ザ・グレート・展開予測ショー

舞姫 後編


投稿者名:veld
投稿日時:(02/12/21)

 


 「と、言うわけで」
 
 「先生?何がというわけなんでござるか?」
 
 「聞くなシロ。人には言ってはいけないことの一つや二つはあるもんなんだよ」
 
 「?」
 
 「ところで、何人くらい集まった?」
 
 「そうでござるな・・・。チケットを美神殿が半分以上受け取ってくれ、美神殿の母上がその更に半分。あとは、おキヌ殿にタマモ、神父殿、ピート殿、タイガー殿、エミ殿、冥子殿、冥子殿の母君・・・あとは」
 
 「子鳩ちゃんと子鳩ちゃんのお母さん、あと貧の奴には俺が渡しといた。カオスにマリアも来るって言ってたけどな。マリアが。」
 
 (美神さんはチケット転売する気かも知れねえな、いやっ、そうするに違いない!!ってゆうか、そうじゃないと美神さんがチケットをそんなにたくさん受け取る必要がないもんな。)
 
 少なくとも、人助けのためじゃねえ、そこまで思考をめぐらせた時、舞台の上で、緊張している少女の姿が見えた。
 
 「どうした?」
 
 彼女がこっちを向く。可哀想なくらいにがちがちになってしまっている。
 
 「何度も舞台の上には上がってるんだろ?そんなにあがることはないと思うが?」
 
 「不思議ですよね・・・。いつもは平気なんですけど・・・。今日は私を見に皆さんいらっしゃるんですよね・・・」
 
 「そうでござるよ!拙者も楽しみにしてるでござる!!」
 
 わざわざそんなプレッシャーかけるようなこと言わなくても・・・。苦い顔でシロを睨むが、当の彼女は少女を激励していて気付く様子はない。心からのシロの言葉に、どうやら少女も我を取り戻すことが出来たらしい。シロの手を握り締めて、頑張るわ、と微笑んだ。ただ、その笑顔は苦笑いにしか見えなかったが。

 

 どうやら、相当な数の人が美神さんのチケットによって集まったらしい。
 美神さんはエミさんと喧嘩しつつも、いつもほど険悪な様子はない。おキヌちゃんのとりなしも多少の効果があったのかもしれない。
 よって、冥子ちゃんがプッツンすることもなければ、唐巣神父が神に祈りを捧げることもない。美神さんのお母さんが説教することはない。どうやら、ICPOの職員も見に来ているようで、彼女は彼らと話をしていた。彼女がチケットを持っていったのは職員に配るためだったのだろう。その中に西条もいた。どこか気乗りしない様子で、幕の下りた舞台を見つめている。
 子鳩ちゃんは慣れない雰囲気に緊張している様子だったが、そのお母さんはそれほど力が入った様子はない。劇を見に来たことがあるのかどうかは知らないが。貧は無意味に堂々としている。
 カオスは大家の姿がないか、講堂の中を見渡している。マリアはそんなカオスの外套の裾を軽く引っ張っている。どうやら、カオスの不安因子はこの講堂のどこにいるのをマリアは見つけたようだった。タイガー、ピートは、それぞれエミさんの隣に。タイガーの隣にいる魔里は彼女の隣にいる弓と話しつつ、タイガーをちらちらと見ている。どうやら、エミさんに向けるタイガーの視線が気になっているらしい。弓はそんな魔里の様子を見、ここにいない思い人に思いを馳せていた。

 


 ブザーが鳴ると、ざわめいていた客席が静まる。舞台の幕がシュルシュルという音と共に開き、照明がともる。それ程明るくはない。しかし、踊り子の姿は見えるくらいの光度。 
―――静かに、彼女は動き始めた。その目に、先ほどまでの惑いの色はない。―――
踊り自体は長くはない。それでも、この時を永遠に感じさせるだけの完成度の高いものがそこにある。
 彼女は美しかった、それはその容姿だけでない。一挙一動の華やかさ、そして、儚さ。彼女の舞は切なかった。まるで、一瞬、刹那に見える煌き、瞬きをする間すら与えさせてはくれない、淡い輝きがそこにあった。

 ―――蛍の輝き―――

 彼の頬を涙が伝う。周りを見回して、自分の隣にシロがいるのに気付き、慌てて袖で拭う。そして、客席のほうに視線を無理やりにずらした。客席の中で少なくない人が、音もなく、声もなく、泣いている。ただ、頬を濡らしている。
 彼女は笑顔だった。それでも、彼女の中にある何かが、感動を与える。芸術って奴にまるで関心がない彼でさえ、そして、そんな彼よりもそういうものに興味がなさそうなシロでさえも、その彼女の何かに触れ、強い感銘を受けていた。
 舞は突然に終わる。
 まるで、命尽き果てたかのように崩れ落ちるその姿はもはや芝居といってもよかった。超一流の俳優でさえ出来ないであろう、演技。それは本当の生命の終わりの瞬間の生々しさを感じさせる。そして、それは嵐の過ぎ去った日の夜のようだった。誰もいない、全てが終わった後の生命のない時間。

 まるで凍りついたかのように静まり返った講堂の中に、乾いた音が響いた。それは誰が鳴らしたものかは知れない。しかし、皆、その音に誘われるかのように手を叩き始めた。そして、それが重なり合い、講堂に溢れんばかりの賛歌が流れ出す。
 割れんばかりの歓声の中で、舞台上、倒れ付した少女に近寄る一人の青年。彼はそっと、少女の手を取った。が、触れることは出来なかった。すり抜けてしまう時に感じる僅かな冷気。彼女は生きてはいない、幽霊だった。

 「不思議なもんだ―――命のない、あんたが、誰よりも、命を感じさせる舞を踊れるなんて・・・」

 「私は・・・命を持っていますよ?誰だって、きっとそうですよ。命は肉体じゃない。もっと、違うものなんだと思います」

 「そう、かもな」

 不意に脳裏をよぎる少女の顔。

 「そうですよ」

 笑顔を作った彼女の顔に重なる。抱きしめたくなる衝動を必死で押さえながら、その手を頭に置く。今度は触れられた。わずかばかり、霊気を身に纏ったから。その髪を撫でる。少しだけ、霊気を分けてやる。そして、少女を舞台の前方に押してやる。

 「皆さんに、挨拶しな。お前が、主役なんだからな」

 「はい」










 「鳴り止むことない拍手の中で、彼女は何度も何度もお辞儀をした。そして、綺麗な笑顔を向けると、そのまま消えてしまった。それから彼女の姿を見たものはいない。彼女はどこへ行ったのか?ちゃんと成仏できたのか?それが気がかりで夜も眠れない。」




 「・・・って言うか、夢乃殿はここにいるでござるよ?先生」




 「そうです。勝手に行方不明にしないで下さい」



 そうなのだ。



 「ご飯おいしいですぅ・・・、だとか言って事務所の中に住み着いてたんだよな・・・。いつのまにか」


 呆れ顔の俺に対し、夢乃はニコニコしながら言う。

 「だって、ご飯は」

 「はいはい」

 そんなこんなで、俺の事務所に一人(?)、幽霊が加わった。ま、居候みたいなもんだが。

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