ザ・グレート・展開予測ショー

東京ジャングル16


投稿者名:居辺
投稿日時:(02/12/26)

39.野獣眠るべし
 エミが両手をそろえて前に出した。
 兵士がその手首を取る。
「でもね、死ななくてすむなら、諦める前に試しても良いワケ」
 兵士が悲鳴をあげる。手錠を取り落とし、その手を押さえている。
 半狂乱の兵士が、手袋をむしり取ると、黒く変色して爛れて(ただれて)いる。
 その様子を、エミは薄笑いを浮かべて見ていた。
「何をしたか教えてあげる。呪いよ。ちょっとした、ね。
 さあ、次は誰が手錠を掛けてくれるの!?」
 エミは叫んで、まわりを見渡した。
 見えはしないが、兵士達がいるはずだ。

「直ちに発砲せよ!! 目標、小笠原エミとタイガー寅吉!!」
 奥村の目に、初めて焦りの色が浮かんだ。
「行くよッ! タイガー!!」
 エミが、オクムラめがけて、ブーメランを投げつけた。
 辛うじてよけたオクムラのこめかみから、血が滲む。
「狙いはあいつ、オクムラよ。
 私たちが眠らされるのが早いか。あいつが倒れるのが早いか。勝負よ」
 エミがオクムラめがけてダッシュする。半獣化したタイガーが後に続く。

 慌てふためくオクムラの前に、兵士が3人現れた。
 それぞれが、バズーカを小さくしたようなものを、構えている。
 エミとタイガーは、一瞬の躊躇もせずに突っ込んで行った。

 発砲音は、妙に軽い音だった。
 そんな音が、周囲から一斉に聞こえてくる。
 エミをかばって前に出たタイガー。
 弾は身体に当たると破裂するが、大きなダメージは無い。
 破裂したのは、ゴルフボールよりちょっと、大きめのカプセルだ。
 揮発性で刺激臭のある液体が、封入されている。
 ガス弾だ。

 タイガーは、目がチカチカクラクラするのを構わずに、突進した。
 目の前の三人の、真ん中に拳を振り降ろした。
 次弾の装填が間に合わないのか、兵士は銃身を掲げて受け止めようとする。
 タイガーの拳が銃身をすり抜け、兵士のヘルメットを捕らえた。
 鈍い音があがり、兵士の首が危険な角度に曲がる。
 そのまま、うしろに転がった兵士の身体を、オクムラが危なっかしい体勢でよけた。
 ナイフを抜いたエミが、オクムラめがけて飛びかかって行く。

40.天才の孤独?
「カオスさん!? それにマリアに雪之丞さんに冥子さん!!」
「おキヌか!? 奇遇じゃのう。
 して、お主、今どこにおるのじゃ?」
「分かりません。事務所そっくりの別の場所です。
 転位した後気がついたら、ここに居て、どうしても出られないんです」
「なるほどのう。よし、待っとれ。今そこに行くからの」
 カオスの手が、テレビの枠に掛かった。
 透明な膜を押し出すように、カオスの頭が現れる。
「ドクター・カオス、まだ・目的を・果たして・いません」
 カオスの背後からマリアが声を掛けた。

「おお、そうじゃった。ちょっと待っとれ。色々持って行くものがあるでな」
 伸び切った膜が、再びテレビ画面のカーブを描く。
「あの、私がそっちに行ったほうが……」
「どうせ行かねばならんのじゃ。遠回りするより良いじゃろ。
 それとも、美神達を追うのは諦めるのか?」
 おキヌは首を激しく横に振った。

 厄珍堂の地下室から、パンパンに膨らんだ風呂敷を抱えて、カオスが出て来た。
 唐草模様の風呂敷を、背負うようにして首に掛けると、テレビの枠に手を掛ける。
 中には、雪之丞達がすでに入り込んでいて、マリアが手を貸してくれる。
 マリアはいまだに、重力波アンテナを背負っていた。
「持ってく物って、何を持ってきたんだ?」
 雪之丞が風呂敷包みを、胡散臭そうに見ながら言った。
 これで頬被り(ほっかむり)があれば、どこから見ても泥棒だ。

「聞きたいか? ふぉっふぉっふぉ、ならば作業しながら教えてやろう。
 マリア、重力波アンテナ作動。一番強い重力源を探るのじゃ」
「イエス・ドクター・カオス」
 と言っても重力波アンテナは、箱の中に収まっている。
 かすかに作動音が聞こえてくるだけだ。

「計算に時間が掛かるから、その間にこれを渡しとこう」
 カオスが風呂敷から電池をとり出す。
「霊力電池じゃ。普通に電池として使うのじゃが、こうして」
 と言いながら、指の間に電池を挟む。
「霊力を補充するのに使えるのじゃ」
 さっそく試してみる、おキヌ達。
 プラス極とマイナス極を、人差指と親指で挟む。
 ちょっとピリピリするが、霊力が回復して行くのが気持ちいい。
 指先から身体中に、暖かいものが流れてくるようだ。

「さて良いか? おキヌの話から推理すると、敵は美神達をバラバラに分断した上で、別々に異空間に閉じこめたに違いない。
 つまりここの近くには、異空間がひしめき合っておるのじゃ。
 異空間は、4次元的にはかけ離れた場所じゃが、超次元的には隣り合ってる、と言って差し支えない。
 超次元間で作用を及ぼす力、それは重力と霊力じゃ。
 異空間同士は重力と霊力が、作用し合っておるのじゃ。
 まずは、一番近い異空間を、重力波アンテナで探る訳じゃ。
 質量だけは誰であっても、誤魔化せんからな。
 もっともアンテナ一基では、ポテンシャルと方向しか分からん。
 じゃから、一番強い重力源に向けて、さっきの要領で、霊力で次元の穴を開けるのじゃ。
 一番近いとは限らんが、遠くは無いじゃろ」

 そこまで言い切ったカオスは、おキヌ以外の誰も、話を聞いていないのに気付いた。
 冥子はソファに行儀良く座って、雪之丞は床に大の字になって、居眠りしている。
 おキヌにしても、困ったような顔をしていた。

 良いんじゃ、天才とは孤独なもの……。
 カオスは胸の奥でつぶやいた。

41.ダーキニー
「あなた、可愛いし、素直だし。
 こんな馬鹿な娘に比べたら、あなたの方がずうっとマシ。
 どうです? 考えては貰えませんか」
 荼吉尼天は、ニコニコとシロに話しかけた。
 タマモが慌てて立ち上がる。
「ちょっと!! シロは関係ないわ!! 手を出さないで!」
「関係ないのはあなたの方ですよ、タマモ。
 眷族を求めて地上に降りた私が、シロ殿と言う理想の娘を、見つけたと言うだけです。
 その途中で、たまたま巡り合った元眷族のあなたに、とやかく言う資格はありません。
 あなたにとってシロ殿は、只の同居人なのでしょう?」

 シロの目が、タマモと荼吉尼天の間を往復する。
 荼吉尼天の意図が分からない。
 仕方なく、思ったまま答えることにした。
「申し訳ないが、拙者には天界に昇るつもりは無いでござる。
 地上に、拙者の居場所があるでござる故、地上を離れるつもりは無いのでござる。
 それから、タマモも地上において欲しいでござる。
 タマモがどう言おうと、タマモは拙者の友なのでござる。
 拙者は友のためなら喜んで、この身を投げ出す覚悟でござる」

 シロの真直ぐな目を受けて、荼吉尼天が嬉しそうに微笑む。
「居場所と言うものは、どこにでも有るものなのですよ。
 それに、出会いがあれば、別れもまたあるのですよ、シロ殿。
 どれほど離れても、心で繋がっている。そんな関係もね。
 そうじゃありませんか、タマモ?」
「そんなの言葉だけのものよ。
 さっさとシロなり、私なりを連れて天界に戻るがいいわ」
 幾分顔を赤らめながらも、タマモが毒づく。

「愚か者」
 荼吉尼天が溜め息交じりに言った。
「では、シロ殿には力づくで、天界に来て頂くことにいたしましょう。
 タマモはどうしますか? 今なら追わずにいてあげますよ」
「しっぽ巻いて逃げるなんて、イヌみたいなことしないわ!!」
 タマモの叫びを、荼吉尼天は楽しげに聞いた。
「では、二人まとめて、お相手いたしましょう。
 白雲、さがっていなさい。お前が手出しすれば、二人とも死なせてしまいますからね」

 白雲から降り立った荼吉尼天の身体が、青黒く膨らんで行く。
 数秒もしないうちに、身の丈数メートルの悪神、ダーキニーが姿を現した。
 青黒い身体が、クネクネと踊るように揺れている。
 首から下げた頭蓋骨の首飾りが、ガラガラと笑うように音を立てた。

 シロが真っ向から突っ込んで行く。
 ダーキニーは意に介さず、シロに向かって顔を突き出した。
 霊波刀の抜き打ちの一撃を、踊るようにかわしたダーキニー。
 うしろから長い舌で、シロの背中を舐めあげた。
 あまりの気持ち悪さに、シロが震え上がる。
 そこへダーキニーの剣が、振り降ろされてくる。
 辛うじて受け止めたシロは、弾き飛ばされ、岩に叩き付けられた。

 倒れたシロを追撃しようと、更に剣を振り上げるダーキニーに、タマモが顔めがけて狐火を吹きつける。
 ダーキニーは口をすぼめると、狐火を吸い込んでしまう。
 ダーキニーの腹がポッコリと膨らんでいく。
 狐火が通用しないので、爪で攻撃しようと踏み込むタマモに、ダーキニーは炎の息を吐き出す。
 地面ごと吹き飛ばされるタマモ。
 空中に舞い上がった樹や、岩に叩き付けられ、全身に多大なダメージを負ってしまった。
 うめき声をあげながら上半身を起こすと、ダーキニーとシロが向かい合っていた。
 遠目からでも、シロのTシャツに、大きな赤いシミができているのが見える。

 シロは力の入らない足に、無理やり言うことを聞かせ、やっとのことで立っていた。
 先程の一撃を受け止めきれなかったせいで、脇腹が大きく裂けていた。
 ダーキニーは踊りながら近づいてくる。
 まだ戦える。まだダーキニーに一太刀も浴びせていない。
 シロは、ぶれてきた霊波刀に念を込めた。

 タマモはもつれる足に、悪態をつきながら走っていた。
 どうしてか、分からない。
 シロが殺される訳ではないことは、分かっていた。
 だから逃げても大丈夫。それも分かっていた。
 今すぐ逃げよう。胸の内の、もう一人のタマモが叫んでいる。
 荼吉尼天の目が、届かない所まで逃げよう。
 なぜか、足が言うことを聞いてくれなかった。
「バカ犬! あんたのせいよ!!」
 タマモはかすれた声で叫んだ。

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