横島 IF 第一話後編
投稿者名:777
投稿日時:(02/12/23)
「・・・おい!まだ先なのか!?」
俺は今、猛吹雪の中を山に登っている。
「あと2時間くらいであります!!」
俺の連れが元気よく答えた。その元気さがとてつもなく憎い。
「そこへ着いてもこんな天気で死体を探せるかっ!!俺まで死んでしまうわいっ!!」
「この程度ならビバークすれば大丈夫っスよ!心配ないっス!!」
そりゃお前はな。
ああ。俺は何でこんな吹雪の中、幽霊と二人で死体なんか探してるんだろう?
涙すら凍りそうな吹雪の中、俺は少しだけ泣きながら、美神さんとの会話を思い出していた。
――――――――――――――――――――――
(2時間前)
ホテルに着くと、美神さんが鍋を突っついていた。
すでに中身が残っていないあたり、美神さんは俺のことが嫌いなのかも知れない。
ま、それはともかくとして。
「15,6の女のコの幽霊? 今回とは別件ね。」
『お腹一杯』とかなんとか言いながら俺の話を聞き終えた美神さんは、そう一言で切って捨てた。
なんでも、温泉に出るのはムサ苦しい男の幽霊らしく、今回の件とは関係ないそうだ。
「で…でも俺、殺されるとこだったんスよっ!!」
「生きてるんだからいーじゃない!横島クンが除霊料金出すなら別だけど。それより、お腹も一杯になったことだし、問題の露天風呂に行くわよ!」
・・・。そうとも。美神さんはこういう人だったさ。
金が絡んで来なきゃ、絶対動かない人だもんな。
でもさ、美神さん。一つだけ聞いて良いか?
俺のメシは・・・?
「みたとこ霊の気配は無さそうね。少なくともここに地縛されてる霊じゃないみたい」
くるくる回る機械を手にしながら、美神さんが呟いた。
「やっぱ女性が風呂に入ってないとダメなのでは?ほら、俺はそのあいだメシ喰ってますから」
風呂云々はどうでも良い。俺はメシが食いたい。
「うーん…じゃ、とりあえず入ってみましょーか。横島君はご飯食べてて良いわよ」
やった!メシが食えるっ!!
だが美神さんがそう言った瞬間、くるくる回ってた機械が停止して髭面の男が現れた。
「じっ…自分は明痔大学ワンダーホーゲル部員であります!!寒いであります!!助けてほしいでありますっ!!」
断言しよう。貴様はこの俺の敵だ。
俺がメシ喰う間くらいなんで待てんのだっ!!もーちょっとで…もーちょっとでメシが食えた物をっっ!!!
「な、何で自分は親の仇のような眼で見られているのでありますか?」
「食い物の恨みは恐ろしいんでしょ」
話を聞くと、こいつは遭難で死んだ男の霊らしい。
死体を見つけて供養すればおとなしく成仏するそうだ。
封印して燃やせばいいと言う俺の案は却下された。何故だ。
『帰ったらたらふくご飯食べさしてあげるから』
・・・。出来れば、出発前に食べさせて欲しかった。
ま、っつ〜わけで、今にいたるというわけだ。
――――――――――――――――――――――
「さ…寒い…暗い…腹へった…」
幽霊の立てたテントの中、俺は毛布にくるまって寒さと空腹に耐えていた。
「コーヒー、出来たっスよ」
俺にコーヒーを手渡す幽霊。自分はなにも飲まず、俺の横に座っている。
「…横島サン、俺、嬉しいっスよ!」
何がだ。
「死んだあともこうしてもう一度男同士で山の夜を過ごせるなんて…俺、すごく嬉しいっス!!」
『ぞくっ』
何だこの寒気は?
つまりお前はあれか?ホモっ気があるのか?
………冗談じゃない!
俺には霊能力がないから、襲いかかられたら抵抗できんぞっ!
「ごっ、誤解せんでください!!俺が言ってるのは男同士の友情とゆーか連帯とゆーか…そーゆう意味っスよ!」
本当だろうな?
幽霊から全力で距離を取る。だが、幽霊は少しずつ近づいてきて…
「寒くないっスか横島サンッ!!」
顔、赤らめやがった。
「ひーーーーーーーーーっ!!!」
俺は全力で逃げ出した。
――――――――――――――――――――――
走る。走る。走る。
寒さと空腹で朦朧とする意識。もう限界だ。
だが、足を止めるわけにはいかない。
足を止めたら俺は死んでしまう。
「いやだっ…!!俺は死なんぞーっ!!生きのびて肉を喰うんだっ!!やーらかくて美味しい肉をっ!!ああっ!!肉ーーーーっ!!!」
後ろから奴が追ってくる。いやだっ!足を止めたら食べられてしまうっ!
肉が喰いたい。食べられたくない。
だから走る。走り続ける。
「えいっ!!実力行使!!」
『ばきぃっ』
どれくらい走り続けただろうか。
何かに殴られ、俺の足が止まってしまった。意識が、更に朦朧とする。
俺を殴った何かに目を向ける。そこにいたのは…
巫女服を着た『肉』だっ!!
「わーーーっ!!肉やーーーーっ!!」
「キャーーーーーッ!!」
やーらかくて美味そうな肉だ。俺は躊躇わず、肉に貪りつこうとした。
「いやーっ!」
だが、俺の手からささっと逃げる『肉』。むむ、生意気な。
「きゃーっ!誰かーーーっ!!」
「肉ーっ!」
「横島サーン!」
肉が逃げる。俺が肉を追う。俺が逃げる。奴が俺を追う。
追って追われて走って逃げて。
気づいたら、俺は露天風呂の壁をぶち破っていた。
ただいま、美神さん。
とりあえずご飯食べさせて…。
――――――――――――――――――――――
結局、どうなったかというと。
俺がメシを食べている間に、美神さんが全て決着をつけていた。
巫女服を着た肉の名前はおキヌちゃん。300年ほど前に人柱になった霊だが、才能が無くて神様になれなかったらしい。
俺を殺そうとしたのは、神様の役目を代わって貰いたかったから、だそうだ。
美神さんはその役目を、ワンダーホーゲル部のおっさんに回した。
これでワンダーホーゲル部は山の神となり、おキヌちゃんは成仏。めでたしめでたし…のはずだったのだが。
「あの…つかぬことをうかがいますが、成仏ってどうやるんですか?」
おキヌちゃんは成仏出来なかった。
なんでも、幽霊として安定してしまっているからだそうな。
「よし、こうしましょう!うちでお祓い料金分働きなさい!日給はフンパツして30円!」
「やりますっ!いっしょーけんめー働きます!!」
おキヌちゃんは俺の同僚として働くことになる。
いくら何でも日給30円は非道すぎる気がするが、本人が納得してるんだし良いんだろう、きっと。
俺は自分の給料に納得した覚えなど、一度たりとも無いが。
「ま、いっか。よろしくな、おキヌちゃん」
「はいっ!よろしくお願いします!横島さん!」
こうして、美神除霊事務所に新しい仲間が加わった。
――――――――――――――――――――――
第一話後編終了です。
次は多分冥子ちゃん登場の回です。
もしかしたら銀行強盗かグレムリンかもしれません。
新キャラ登場の回は全てやるつもりですが、それ以外の単発の話は気力次第です。
では、第二話で会いましょう。
今までの
コメント:
- に、肉ですか・・・・!? おキヌちゃん・・・・ 笑えました。 (狐)
- ワンダーホーゲル男が登場した際に、原作では令子の入浴シーンを拝めなかったのを責めていた横島クンですが、煩悩が然程はたらかない(らしい)今作の横島クンは割合とフツーの反応をしてますね(爆)。おキヌちゃんを「肉」と認識して追い掛け回しているあたりはいかにも横島クン「らしい」気がしましたが(笑)。今後は原作のどの場面が舞台となるのでしょうか? 次回も楽しみにしております♪ (kitchensink)
- 色気より食い気?
むぅ、何か期待してしまったぞ(馬鹿)おキヌちゃんが肉ですか・・・。そんなに飢えてたんですか・・・。横島くん。うむ、その意気や良し!!(何が)
やっぱり、明痔・・・なんだなぁ・・・(涙)
(veld)
- 感想、どうもありがとうございます。
>狐さん
光栄です。
第二話も読んでいただけると嬉しいです。
>kitchensinkさん
この横島君の煩悩は食欲です。
実は働きまくってたりします。
>veldさん
横島君の欲は肉欲です。
読んで字の如く。
で、明痔…はコミックからです。そう、表記されているので。 (777)
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa