ザ・グレート・展開予測ショー

たった一行で〜 


投稿者名:veld
投稿日時:(02/12/23)

   

   これは『たった一行で〜』の続編っぽい感じです(あいまい)。




 鏡の前で作る笑顔はどこかぎこちない。苦笑いと言うよりも、引き攣り笑いのような、出来そこないしか作れなかった。不器用なものだと思う。我ながら。
 GS協会主催のパーティーで、クソジジイをぶん殴った末に下ったのは、三ヶ月の営業停止。意外にたいした事はなかった、多分、相手方が悪いと思っているからではないだろう。まぁ、殴られて悪かったなんていうような奴ならあんなことは言わないだろう。上位に位置しているGSの問題行動にたいする外面って奴だろうか?
 最強のGSランク、SSS(トリプルS)級をくれてやるから来いというから行ってやったのだが、どうやら、俺はお偉方には嫌われているらしい。経験の少ないガキが持つには身分不相応の代物だ、そうだ。そう俺の目の前で話をするベテラン連中に俺の隣にくっついていたシロと夢乃が今にも噛み付かんばかりに睨みつけていたのを思い出す。―――自然、笑みがこぼれた。
 まぁ、その時は何とも思わなかった。そういう類いのジェラシーなど、俺が気にするほどのことではない。実力がないくせに・・・、などと言うつもりもない。彼らの言う通りなのかもしれない。俺は、本来ならここまで強くなることは出来なかったはずだった。子供の頃からGSとしての訓練を受けたわけではない。言うなれば、才能とか言うやつでここまで来てしまった人間だから。
 「確かに・・・、『身分不相応』だな」
 苦笑が漏れた。それが彼らの噂話に対する嘲り笑いのように聞こえたのか、それとも、揶揄したように聞こえたのか、分からないが、彼らは俺から離れていった。シロと夢乃はその後ろ姿に舌を出していたが。

 それから、すぐだった。―――俺がその言葉を耳にしてしまったのは。俺が最も言われたくない言葉。それは明らかに俺に聞こえるように言われたものだった。そいつがどんな気持ちでそんな事を言ったのかなんて知らない。ただ、そいつは俺を嘲る事無く、彼女を嘲った。正直、俺のことなどどうでもいいのだ。
 
 振り返り、
 
 そして、俺はそいつを殴りつけた。

 
 回想は何かの砕ける音と共に中断される、俺の姿を映していた鏡が割れていた。そして、右の拳から血が滴っている。ガラスの突き刺さった拳がひどく痛む、がそれ以上に心が痛かった。蛇口をひねり、水で傷口に当てる。鈍痛に顔をしかめながら。

 「先生っ!!やめるでござるよっ!!」
 
 「横島さん!!」
 
 バキッ、ベキッ、思わず耳を塞ぎたくなるような鈍い音が響いた。俺の目の前で倒れている男、そして、馬乗りになる俺。まず、右拳で二発、続けざまに左で一発。それでおし倒し、馬乗りになった状態で右、左。前歯が折れ、口から溢れた血がだらだらと流れ落ち、床を濡らしている。深紅のカーペットと血の色の違いが良く分かる。俺は何となく、そんな事を考えていた。
 
 「咽喉潰せば、もう、あんなこと言えなくなるよな?おっさん」
 
 俺は文殊をポケットから出した。意識朦朧となっている男の咽喉に当てた。
 
 「よしなさい」
 
 誰かの声。俺は気だるそうに振り向いた。
 そこにいたのは、美神さんのお母さんだった。通称、隊長。
 
 「何故、ここにいるんです?」
 
 「GS主催のパーティーに、私が来ていたらおかしいかしら?令子もおキヌちゃんもタマモちゃんも、後から来ると言っていたわ。・・・まぁ、もっともぶち壊しになっちゃったみたいだけど」
 
 そういって肩をすくめると、俺の下敷きになっている男の姿を見る。
 
 「その人、GS協会の幹部よ。早く降りてあげたら?」
 
 顔をしかめているのは、俺に対してか、それとも、この俺の下にいる男に対してか
・・・多分、俺だ。
 
 「こいつが幹部ですか。どうやら、人間性ってのはこの協会では無視されているらしいですね」
 
 まぁ、俺みたいなのをSSS級にあがらせるようないい加減なとこならこんな奴でも十分勤まるんだろう。蹴りを入れつつ、立ち上がる。
 
 「人をこけ下ろすようなパーティーなんて、金(電車賃)と労力と時間の無駄ですよ。シロ、夢乃、帰るぞ」
 
 彼女らは目を見開き俺を見ていた。そこには、まるで俺でない誰かを見ているような色があった。―――そう、彼女らは俺を見ていなかった。
 
 「・・・隊長、彼女達をよろしく頼みます。それと、美神さんたちにはよろしく伝えてください」
 
 そう言うと、その場を後にした。シロと夢乃は動く気配すらない。俺は嘆息すると、出口につながる扉を開けた。

 「横島くん!?」


 



 「魔族の女を口説き落として、利用するなんてやるじゃないか。流石は、SSSになるだけはある・・・愚かな連中を利用する術は知っているわけだ」

 
 違う。

 
 俺は、彼女を本気で愛してた。

 
 誰よりも、一生懸命俺を愛してくれた彼女を。

 
 命を掛けて、俺の中に残ろうとしてくれた彼女を。

 
 思い出になろうとした彼女を。

 
 共に生きることを、誓った彼女を―――。

 
 右手から流れ続ける血。それは少しだけ、人のものとは違って見えた。

 
 そして、再確認する。

 
 この体は、彼女のもの。

 
 俺のものじゃない。

 
 俺と、彼女のもの。

 
 何故だろう?

 





―――涙が溢れた。






 ―――三ヶ月、か。短くも、長くもない、中途半端な時間。骨休みには長すぎる。かといって、全てをやり直すには短すぎるだろう。シロには美神さんのところに戻ってもらうか・・・。夢乃も・・・、多分置いてくれるだろう。駄目でも、今までの仕事での収入があるから三ヶ月程度なら彼女らが遊んで過ごせる位の給料もやれる。
 問題は、俺だ―――。










 「あいつ、GS協会の幹部ぶん殴って、営業停止食らっちゃったらしいから・・・、シロ、あんたはうちに戻りなさい」
 
 この事務所から離れて、それ程時間が流れたわけではない。それでも、妙にこの場所が自分にそぐわなく感じるのは、あの事務所の中に、自分の居場所を見つけてしまったせいなのかもしれない。私は、応接間で私の前に座る美神殿を見ながらそんな事を思った。
 
 「・・・いやでござる」
 
 「あんた、他に行く当てあんの?」
 
 「・・・ないでござる。でも、先生から何も言われてないでござる。拙者が勝手に答えてしまって良いことではござらん」
 
 何も言われていない、いや、彼は言えなかったのではないだろうか?そう思うと、胸が痛む。泣きたくなるくらい、切なくなる。
 
 「夢乃ちゃん、あなたは?」
 
 私の隣にいる夢乃殿に美神殿が尋ねる。私は彼女の答えがわかっていた。
 
 「私も、横島さんを待ちます。きっと、お腹がすいたら帰ってきますから。だって、私達が食べているお米、おいしいんですよ」
 
 どう考えても、それはいつもの彼女の様子ではなかった。空元気としか思えない、彼女はここまで来る間、ずっと、私と一緒に落ち込んでいた。いつか、先生が歌っていたドナドナが似合いそうなくらいに。美智恵殿についてゆく私達は売られて行く子牛のように惨めに見えたことだろうと思う。
 
 「・・・ま、いいけどね。確かに、シロの言うことも一理あるかもしれないわね。私がどうこう言って良い問題でもないし・・・それに・・・」
 
 彼女は言葉を選んでいるようだった。そんな彼女の様子はとても苦しげで、
 
 「申し訳ないでござる・・・美神殿」
 
 私は思わず謝っていた。
 
 「・・・いいのよ」
 
 気のせいか、彼女が安堵の表情を浮かべているようにも見えた。


 

 どうして、拙者はあの時、先生についていけなかったのでござろう・・・。先生は、あんなに悲しそうな顔をしていたのにどうして―――。

 仕事用の携帯電話が震えた。ポケットから取り出し、液晶画面に映る文字を見る。『公衆電話』。
 いつもなら、この時点で切っている。こういう状況の場合だと、悪戯電話でないほうが珍しい。でも、その時、何故か俺は通話ボタンを押していた。
 

 「・・・横島忠夫除霊事務所ですが」
 
 「くくく・・・はははっはは!!やっぱ、あんただったのか!!いつの間に独立したんだ?横島ぁ」
 
 電話の向こうから聞こえる声は懐かしい旧友の声。本当に長い間会ってない。思えば、俺が壁にぶつかった時に、一緒に乗り越えてきたのはこいつじゃないかと思う。厄介ごと背負い込んでくる、トラブルメイカーでもあるが、その度に間違いなく俺は強くなれた。

 「久し振りだな、雪之丞・・・」
 
 「ああ。ところで、横島、お前に頼みたいことがあるんだが」

 鴨が葱背負ってやってきた。
いや、
 雪之丞がトラブル抱えてやってきた。
―――まぁ、意味としては大差ないが。今の俺にとっては、ね。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa