ザ・グレート・展開予測ショー

乱れ衣 終編


投稿者名:ユタ&フチ
投稿日時:(02/12/24)

「7時か・・・」

横島は事務所の壁にかかっている時計を見て、呟いた。
正確な時刻は『18:49』。

「美神さん達、そろそろ帰ってきちゃいますね・・・」

おキヌも時計を見て、相槌を打つ。

「・・・・」
「・・・・」

気まずい空気が流れる。
厄珍堂をあとにした二人は、事務所に帰って今に至るまで終始無言だった。
それどころか、ロクに顔も合わせられずに居た。

おキヌを元の姿に戻す唯一の方法、横島のキス・・・
さすがに胡散臭かったので、あのあと厄珍を問い詰めてみたのだが・・・
自らも薬を飲んで10歳年を取った横島がおキヌにキスする事で、不安定になっていた年齢因子が経口で互いの体内に流れ込み、ちょうどプラスマイナスゼロに調整されると言う。
数学的には、+10+(-10)=±0
なんだか物凄く信憑性のある理屈なのである。





「・・・あの、さ。おキヌちゃん・・・」

横島が意を決したように立ち上がり、おキヌの側に来て真剣な顔で話し始める。

「おキヌちゃん・・・何ヶ月もこのままってわけにもいかないし・・・
こんなことになったのも俺のせいで・・・だから・・・その・・・・・・俺が責任持って・・・そのぉ・・・」

それを聞いて、おキヌは横島の方を見上げる。
目を見るつもりが視線はついつい唇に固定されてしまって・・・
顔をまっ赤にする。

「あ、いや・・・別にやましい気持ちとかがあるわけじゃなくて・・・こ、これはその・・・人命救助のための人工呼吸みたいなもので・・・」

そう言う横島の顔もまっ赤になる。

「・・・・・・。横島さんにとっては、それくらいの事なんですか・・・?」

俯き加減で、おキヌが呟く。

「え・・・?」

しかし何のことか分からなかった横島は、キョトンとしている。

「・・・・・・。責任・・・とってくださいねっ!」

おキヌは、今度こそ横島の目をまっすぐに見上げて言うと、スッと目を瞑った。

「お、おキヌちゃ・・・?」

横島は、ゴクリと唾を飲む。

(こ、これは・・・シテいいってことだよな・・・?ま、待て!お、落ち着け、俺!
これは、人命救助!人工呼吸だ!いくら相手がおキヌちゃんだからって、血迷っちゃイカン!!)
ついでに言うと、見た目は年端も行かない幼児なのだが・・・

ともかく横島は震える手でクッキーを取り出し、自らの口に放り込む。
体の急激な変化でちょっと意識が遠くなりかけたが、そこら辺は柱に頭を打ち付けてカバーし、なんとか変身を終える。
少々背が高くなった気がするくらいで、特に体に違和感は感じなかった。

「よ・・・よし・・・・」

横島はおもむろに膝を床につき、顔の高さを合わせると、おキヌの肩に両手を置いた。
小さな肩がビクッと、ちょっと震えたような気がする。
ギュッと目を瞑ったおキヌの顔は真っ赤で・・・横島の心臓の鼓動も激しく高鳴っていた。
狙いを定めて、ゆっくり、ゆっくり、肩にかけた腕をひきつけてゆく・・・・・
今にもお互いの唇が触れそうになって、横島も目を閉じた。そのとき・・・・・









ポンッ!

何かが弾けたような音と共に、肩にかけていた両手が突然上に引き上げられて、横島はバランスを崩す。

「!!?」

横島は咄嗟のことに反応できず、向こう側に頭から倒れこんでしまう。

「きゃっ!」

ふかっ

しかし横島の頭を受け止めたのは硬い床ではなく、何かふかふかしたものだった。

「???」

横島が現状把握のために、立ち上がろうとした。そのとき・・・・・







キンっ・・・

横島の背後で、なんだかすごく聞き覚えのある音がした・・・・
しかも、ごくごく最近に・・・
なぜか記憶が曖昧でハッキリとは思い出せないが、これは・・・・・

確認のために、背後を振り向くと。そこには・・・


パワーを込め過ぎて、もはや神通鞭と化したエモノを構える美神・・・
あうあう・・・と、驚きとも諦めともつかぬ切なげな表情を浮かべるシロ・・・
興味の眼差しをむけるタマモ・・・

が、立っていた・・・

「・・・?? み、美神さん・・・!? ど、どうしたんスか? それ・・・・・」
「あんたドコの馬の骨か知らないけど!ウチのおキヌちゃんに手を出そうとするなんていい度胸じゃない!!!極楽に・・・行かせてあげるわっっ!!!!!」

1分後・・・血だるまになった横島が床に転がった・・・









「おキヌちゃん、大丈夫!?あの変態男に何もされなかった!!??」

「え・・・? あ、はい・・・・・・・」

美神は、おキヌが元の姿に戻っているのにも気付かず、ものすごい剣幕で問い詰めた。
それもそのはずで、おキヌが着ていた子供用の服は、おキヌが急激に元の大きさに戻ったために大変な惨状を呈しており・・・・

スカートなどホックが弾け飛んでスリットから破けてしまっているし、
シャツのボタンもみんな弾けてしまい、丈だって胸の下あたりまでしか無い。
さすがに伸縮性の高い子供パンツは、クマさんの顔が伸びきる程度で済んだが、
ブラジャーなどはもとよりしているはずも無く・・・

つまり、かなり『あられもない姿』になっていたのである。
横島はそれに・・・と言うか、おキヌが元の姿に戻った事にすら気付かなかったようであるが、
美神たちが事務所に踏み込んだ時には、中年男性の姿で“そんな”おキヌちゃんにのしかかっていたわけで・・・・・・

「人工幽霊一号!あなたが居ながら、なんであんな変質者を事務所に入れたのよ!?」

『え?・・・いえ、しかし―――』

美神が勘違いするのも当然と言えば当然なのだが・・・・

「美神どの・・・・・拙者、ニオイで分かるんでござるが・・・・・・アレは・・・横島先生でござるよ・・・?」

シロが冷や汗を流しながら、血の海に浮かぶ物体に目をやる。

「うんうん。横島とおキヌちゃんって、そーゆー関係だったのね。知らなかった・・・」

タマモも訳知り顔で、しきりと感心してみせる。

「へ!? 何・・・・? コレが・・・横島クン・・・・?」

美神がキョトンとした顔で全員を見渡す。
これには、おキヌちゃんも含めた全員が首を縦に振る。
















一瞬の空白の後

「横島あァ!あんた事務所で・・・しかも中年に変身して・・・なんて!!!不埒にもほどがあるわよっっ!!!!!」

さすがに一般人を殺しては色々マズいという意識が働いて、先ほどは多少手加減していた美神だったが、相手が横島と分かれば何の心配も要らない。
すでに意識の無い横島に向かって、容赦なく攻撃を再開する。
その様子からは、もはや『怒り』というよりも『殺意』を感じ取れるくらいだ。




「せんせえぇえ!!それが先生の選んだ結論なのでござるかっっ!!??拙者・・・・拙者はあぁっっ!!!」

シロはまたドコで覚えてきたともつかぬセリフを口走る。
言葉の使い方以前に、前提としている条件がはなはだ勘違いである・・・・と、思うのだが。




おキヌはと言うと、その場の騒ぎもどこ吹く風で・・・・

「ああっ、横島さんにあんなふうにしてもらえるなら・・・もう一度小っちゃくなっちゃってもいいかも・・・・・・きゃっ♪」

一人、今日のことを思い出して『おとめちっく』な感傷(?)にふけっていた。



「・・・・・・・・・・(汗)」

この日タマモは、
この事務所内で唯一“まとも”だと思っていたおキヌちゃんが、やはり“この事務所の者”であることを深く思い知って、
深刻に家出を検討したとかしなかったとか・・・・。









 ――後日、厄珍堂にて――

「ふむ。それじゃあ、ボウズが食べてもちゃんと10歳年を取ったあるね?」

「ああ。おかげで俺は変質者と勘違いされて酷い目に遭ったよ」

横島が本当に酷い目に遭ったのは正体が分かった後なのだが、そんなこと本人が知る由もない。
まあ、こうしてちゃんと生きているのだから、知らぬが仏だろう。

「結局お譲ちゃんは6時間くらいで元に戻ったわけか?ふむ、やはり霊能力者相手だと効力が長続きしないね・・・」

「そーなんだよなー。あとほんのちょっと遅けりゃ、キスできたのに・・・・」

「? きす・・・・?」

「だから、おまえが言ってた『お姫様の呪いを解く王子様のキス』だよ!」

「・・・ああ。あれは嘘ね!口から出任せあるよ」












「は!?ウソ!!?」

「あの時ボウズが物凄い剣幕だったから、その場しのぎに思いつきを教えたある」

「そ、それじゃ・・・・」






「あのあと俺が年取ったのを直すために、美神さんにキス迫ってぶっ飛ばされたのは何のためだったんだああぁぁぁ!!!??」
「・・・・・・・・・(汗)」

厄珍は、つくづく懲りない横島にはもはや二の句も継げなかったが、

(コイツは何度でも使えるあるね・・・・!)

また新しい薬が入ったら実験台にしてやろうと考えるのであった。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa