりに凭れると横目でおキヌを見る。
「唯、今日の帰りに見た人が何処かで見たような気がするだけだってば!」
「ふっふっふぅ…もしかして〔運命の出会い〕ってやつでねか?」
本日のお茶目なお姉さまはフル稼働中らしい。
「話が飛躍しすぎじゃないかな?」
「夢は大きく持つもんだべ」
「もう、お姉ちゃんたら」

この日は母から「好い加減に寝なさい」と言われるまで延々ときゃぴきゃぴした会話が続いたのだとか。












=次の日=(おまけ?)

「≪結局、あの人たち誰なのかな?≫」
下校時刻、おキヌが帰ろうと校門の前まで来た所で後ろから声が聞こえた。
「氷室さ〜ん!」
「え?」
ふと我に帰って見ると、二階の教室の窓からクラスメートが顔を出して右手に自分の鞄を掲げている。
「忘れ物〜!」
「あ〜!?」
口に手を当て、驚いた素振りをするとおキヌは急いで取りに戻っていった。

で、それを見ていた人物もしっかり居るわけで…。
「あ〜あ、何ドジしてんだべか」
「いんやぁ、でも、あ〜ゆうのさ、まんずめんこい(可愛い)けんどなぁ」
ぼぉーっとおキヌの姿を見ている少年が一人。
「…おい、山村。お前……」
「あ、あはははははははっ」
照れながらも、幸せそうな山村であった。




                   ――続く――

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