ザ・グレート・展開予測ショー

横島 IF 第四話 (B)


投稿者名:777
投稿日時:(03/ 1/ 1)

一陣の風が、俺達の間を吹き抜けていった。

剣を取り落としたまま、小竜姫様は動かない。黙って風にその身を晒している。



『つんつん』

鼻の頭をつっついてみる。・・・動かない。



『つんつん』

胸部のふくらみをつっついてみる。・・・動かない。(←セクハラ)


『つんつん』

『びくっ』

角をつっついてみると、びくっとなってようやく再起動した。



「今…何とおっしゃいました?」

再起動した小竜姫様が、震えた声で尋ねてくる。その問いに、俺はもう一度同じ言葉を繰り返す。

「俺もあなたも、『肉メイツ』なんですよ…」

「何を…何をおっしゃって――」

小竜姫様の泣きそうな声。その声にかぶせるように、俺は彼女の耳元で囁く。

「俺の前では、もう何も隠さなくても良いんですよ」

その言葉に小竜姫様は感極まったか――俺の胸の中に飛び込んで泣き始めた。

「辛かった!今まで辛かったんです!――私の師匠は食事に厳しい方で、お肉なんて100年に一度…それもちょっとしか食べさせてくれなくて!子供の頃はたくさん食べれたのにっ!――――俗界のてれびじょおんで見るお肉の数々がどうしても食べたくて……けれどっ!私はここの管理人なんです!」

泣きながら、溜め込んだ思いを吐露する小竜姫様。ちょっと可愛い。思わず、俺はその小さな背中を抱きしめる。俺に抱かれたまま、小竜姫様は叫び続ける。

「門のところに『肉携帯者以外立ち入るべからず』っていう看板を出したこともありました! 鬼門達を焼いて食べようとしたこともあります! でも、でも!…いつも、師匠に見つかってしまうんです!」


待て。あんたそんなことしてたのか。


「今では…たまに訪れる修行者の方々だけが楽しみに…」


さらに待て。今なんて言った。


「あの…小竜姫様? そう言えば、ここの修行場は『パワーアップか死か』らしいですが…パワーアップできなかった方の遺体はどこに?」

俺の問いに、小竜姫様は。














「・・・・・・・・・えへ♪」(←いい笑顔)










やばいやばいやばい!徹底的にやばいです美神さん!!

『おキヌ鍋』ならともかく『美神鍋』は食べたくありません!俺の生活がかかってるしっ!

義弟として直ちに逃げ出すことを推奨しますっ!



だが――俺の背中に回された小竜姫様の腕に、力が込められる。



「ちゃんと公平な戦いなんですよっ!三人に一人はパワーアップして下山しますしっ!」



残る二人はどうした。



「まさか逃げたりなさいませんよね? 私たち、『肉メイツ』ですものね」



退路、断たれる。

『肉メイツじゃなかったら仏罰決定』と目で訴える小竜姫様。

そんな彼女に、俺は何が言えるのだろう?







「なぁにをやってるんですか!横島さん!小竜姫様もっ!」

俺の窮状を救ってくれたのは、おキヌちゃんの大声だった。

「あんまり遅いから心配して見に来てみたら、二人とも抱き合ったりなんかして! 美神さんが待ちくたびれてますよ!」

おキヌちゃんの言葉に、慌てて離れる俺と小竜姫様。おキヌちゃんがジト目でこっちを睨んでいる。

「アー、小竜姫様は抱擁菩薩と言ってネ、抱きしめられるとその年一年の無病息災が約束されると言う神様ナンダヨ。疚しい気持ちなんてこれっぽっちもないんだヨ?」

嘘八百でごまかしてみる。

「なんだ、そうだったんですか」

信じたっ!?

「そうそう、横島さん、早く着替えてください。美神さんが待っていらっしゃるそうですから」

話を戻す小竜姫様に急かされ、慌てて着替えに行く俺。









逃げるチャンスを失ったことに気づいたのは、異界空間に入ってからだった………。



――――――――――――


脱衣場を抜けた先にあったのは、地平線すら見えるほどに広大な空間だった。

「ここは異界空間です。人間界では、肉体を通してしか精神や霊力を鍛えられませんが、ここでは直接、霊力を鍛えることが出来るんですよ。――――美神さん、その法円を踏んでください」

小竜姫様が床に書かれた法円を指し示す。

「初めて見る法円ね…踏むとどうなるわけ?」

美神さんが法円を踏む。すると、美神さんの身体から何か巨大な物が飛び出してきた。

「な…なに、これ?」

美神さんをそのまま大きくしたような女戦士が闘技場の中に立っている。美神さんから飛び出してきた巨大な物の正体だ。

「あなたの『シャドウ』です。霊格、霊力、その他あなたの力を取り出して形にした物で、その名の通りあなたの分身です。彼女が強くなることがすなわち、あなたの霊能力のパワーアップになるわけです」

槍をくるくる、と回しジャンプするシャドウ。どうやら美神さんが動かしているらしい。

「なるほど、イメージ通り動くわけね」

「そうです。 妙神山の最難関コースを選んだあなたには、これから3つの敵と戦って貰います」

美神さん…あんた何でわざわざ最難関コースを。

「一つ勝つごとにパワーを一つ授けます。つまり全部勝てば3つのパワーが手にはいるわけです。――ただし、一度でも負けたら命はないものと覚悟してください」

シリアスなことを言い放つ小竜姫様。ただ――





小竜姫様。よだれが垂れてます。





「上等!!そーと決まれば早いとこ始めましょう!!」

美神さんが気合いを入れ、それに答えてシャドウが構える。

「剛練武!出ませい!」

小竜姫様の声に、一つ目の岩石男が姿を現した。その異様な姿に、俺は…




「あれ、どう見ても目玉が弱点スよね」



「そうですよ。よく分かりましたね、横島さん」



え!?言っちゃっていいんですか?小竜姫様。

あ、美神さんが笑いをかみ殺してる。



「始めっ!」

小竜姫様の合図に、シャドウと剛練武が同時に動き出す。

「行けーーーっ!!」

シャドウが走り、槍を突き出す。突き出された槍は、剛練武の目玉を正確に貫いた!

ばふっという音と共に剛練武が消え、シャドウに鎧が装着される。

「なかなかやりますねぇ♪」

だってあんた弱点言っちゃうんだもん。

「鎧がついた…って事は防御力がアップしたってことかしら?」

「その通りです。霊の攻撃に対して、あなたは今までとは比較にならない耐久力を手に入れたことになります。………次の試合、行きますよ」

「あ、ちょっと待って」

あれ、美神さんが試合を止めて…何だ? 俺を見ている?


アイコンタクト開始――。

(横島クン、横島クン)

(へ?何ですか、美神さん)

(あんた何とかして小竜姫から二匹目と三匹目の弱点聞き出しなさい)

(は? いや、それは無理でしょう)

(大丈夫。あんたなら出来るわ。彼女結構マヌケっぽいし)

(はぁ…まぁ、やるだけやってみますが…)

(お願いね)

アイコンタクト終了――。


説明しておこう。義姉弟の契りを結んだ(戸籍登録)俺と美神さんは、ある程度ならアイコンタクトで意志の疎通が出来るのだっ!

役所で戸籍登録した途端に使えるようになったんだよな…何でだろう?

ま、とりあえず役目を果たすか。

「小竜姫様、小竜姫様」

「何ですか?横島さん」

「二匹目の奴にも、弱点とかあるんですか?」

ストレートに聞いてみる。あ、美神さんの視線が馬鹿を見る眼になった。

「いえ、あのコにはこれと言って弱点という物はありません。ただ――」

「ただ?」

「あのコは、ひっくり返ると自分で起きあがれないんですよ♪」

楽しそうに言う小竜姫様。う〜ん………この人、味方に回すと厄介だけど敵に回すと心強いタイプだなぁ。



(これで良いですか?美神さん)

(上出来よ♪………それにしても、結構どころかすごいマヌケなのね、彼女…)



「小竜姫様!第二試合、始めてくださいな♪」

上機嫌の美神さん。そのせいか、シャドウも機嫌が良さそうに見える。

「あ、はいはい。禍刀羅守!出ませい!!」

現れたのは、4本足全てが大きな刃という、趣味の悪い甲虫のような生き物。ああ、確かにこいつはひっくり返ると自分で起きれないなぁ。

「始めっ!」

またも同時に動き始めるシャドウと禍刀羅守。だが、禍刀羅守の動きは早い!

「でりゃぁぁぁぁっ!!!」

………まぁ、早いとはいえ目で追えないスピードじゃないし…何より、弱点が知られてるって致命的だよなぁ。

禍刀羅守は攻撃しようと腕を振り上げたところで、あっさりとシャドウに足を払われてしまった。

ひっくり返ってしばらくじたばたしていた禍刀羅守だったが…やがて諦め、消えてしまう。それと共に、シャドウの槍に刃がついた。

「勝負あり、ですね。これであなたは今までとは比べ物にならないほどの攻撃力を得ましたよ。………さて、第三試合の相手は私が勤めます。覚悟は良いですか?」

「ええっ!?」

美神さんが驚きの声をあげる。

ん…?また美神さんが俺を見てるな。アイコンタクトか?


(横島クン、横島クン)

(はいはい、何ですか美神さん。ちなみに、小竜姫様の弱点聞き出せってのは無理ですよ)

(そこをなんとか! 小竜姫の霊格はケタが違うのよ!)

(と、言われましても…)

(今からあんた達を二人っきりにするから! 多少強引な方法使ってでも聞き出しなさい!良いわね!!)

(うぃーす・・・)



「あの、小竜姫様…しばらく、私とおキヌちゃんだけにしてくれない…? 次で負ければ、私は消滅しちゃうし…女同士で、少し話がしておきたいの」

「ええっ!?私ですか?」

突然話を降られ、驚くおキヌちゃん。あ、そう言えばずっと蚊帳の外にいたんだっけね。

「わかりました……。出ましょう、横島さん」

何か思うところでもあったか、あっさりと許可を出す小竜姫様。







そして俺は、小竜姫様のとんでもない秘密を知ることになるのだが…それはまた次回のお話だ。





――――――――――――

第四話(B)発覚!ダメな人、でした。

う〜ん、もうちょっと進む予定だったんですが…。やっぱりバトルは難しいです。

次で終われると良いなぁ…。

感想、お願いします。

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