ザ・グレート・展開予測ショー

「人間」〜後編〜


投稿者名:にゃんまげ
投稿日時:(02/12/28)



「今日はお互い早く片付いたでござるな♪」
後ろの座席に座っているシロが前の座席へ身を乗り出しながら言う。
「そうね、アンタも少しは腕が上がってるみたいだし」
颯爽と車を走らせてる美神がシロを軽く誉める、黒いグラサンを掛けながら運転する姿はどこか凛々しい。
「あっ、美神さん次の交差点右に曲がって貰えますか?これからスーパーに言って欲しいんですけど」
助手席に座るおキヌが交差点の方を指差しながら言う。
「わかったわ」
「そう言えばセンセーどうしてるでござるかな?」
「ふん、また西条さんとこで煙草タカってるんじゃないの?」
タマモはその言葉を聞いて少し不機嫌そうに答える。
「…………」
タマモのその言葉に一同は沈黙する。
「…センセーは」
沈黙を破ったのはシロだった。
「あの事が起こってから三週間、センセーは変わってしまったでござる。センセーの部屋に行ったら綺麗に片付けられているし、ココんとこベンキョーばっかで拙者の事全然構ってくれないし、それに煙草なんか吸う人じゃなかったでござる。センセーは拙者の事嫌いになってしまったのでござろうか……?」
顔を俯かせながらシロは震える声で言った。
「考えすぎよ。あいつがアンタの事嫌いになるわけないじゃない、それに部屋が綺麗になってるのも勉強するのも良い事じゃないの?」
美神がシロを励ます。
シロはその言葉を聞き、救われたような表情で顔を上げた。
「でも……」
引き続き美神。
「なんか私達を避けてるわね。どう言うつもりかしら?」
親指の爪を噛みながら言う。
当人も苛立ちを隠せないようだ。
と、その時。
「…………私の」
しばらく俯いていたおキヌが口を開いた。
「私の所為です。横島さんが変わっちゃったのは」
美神は助手席に座るおキヌの姿が一回り小さく、そしてちょっと触ろうものなら跡形も無く砕けてしまいそうに見えた。
「おキヌちゃん………」
「美神さん」
おキヌはぐいっと涙を拭いながら顔を上げる。
「私、やっぱりアレ参加します」
「………わかったわ。六道女史には私が言っておくから」


【三週間前】
一台の高級車が廃ビルの前に止まった。
「まだ片付いてないみたいですね」
ビルの方から発せられるうめき声を聞いておキヌは言う。

…しかし、その声は予想の物とは違っていたのだった。

「早くセンセーの迎えに行くでござる!」
ウキウキとビルの中に入って行くシロ。
「ちょっと!馬鹿、待ちなさい!シロ」
と美神。

「ぎゃあああああ!!!!」

美神達が準備を整え終え、ビルに入ろうとした時シロの叫び声が辺りに木霊した。
「!!」
その尋常でないその悲鳴を聞き、駆け付けた美神達は驚くべき光景を目にしたのだった。


「横島、クン?」
美神は倒れているシロの前にしゃがみこみ、煙が立ち上がっているその手を彼女の頭に当てようとしていた横島の姿が目に入った。
美神の声を聞いて横島はその顔をこちらに向ける。
「!!」
人間の眼ではなかった。
いや、魔族にもこんな眼をしている者は極少数だろう。
一同はその眼に恐怖を感じ、体を動かす事を忘れた。
不意に横島の眼が元に戻る。
「み、かみ…さん?俺は…!!」
眼下の惨状を見て横島は驚愕する。
「シロ!!どうしたんだ!!?誰が一体…」
そうして彼女の頬を触った瞬間。
  ジュウウウウウウ!!!
「うわっ!わっ!」
突如彼の触れた頬から煙が立ち込め、焦げ臭い匂いが横島の周りに広がる。
「なんだ、これ…?もしかして俺がシロを…?」
そう言って横島が美神達の方を向く。

  ビクッ!!

刃物で胸を突き刺されたような感じだった。
おキヌが怯えた眼で横島を見ていたのである。
そのまま横島は気を失った。


【現在】
「…そんな事があったのか」
そう言うと西条は新たに箱から一本取り出し火をつけた。
「後はお前も知ってるだろう?」
横島も更に一本出す。
「ああ、魂中の魔族因子の割合が大きくなってるとか。それが原因なんだってな、その手は」
「…………」
しばしの沈黙。
「すっかり暗くなったな」
外の景色を眺めながら西条。
「……ああ」

  ブロロロォォー!

「帰ってきたみたいだぞ」
「センセー!今帰ってきたでござるー!!」
シロは窓から腰のあたりまで身を乗り出し、開いている窓の枠に腰掛け、こちらに大きく手を振っている。
「……だな。それじゃまた明日」
そう言うとまだ余っている煙草の箱を掴む。
「また来るのか君は」


「よし、出来た♪じゃあ私は横島さん呼んできますね」
そう言うとおキヌは一人横島のいる屋上へ向かった。
「おキヌ殿センセーがあーなってからずっとでござるな」
両手を腰に当てながら不機嫌そうに言う。
「別にいーじゃん。それよりさ、シロ。美神さん呼んできてよ。三人でおかず全部食べちゃおー」
悪戯を思いついたタマモは笑みを浮かべる。
「にひひひ、そーするでござる」
シロもこの悪戯に賛成し、笑顔を見せる。


その頃横島は寒空の中、夜空を眺めながら煙草を吸っていた。
「横島さん、お夕飯できましたよ」
屋上に出てきたおキヌが言う。
「ん?……んん」
おキヌは横島の隣りに座る。
「あの、前々から聞こうと思ってたんですけど」
「なに?」
「…………どうしてそんな風になっちゃったんですか?」
目に涙を浮かべて尋ねるおキヌ。
「…………」
思わず目を逸らし、顔を反対側に向ける横島。
「いえ、わかってます。私の所為で……」
「ちがうよ」
「違くないです!私があんな目で横島さんを見たから……私」
その時横島は顔をまたこちらに向け、おキヌを見つめる。
寂しそうな、悲しい眼だった。
「………オレは」
そして重い口を開く。
「オレは、みんなと今まで通りの生活が皆と送れないことが辛い。今までのように、GSの仕事をしたり、美神さんにセクハラしたり、シロと散歩したり、飛びつかれたり……おキヌちゃんも知ってるよな?」
そう言って横島は自らの両手にはめられている厚手の黒い皮手袋を外し、その両手を前に突き出す。
「この手が生き物を傷つけるようになったのはオレの魂の中のルシオラの魂の魔族因子が、簡単に言うと癌化しているんだ。現にオレはもう人間じゃない」
「ええ、聞きました」
そして横島は続ける。
「このままだとオレは恐らく最終的には魔族になるらしい。それも理性を持ってない、本能だけの。……ふっ、皮肉だよな。オレの命を救おうとして死んだ女がオレを死においやり、皆を守ろうと頑張ったオレが今度は皆に殺…」
そう言い終ろうとした時。

  パシーン!!

おキヌは横島のその言葉を遮るように、彼の頬を叩く。
眼に涙を浮かべながら。
「いい加減にしてください!!私の、私の大好きな横島さんに戻ってください!!」
「おキヌちゃん……」
「あっ、ごめんなさい」
我に返り自らの行為を謝罪するおキヌ。
「いや、いいんだ。別に…」
そして沈黙。
「あ、あの…」
おキヌが口を開く。
「ん?」
「横島さんは人間ですよ。だって………」
そう言っておキヌは横島の手を握り……。

  ジュウウウウ!!!

「!!やめろ!やめてくれ!おキヌちゃん!!」
おキヌはお構い無しに横島の手を硬く握る。痛みに耐えながら。
「だって、こんなに温かいじゃないですか。横島さんの手には、横島さんの体には血が流れてるじゃないですか。温かくて、優しい……」
そして今度は体を優しく抱きしめる。
「おキヌちゃん………」
「私、留学することにしました。明日発ちます」
「!!」
突然の事に驚く横島。
「六道女学院は毎年中国の心霊治療研究所に留学生を出すんだそうです。それで私…横島さんのその病気を治したい。あなたが、大好きだから………」
「おキヌちゃん……」





………ありがとう………







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