ザ・グレート・展開予測ショー

東京ジャングル15


投稿者名:居辺
投稿日時:(02/12/25)

36.タマモの逃走
 タマモは一直線に走っていた。
 あの神には小細工は効かない。
 だが、逃げ切る自信はなかった。
 他にどうしようもないので、タマモは逃げるしかなかった。
 物凄く不本意だったが。

 それにしてもシロだ。
 あいつが、あそこに居た理由が分からない。
 油揚げをくわえて、何をやってたんだろう。
 奪い取ってやったときの、あの間抜けな顔!!
 タマモは微笑むと、更に足を速めた。

 前方から土と石の匂いが、強く漂ってきた。
 崖!?
 タマモは直感に従って、向きを変え走り続ける。
 転がる岩や倒木が行く手を妨害するが、軽々と飛び越えて行く。
 ところが、それほど行かないうちに、今度は水の匂いがしてきた。
 水溜まりのようには澱んでいないし、湧き水のように少量の水でも無い。
 川が流れてる?
 この感じだと相当な大河だ。

 タマモは振り返って気配を探った。
 荼吉尼天が気配を隠そうともせぬまま、上空から迫ってくるのが分かる。
 ダメだ。追いつめられてしまった。
 こうなったら引付けるだけ引き付けておいて、その横をすり抜けるしかない。
 ついでに狐火を、思いっきり吹きつけてやる。
 腹を決めたタマモは、次第に強くなる荼吉尼天の気配を待った。

 上空から巨大なシロギツネが、舞い降りてきた。
 木の枝が折れて、葉っぱが空中に散乱する。
 タマモが息を吸い込むと、うしろから声がする。
「お前のイタズラなど、私には通用しませんよ」
 とっさに、目の前の狐に、狐火を吹きつける。
 シロギツネは、大きな口からタマモのそれを、遥かに越える狐火を吹き出した。

「もはや抵抗すること、相成りませんよ」
 荼吉尼天は、倒れたタマモに剣を突きつけ、静かに話しかけた。
「このまま私と共に来てくれますね」
 タマモは何も答えなかった。
 不貞腐れた(ふてくされた)視線を、地面に投げるばかりだ。
「仕方ありませんね。この場は封印することにしましょう。
 天界に帰ってから、ゆっくりお説教しますからね」

 手に持った玉を、掲げようとした荼吉尼天の、手が止まる。
「あの声は、……シロ殿?。どうやらお前のお友達が来たようですよ。
 どうするのです? そのままみっともない姿を晒すのですか?」
 確かにタマモにも聞こえる。
 シロが叫びながら、こちらに向かって走ってくる。

「荼吉尼天様!! お待ち下され!! タマモは拙者の仲間なのでござる!!」

「あの娘、可愛いわ。友達なのですね」
「友達なんかじゃない!! あいつは只の……、只の……」
「只の? 何ですか?」
「只の……、同居人よ」
「只の同居人が、あんなことを言うのですか?
 あんなに息を切らせて、走ってくれるのですか?
 お前のために、怖れと悲しみのオーラを、出してくれますか?」
「あいつはバカなのよ!!」
 タマモの、半ばヒステリックな叫びを、荼吉尼天は静かに受け止めた。
 白雲が悲しげな鳴き声をあげる。

「お待ち下され!!」
 シロがその場に飛び込んできた。
「良い所にいらっしゃいました、シロ殿」
 荼吉尼天が微笑む。
「シロ殿にお話が有るのです」
 拍子抜けのシロが、不審の目をタマモに向ける。
 タマモは、シロと目を合わせようとはしなかった。

「シロ殿は私に付いて、天界に昇る気は有りませんか?」
「へ!?」「な!?」
 シロとタマモが、同時に驚きの声を上げた。

37.TV厄珍
「何じゃお前ら、何をやっておる?」
 厄珍堂の入口にさした影が、話しかけて来た。
 雪之丞は面倒臭そうに、カオスに応えた。
「見りゃ分かンだろ。いっぷくしてんだよ」

「そこに倒れてるのは、ピートか?」
「ああ、やばかったけど、持ち直したみたいだ」
「そうか? 血でも飲ませたのか?」
「いや、代わりにこれを飲ませた」
 座り込んだまま、雪之丞が瓶を持ち上げてみせる。
「……お前、酷いやつじゃな」
 カオスが冷や汗をかいている。
「俺じゃねえ、あの大将さ」
 雪之丞が、向こうで棚の上に、手を伸ばしている冥子を指した。
「あの嬢ちゃんに任せたらいかんだろ」
「しょうがねえだろ。やるって言って聞かねえんだから」
 アッと小さく、冥子が悲鳴をあげた。
 棚が崩れてくる。

「ふぇ……」
 ほこりをかぶって、びっくり顔の冥子が小さくもらした。
 慌てて、なだめにかかる雪之丞とカオス。
 マリアが冥子を抱え上げて、イイコイイコと揺すっている。
 カオスはどこから出したのか、でんでん太鼓であやしている。
「……クチュン」
 可愛らしい、くしゃみだった。
 いきなり疲労感にとらわれる、雪之丞とカオスだった。

「ところで、カオスのおっさんは、何だってこんな所まで出張ってきたんだ?」
「ん? そうじゃな。答える前に、奥へ行かんか?
 ピートを休ませた方が良いじゃろ」
 カオスはそう言うとマリアを伴って、さっさと奥へ上がり込んで行ってしまった。
 冥子もその後に続いて入って行った。
 後に残された雪之丞は、仕方なくピートを背負って後に続く。

 雪之丞が厄珍の部屋に入るのは初めてだった。
 そこは持ち主に合わせたかのような、小さな部屋だった。
 壁のほとんどを、引き出しのいっぱい付いた、背の高いタンスが隠している。
 そのため、狭い部屋がいっそう狭く感じられる。
 厄珍はその部屋の真ん中に、小さな布団を敷いて眠っていた。
 顔の一部であるかのように、サングラスを掛けたままで。

「霊気が・著しく・減退・しています」
 厄珍を診察したマリアがカオスに報告する。
「死ぬのか?」
 ピートを厄珍の隣に寝かせながら、雪之丞が聞く。
「すぐではないが、このままではいずれ、そうなるじゃろ。
 身体が衰弱して行くでな」

「も〜〜〜〜、やあねえ〜〜〜〜。このテレビ、何にも映んないじゃない〜〜〜〜」
 話を中断したカオスと雪之丞が見ると、冥子がテレビにリモコンを向けて、一生懸命ボタンを押している。
 テレビには砂嵐が、写っているばかりだ。
「おい、なんでテレビが写ってるんだ?」
「映っとると言っても、砂嵐じゃろうが」
「違う! ここに電気が来てるワケがねえって言ってんだよ!」
「おおそうか。マリアこのテレビを探るのじゃ」

「…………霊波の・放出を・検知・しました。攻撃・しますか?」
「いや、マリアでは粉々になってしまう。ワシに任せろ」
 カオスはテレビの前に立つと呼吸を調えた。
「ちぇすと〜!」
 正確に72度で、ビシッとチョップを打ち込む。
 画面に黒い線が走った。何かが映ろうとしている。
「どうじゃワシの技は?」
 カオスが胸を張った。

『怖がることはないぞよ、厄珍どの』
『く、来るなッ織姫!! 来たら死んでやるアル!!』
 テレビの中では厄珍が、婆さんに言い寄られていた。

「少しばかり、角度が甘かったかの。
 ちぇすと〜!」
 再びチョップを打ち込むカオス。
 厄珍の映像はかき消え、再び何かが映ろうとしている。

38.捕らわれのおキヌ
「しっかりしなくちゃ……。取り乱したらダメ」
 自分に言い聞かせる。
 おキヌは事務所の真ん中に座って、目を閉じていた。
 ここは、目に見える通りの場所ではないはず。
 霊気を探り、本当の構造をつかまなくては。
 脱出するのはその後だ。

 座り込んでから、どれくらい立っただろうか。
 おキヌは、目を開いて立ち上がった。
 砂嵐を映し続ける、テレビを見つめる。
 やっぱりそうだ。
 霊気が、このテレビを中心に流れている。
 ここに穴を開けたら、脱出できるかもしれない。
 問題はどうやってやるかだ。

 破魔札を取り出してみる。
 これは力は強いが、微妙な作業には向かない。
 持っていれば、他に使い道があるだろう。
 元通り袂(たもと)にしまうと、精霊石のネックレスを外した。
 破魔札に比べて、値段が遥かに高い精霊石。
 美神はポンポン使ってるが、おキヌは使ったことが無かった。
 これは、お守り代わりにと言って、美神がくれたものだ。
 これで霊気の流れを、制御できるかもしれない。

 精霊石を画面に近づける。
 砂嵐が渦を巻いて、中央が暗くなってきた。
 まるで穴が空いたみたいに、中央の黒い部分が広がって行く。
 精霊石を持った手に、抵抗を感じる。
 まるで磁石の同じ極を近づけたときのように、テレビからの反発を感じる。
 精霊石を持った右手に、左手を添えて前に押し出す。
 目を閉じて力いっぱい押し返す。

 どれくらいの時間、その姿勢を保っていたのか分からない。
 もう限界……。
 おキヌが諦めかけたその時、急に反発する力が薄れて行った。
 テレビの前で両手を床に突いて、肩で息をするおキヌ。
「そこに居るのは誰じゃ?」
 テレビの中から誰かが声を掛けた。
 その白髪の老人には見覚えがある。

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