ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−26


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 1/ 4)












 ねぇ?

 こんなつもりじゃなかったの。

 私はただ・・・お前に会いたかっただけ。

 私が本当になりたいのはお前の恋人。お嫁さん。

 転生した私の目の前で、お前が別の女性と・・・。

 私はその愛の結晶。

 理性では納得したけれど。感情が追いつかないの・・・。

 ねえ?

 お願いだから私を殺して?

 そうすることで分裂した私は最後の一体に集約する。

 それは分の悪い賭け事。

 クローン体の寿命は一年が良い所。

 その一年に私はお前の子供を身篭る。

 クローン体はただの保育器。

 そして私はその子供に転生しましょう。

 お前の恋人であり、妻であり、娘である私。

 16分の1の私達。

 それが一つになる時。



 その時こそ、私が私になれるから。




 その時こそが、残留思念の私に残された最初で最後のチャンスだから・・・。






















「アンタに力を貸してあげるよ」




部下を殺した女に相対するヤマサキ。

「はぁ・・・どちらさまで?」

「アタシの名はメドーサ」

言われて脳内書庫を検索するヤマサキ。

「おお〜、おお〜、おお〜♪
 元竜神族の方でしたね〜♪」

「そうさ、そのメドーサだよ」

自嘲気味に答えるメドーサ。
大方、ヤマサキの持つデータはこんなところだろう。
アシュタロスの部下。
宇宙で、空で、二度横島に殺された元竜神族。

――――この任務が成功したら、二度が三度になるかも知れないねぇ・・・。




「で、私に力を貸してくれると?」

言って通路を見渡すヤマサキ。
部下達は全員殺されており、どう考えても目の前のこの女の仕業だ。
自分に力を貸すと称して何をさせようと言うのか。

「ああ、こいつらね。
 アタシの姿を見た途端に攻撃してきたから片付けただけさ。
 特に意味はないよ。
 そう。アンタを除いて生死に意味はない」

「それはそれは〜。
 私を高く評価されてるようで〜♪
 もしかして目的は下に来てる連中かな?」

「まあね。
 アタシと奴らの因縁は知ってるだろ?
 丁度良いから嫌がらせしてやろうかと思ってね」

「嫌がらせで殺される方は堪ったもんじゃありませんね〜♪」

「それはお互いさまさ。
 で、どうするんだい?
 アタシと組むかい?」


人生の瀬戸際状態のヤマサキの答えはYESしかあり得なかった。







研究所内地下3F。


「横島君・・・・」

それ以外言葉が出ない。
立体映像で見た時よりもずっと衝撃が大きい。

横島の石像の前に集う一同。
見て、触れて、それが横島であることを確認する。

「どうして同じ人間にこんなこと出来るんですか?!!!
 どうして同じ人間がこんなこと出来るんですか?!!!」

おキヌの激昂に美神は答える術を持たない。

「同じ人間だからじゃよ」

カオスが装置を調べながら答える。

「齢1000歳を越える人生で分かったことがある。
 世の中で一番残酷な種族は人間じゃよ。
 思想、宗教、国家。
 色んな理由を付けて同族を殺す。
 科学に携わる身としては、このくらいの光景は良く見たもんじゃ・・・」

「でも私は「私はそんなことしません・・・か?」

おキヌの否定の言葉を遮るカオス。

「美神も知っておるじゃろ?
 あのマリア姫も抜けているところはあったが、それは人の良い人間じゃった。
 当然、民衆を愛し、民衆に愛される方じゃった。
 じゃが数百年後に訪れたあの土地の領主――――マリア姫の子孫は民衆を虐げる暴君じゃったよ」

重い、カオスの重い言葉に返事が出せない。
小竜姫やヒャクメはそれ傍観せざるを得なかった体験から。
タマモは朧気に残る前世の記憶から。
シロは郷里の長老達から聞いた迫害の歴史から。
それぞれに胸に去来するところがあるのだろう。

「ウムッ!何とかなりそうじゃ!!」

自分がネタを振ったのだが、さすがに不味いと思ったのか。
カオスが殊更明るい声を上げる。

「ほ、ほんとですか?!!」

直前の嫌な思いを封じて、おキヌが、シロが、タマモが、小竜姫が、そして控えめに令子が喜びを表す。

「まずは地脈からこの装置を切り離す。
 悪いが神族連中と総出で地脈を塞き止めておいてくれ。
 5分とかからんよ」

そうニヤリと微笑んだカオスは確かに頼もしかった。














「それで具体的にどんな風に協力してくれるんです?
 お恥ずかしい話、私に戦闘能力を期待してもらっては困るんですがね〜♪」

「最初からそんなの期待してないよ。
 ついて来な」

そう言ってメドーサはクローン室へ向かう。
慌ててついて行ったヤマサキが見たのは、妖しい子供――――デミアンと、整然と並んでいるルシオラクローンだった。

「これは・・・?」

「アタシ達の技術と魔力で、お人形さんに仮初の命を吹き込んだのさ」

「自意識を持たせた・・・のとは違うのかい?」

「違うね。
 所詮、人形は人形さ。
 誰かが指示を出さなきゃ動かない」

「で、私に指揮を取れ・・・ってことかな?」

「ま、そんなとこだね。
 そいつらはアタシとアンタ、それにそこのデミアンの指示にしか従わないようにインプリンティングしてあるよ。
 命令はそいつらの能力を超えない範囲で、大雑把なものから細かいものまで可能だ」

「その間、メドーサさんとデミアンさんはどうするつもりで?」

「アタシとこいつは普通にやるさ。
 人形に頼らなくても戦えるからねぇ」

――――なるほど・・・横島君の憎悪を主に私へ向けさせるつもりですか。

「分かりました。
 私に選択肢はなさそうですしね♪
 待ちましょうか?
 彼らがやってくるのを」


自分が生贄の羊に祭り上げられていることを薄々感じ取りつつも、ヤマサキは戦闘中に流れが変わるのを期待するしかなかった。














シューッ




徐々に徐々に黒い箱が開いていく。
その様はまるで花の蕾が開いていく様を超微速カメラで見ているかの様だった。
見れば横島の灰色の肌も徐々に血の気を取り戻しつつある。
その様を固唾を飲んで見守る一同。
逆にカオスは全ての神経を装置に集中させている。
ほんの少しのミスが横島に後遺症を残す恐れがある。
ヨーロッパの魔王カオス(シリアスバージョン)をもってしても、それがどんなモノなのか想像も付かない。
額に玉の汗が出来る。
マリアがそっとそれをハンカチで拭き取る。
そんなマリアの気遣いに満足しつつ、その手は止まらない。
既に横島は全身が現れ、シートに固定されただけの状態になっている。
ここからが正念場だ。

フーッ

カオスのそんな溜息一つに一同はビクッとなる。
ミスったのか?駄目だったのか?そんな視線がカオスに集まる。
そういうわけではない。そんな意味を込めて首を横に振る。
普段ならそこで『紛らわしい真似すんじゃない!』と令子の一撃が飛んでくるところだが、彼女は微動だにしない。
ずっと横島の顔を、姿を見つめている。
その胸に去来するのはどんな思いなのか。
その姿を茶化すわけでもなく、押しのけてカオスが最後の作業にかかる。
固定シートからの切りはずしだ。
黙々と機械を弄る音がする。

そこに別の足音が聞こえ始める。

――――新手か?

一瞬の緊張ののち、姿を表したのは美智恵達だった。

「他の神族はどうしたのねー?」

「全員助け出したけど、消耗が激しいので休んでもらってます」

「もう作業も大詰めのようだな」

その視線の先では令子とマリアが倒れそうになる横島の身体を支え、カオスがシートを分解し始めていた。












そして横島は解放される。







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