ザ・グレート・展開予測ショー

年末のカナタ


投稿者名:アフロマシーン改
投稿日時:(02/12/30)



「俺の財布の中身とおなじ色だな」

腕組みをしてベンチに座っていると、足元に夏を謳歌していた虫の屍骸がかさかさ転がっている。
ひさしぶりに冬空を見上げてみると、自分の懐具合を思い出させられる。

「もう三日も食ってねえ」

弓かおり、あの女とつきあうととほうもなく金がかかる。
アツアツのローストチキン、肉汁たっぷりのグレービー……
雪の丞にとって、クリスマスイブが今年最後の食事になろうとしていた。

すきっ腹が、身体をふらつかせる。
夕もやがくすんだ色のコートをオレンジ色に包む。
雪の丞の身体が、ふんわりとベンチを離れて空に浮いた。

(ああ……、俺はママのところにゆくのか?)

わずかに残った視力で、血のように真っ赤な太陽が地平線を這うのをとらえた。

(……ママン…)

雪の丞は気を失った。



大きな潤いのある目が見つめている。

長い睫毛に包まれた、その真っ黒な瞳の奥に、雪の丞の白い裸体が鮮やかに浮かんでいる。

(ママ?)

意識を取り戻した雪の丞は、眠そうな声で女に聞いた。

女は額にあるバイザーを外して、にこりと笑った。

青白い電光が女の長い髪と柔らかなほほをそめあげている。
女の唇だけが鮮やかな血の色をたたえている。

しばらくして奇怪な叫び声が、雪の丞を忘却の暗い海へと運んでいった。

(…記憶マッチョー!……)



年末のとある朝、雪の丞は横島の部屋で素っ裸で発見された。

「朝食、ご一緒に…あ、ああああ、あ?」

ちょうど朝ごはんを誘いにきた小鳩に誤解される。

「先生を襲ったでござるな!?このケダモノー!」

逆上したシロに霊波刀で切りつけられる。

「…雪の丞、すごいな……」

横島になぜか熱い視線で見つめられる。

「は?なんのことだ、どうして俺はここにいるんだ?」

記憶のない雪の丞には、まったくわけのわからない災難であった。



 かぽーん

「ふー、いい風呂だ。なにもかも忘れさせてくれる。うぃ〜」

横島から金を借りて、雪の丞は銭湯「星の湯」にいた。

「それにしても、ここ最近いったい何があったんだ?覚えてない……」

湯船でしきりに首をかしげる雪の丞を、ひとりの男が見つめていた。
雪の丞が銭湯をでると、薄暗い空に雪がひらひらと舞っている。

「弓!」

ひとりの少女が、銭湯の入り口に震えながらたっていた。

「あっあら、おひさしぶりね。わたくし偶然とおりかかりましたのよ」

「ふっ、頭や肩に雪がつもっているぜ、待たせて悪いな」

弓かおりは赤面しつつも、肩をそらせて口をひらいた。

「氷室さんから聞いてちょっと確認したいことがあって……」

「ん、何だよ?」

半ばは好奇心のせいだろうか、目をしばたたかせながら弓かおりは聞いた。


「横島さんとデキてるの?」

一瞬、風が雪をまきあげて、雪の丞の返答を遅らした。

「はあ?……ちょっとまて、先にお客さんがいるようだ」

雪の丞は、躊躇なく霊波砲を銭湯の土塀に撃ち込んだ。やりすぎだ雪の丞。

「よう、あんた、さっきから俺のことをじろじろ見てやがったが、俺にそのケはないぜ」

「あんたから、セイリュートの匂いがする……」

のっそりと土塀からではなく、男湯ののれんをくぐってひとりの男があらわれた。

「ああ?」

「とぼけるな!お、俺の女に乗ったな!」

「こいつ、何顔赤らめていってるんだ?いてえっ!」

「ちょっと雪の丞どういうことよ!」

弓のするどい肘鉄が、雪の丞の腹に埋まった。

「ブラッド!そんなとこでなにをしている?さわがしいぞ」

女湯ののれんをくぐって、ひとりの少女があらわれて男を呼んだ。

「ふーん、あんたが雪の丞をたぶらかした女ね」

弓は、いくばくかの殺気をこめてセイリュートと呼ばれた少女を値踏みするように見る。

「、セイリュート!、なんでこんなどこの馬の骨ともわからんやつを乗せたんだ!?」

「レイリョク……、といったものを調べるためだ。また記憶を修正せねばならないではないか」

ためいきをつきながら、セイリュートは片手でかたちのよい額をおおった。

「記憶を修正?、あっもしかしてあのときのママ!?」

雪の丞の脳裏に、真っ黒な瞳に映る自分の姿が、閃光のように浮かんだ。

「思い出してしまったか……」

「ちょっとどこのへたれバーのママよ!?あんたがたぶらかしたのね」

「セイリュートをへたれゆったな!許さん」

わーわーきゃーきゃー

「いかん、ここで騒いではリョウ殿に迷惑をかけてしまう」

ぱしゅっ!

 記憶マッチョー!!



「やれやれ、最初の記憶操作は地球人の情報が足りずに誤って、片方の雄だけにある記憶を与えてしまったが……、このふたりなら記憶を消すだけで大丈夫だろう」

「これでよし♪」

とあるホテルのダブルベットに二人を寝かせると、セイリュートとブラッドは街にでた。

「0時になれば目が覚める。やれやれ、平穏無事に一件落着だな?ブラッド♪」

「ああ、来年も出番が欲しかったが……」

「ん?」

「え?」

「あははははは」

「うふふふふふふ」

木枯らしがネオンに照らされた街の通りを滑っていく。
石畳に映る二人の影はやがて雑踏にまぎれ見えなくなった。

もう2時間もすれば、除夜の鐘が鳴る。





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