ザ・グレート・展開予測ショー

夏の終わりと秋の始まり


投稿者名:矢塚
投稿日時:(02/12/27)


 西条は自分のデスクを挟んだ向こう側に立つ、5人の男女を見て盛大にため息をつい

た。今の自分の持ち札で彼女らを説得するのはほぼ不可能であることは判っていたが、そ

れでも、たかが高校生ごときを説得し切れなかったというのも事実であり、彼のプライド

は多少傷ついていた。

 こんなことなら、下手な仏心など出さずにありのままを説明し、後は自己の判断に任せ

たほうが良かったか?

 ほんのちょっとした逡巡と選択ミスが、事態を面倒くさいものにしていた。

 口を開けばため息しか出てこない、というやつだ。

 目の前に並ぶ、弓、一文字、雪之丞、タイガー、ピートの5人は先程から納得いかない

表情で西条を見つめている。正確に言えば、納得がいかないのは弓と一文字であり、男ど

もの方はその付き添いと言ったほうが正しい。

 未成年者の前ということもあり、控えていたタバコに無意識に手が伸びスーツの内ポケ

ットから、つぶれかけたタバコを取り出し、銜え、火をつけようとする。
 
「そうやって、私達を煙にまくおつもりでしょうか?」

 美人だが、どこかしら冷たい印象を与える弓の皮肉はしかし、西条には何の痛痒も与え

なかった。

「そうだね。出来ることなら、煙と共に消えてしまいたいよ。」

 しれっと答え、タバコに火をつける。高校生ごときの皮肉に腹を立てるほど、若くはな

い。その態度に、一文字が声を荒げる。

「ちょっとさあ!人が一人、いや、下手すれば3人が行方不明になっているかもしれない

って言ってんだろ!なんで、もっとまじめに聞いてくんねーんだよ!!」

 逆立てた金髪に、薄い化粧をした彼女が喧嘩の勢いのごとくにまくしたてる。

 その言葉使いに、身長2メートルを超えるタイガーが、その外見とは裏腹におろおろし

ながら、少女をなだめる。

 西条はその様子を苦笑して眺めつつ、もう一度、彼らが今回詰め掛けた件とそれに対す

る自分の見解を紫煙と共に吐き出した。

「君達が、2ヶ月前から行方知れずになり、その安否を心配している氷室キヌさん・・・

まあ、おキヌちゃんは、彼女の下宿先であり所属事務所でもある美神除霊事務所の所長、

美神令子さんと共に除霊作業中であり、決して行方不明では無い。なお除霊内容について

は、緊急の理由が無い限り無断で第三者に情報提供できない。事務所の不利益になる場合

があるから。・・・いいね?」

 淡々と答える西条。

「だから、よくはありませんっ!2ヶ月以上も除霊作業に係っきりなんて不自然です!第

一夏休みが終わってから、一度も連絡も入れずに無断欠席なんて氷室さんらしくありませ

んわ!彼女の携帯もつながらないんですよっ!」

 血管が切れそうな勢いで、弓がまくし立てる。その彼女に、雪之丞がうんざりした口調

でなだめに入る。

「なあ?西条のダンナがこう言ってんだから、大丈夫だろうさ。第一、心配しすぎなんだ

よ。美神の大将がついてるようだし。横島だっているんだろ?あの3人をどうこう出来る

輩は、世界中探してもいやしねーって!」

「雪之丞!あなたは、友達のことが心配じゃないの?第一、こんないい加減な説明をよく

信じられるわね?」

「なんだよ。俺が単純だって言いたいのか?」

 険悪な雰囲気になりかけたのを、ピートが間に入りなだめすかす。

「ちょっと、二人とも。今はそんな場合ではないでしょう。ともかく、おキヌちゃんの安

否を確認するのが先でしょう。」

 西条は、目の前に立つ5人の様子を見て少しだけ罪悪感にとらわれた。そう、彼女らは

友達の為にICPOまで乗り込んできたのだ。普通の高校生なら、担任の教師に任せて心

配するだけだろう。本来なら行方不明者の捜索は警察署の管轄だが、所属事務所の作業内

容が特殊なので、わざわざここまで出向いてきたのだ。

 彼女らを見れば、おキヌちゃんがどれだけ皆から慕われているか、西条にはよくわかっ

た。
 まあ、誰一人として美神令子や横島忠夫のことを心配している人間が居ないのも、なん

となくわかる気もしたが。

 彼女らはまだ若い。真実を知り、その無情に若い心が傷つかないだろうか?なぜ、この

僕がここまで意固地に語らないのか、暗黙の了解をまだ知らない若者にこの現実は受け入

れられるのか?

 もし、真実を知ってしまったとき、彼女らの友情は壊れたりはしないだろうか?

 西条は真実を知っている。正確には、あらゆる証拠と美神チームの行動パターンから推

測したものであるが、しかし確信していた。ほぼ間違いない。

 そして、彼女らの真摯で直向な友情に対して初めから、正直に事の顛末を話さなかった

事に少しだけ後悔した。

 その彼の気遣いに彼女らが気づくはずも無く、さらにねじ込んでくる。

「ですから、2ヶ月も係っきりになり電話すらかける暇も無い除霊とは、いかなるものな

んですか?納得いく説明をしてください。除霊内容は教えれない、場所は教えれない、連

絡の取りようも無い、向こうからは音信不通、でも大丈夫。心配いらないでは、話になり

ません。」

 西条はその台詞に、自分が逆の立場だったら弓と同じことを言うだろうなと思いつつ、

別のことを考えていた。 

 どうしてもと言うならば、ほんとの事を聞かせたほうが楽でいいだろうか?彼女らは自

分が思っていたよりかは十分に大人で、それなりに分別はあるようだ。 

 しかし、美神美智恵からこの件に関しては、それとなく口止めされてもいた。

 空白の二ヶ月間の実際。 

 しばし、考える。

 突如、西条は腰掛けていた椅子をくるりと回し、5人に背を向けた。

 あっけにとられる5人。

「どうも、最近は疲れてくると独り言が多くて困るなあ。まあ、独り言を聞くような悪趣

味な人間は僕の目の前にはいない様だから、まあいいさ。」

 西条は、独り言を続ける。

「美神チームが、最後に確認された場所はわかっているんだ。事務所のスケジュールを調

べたからね。僕も、手をこまねいていたわけじゃない。但し、今チームが何をしているか

は推測に過ぎない。過ぎないがしかし、確信はしている。十分な目撃証言が多数得られた

からね。」

 一息つき、タバコに火をつける。5人は、息を殺し耳を傾ける。

「某海水浴場にて、巨大な海亀に乗り込む美神チームと思しき男女3人組が、目撃されて

いる。ちなみに海亀は男性に向かい、浦島太郎と呼んでいたそうだ。」

 その一言に、後ろに立つ5人から息が漏れた。どうにもやるせなく、自分等の行動が全

くの道化であった無力感。その気配からすると、どうやら完全に納得したようだ。

「まあ、時間が許す限りはそこに滞在するんじゃないかな?・・・『目的は不明』・・・

だけどね」

 西条が向き直ると、そこには人生の不条理を初めて知って、少しだけ大人になった5人

の顔があった。

 どうしても聞きたいと言い出した結果だから、致し方ない。それでも西条は、タバコを

燻らせつつ若い5人を励ました。

「まあ、いろんな事を経験して、みんな少しずつ大人になるもんだよ。そんな君等へのお

土産が『玉手箱』じゃなければいいけどね。」

                     

                  おわり
 

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