ザ・グレート・展開予測ショー

『#当選者2人SS! 月夜 星夜 静夜』


投稿者名:六勲狼流
投稿日時:(03/ 1/ 3)

 目が覚めた。あまりにも突然に。


 瞼に痛みすら覚えるほど、泪がとめどなく溢れ出る。寝ている間に溜まっていたのかしら? 私は、真剣にそんな事を考える。

 窓には月。漆黒のカーテンから漏れる、丸く、白い光明。夜に映える――夜にしか存在できない、青白い、光の帯。

 周りには星。都会の喧騒から離れて、空に静謐をもたらすべく散りばめられた夜空の地図。最近そんな事考えた事あったかしら? 窓を開け、冬の寒気をも肌を刺すに任せた。



 掌に、熱い滴。

















 泪。















 熱く、温く、そして、冷たく冷えてゆく私の一部。落ちたのは一滴だけ……あとは腕で拭った。あまりにも……私自身が惨め過ぎるから。



 こんな真夜中じゃなきゃ、こんな事は考えなかった。
 昼間の私は、明るくいられる。後輩たちの前で、暗い顔を見せるわけには行かないから。
 夜の私も、素直でいられる。ようやく廻り合えた、本当の気持ち。それは、決して手放したくないから。



 真夜中。


 真夜中の私は、ときどき泣く。私の惨めさと、私の幸せの為に泣く。




 私は幸せ――あなたは幸せ? 夜空に問いかけ、その感触に泣く。私は幸せ――あなたは幸せ?――あなたは、幸せだったの? その感触に、泪が頬を伝う。




 遠くで犬の遠吠え。
 それに反応する近所の野良犬たちが、吠え声の競演を開始した……

 私は叫んだ。犬の声にあわせて。

 私は泣いた。犬の声にあわせて。


 こんなの、『フェア』じゃない。私は結局、永遠にあなたに勝てなくなってしまった…… 既にあなたは、彼の心の一番奥に巣食っている――こんなの『フェア』じゃない。
 戻ってきてよ。もう一度勝負よ。あの時の私は、自分の気持ちに気づかない馬鹿だった。
 今ならわかる。あなたの気持ち。だからもう一度勝負よ。勝ち逃げは――許さない。こんなの『フェア』じゃない。私がスタートする前に、あなたは駆け足で私を追い抜いて、ゴールの遥か向こうまで走っていってしまった。

 負けよ。ええ私の負けよ。誰もあなたには勝てはしないわ。あなたは勝った。彼の心の中で、あなたは永遠のものとなった。でも、それがなんだって言うの?



 私は幸せ。あなたは幸せ? あなたは負けない代わりに、あなた自身の勝ちをすっぽかしちゃったじゃない? 私は幸せ。私は――



 隣でもぞもぞと人が動く気配。ベッドから起き上がり、隣を覗き込む。



 ――私は、幸せ。
 あなたは――――



 私は立ち上がった。ベッドの脇から立ち上がった。ベッドの膨らみに微笑し、部屋に置いてある冷蔵庫から、缶ビールを取り出す。

 二つ。

 唇が緩む。自然と、足取りが軽くなる。
 再びベッドに腰掛けて、私はチェストに缶を置いた。キンキンに冷えた缶ビールは、誰かが開けてくれるのを今か今かと待っている。
 隣のベッド、その膨らみを覗き込んだ。
 息が掛かる――それ程近くで、

「起きてるんでしょ?」

 私は囁いた。







































 ――私は、幸せ。
 あなたは、幸せ?



 私はあなたにはなれない。私は、あなたに永遠に勝てない。――でも。
 私には『今』がある。あなたがなくした『今』がある。

 いいわ。彼の過去はあなたにあげる。――でも、私には彼の『今』がある。これから創って行く、『未来』がある。
 あさましい女と笑う? それでもいい。私はあなたに勝ちたいのよ。だって、私には『今』がある。誰もあなたには勝てないけれど、私だけは、あなたにも負けない『これから』を持っている。

 そうよ。私はあなたに負けた。でも、あなたも私に負けた。
 これでようやくイーブンなのよ。そして私は『これから』を持っている。あなたにはない、これから創って行く『未来』を持っている。
 だから私はもう泣かない。あなたの為には、もう泣かない。
 私が泣くのは彼の為。あなたの為に泣く彼の為に、私はこれから泪を流す。

 こびり付く泪を手で拭い、私は缶ビールを放り投げた。ベッドに落ちた一方の缶を、大きな掌が拾い上げる。
 プルトップ缶を開け、泡が飛び散り顔に掛かるのを見て、私たちは笑った。
 真夜中の月光の中、私たちは乾杯した。泪と共に一気に飲み干し、私はまた笑った。

 私たちは笑った。星明りの中、二人で笑いつづけた。

 月と星は黙って私たちに煌々と光を投げかけつづけていた……

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