ザ・グレート・展開予測ショー

舞姫 前編


投稿者名:veld
投稿日時:(02/12/21)




 誰もいない舞台の上で舞う一人の少女。その顔は真剣そのもので、誰の邪魔も許さない、冷たく鋭い気配を放っている。ピリピリとした空気が舞台裏まで届くようだった。

 「あれが、あなたに退治して欲しい霊なんです」

 妙齢の美女であるこの講堂の管理人は、目の前の青年に舞台上の少女を指差し、そう言った。あまり温かみのある声ではない。むしろ、冷たい声音。あの少女がいかに彼女の仕事の邪魔をしているかを先ほど耳にたこが出来るほど聞かされたばかりだったので彼女の不機嫌な理由は分かるが、それにしてもいただけない。美人なだけに。青年はため息をついた。もちろん、彼女の態度だけが問題なわけではない。

 「あのタイプの霊はスポーツで勝負しろ・・・、ってタイプなんだろうな」

 今までにも、そんな霊とは会ってきた。そして、そのいずれにもろくな目に合わされていない。相性の悪さでは水と油くらいなものだった。断ろうか、とも一瞬考えたが、とても今更断れる雰囲気でもなかった。話し合いの場面で具体的な例の話を聞かなかったのは問題かもしれなかった。独立して初めての仕事なので、焦りすぎていたのかもしれない。

 「シロ・・・は無理だろうな。あいつ、ダンスとかは向いてなさそうだし。せいぜい、盆踊りってとこだろう・・・」

 彼の事務所唯一の所員であるシロが盆踊りを踊っている姿を想像すると、妙に似合っている。ダンスだと、激しい感じなものは合いそうだが、今、舞台の上で踊っている彼女のダンスはスローなものだった。それでいて、優雅であり、美しい。静の動きの美しさって奴だろうか?

 「・・・っても、勝負の仕様がねえよなぁ。どちらが上手いかなんておかしな話だしな。・・・ってゆうかそれだと俺に勝ち目はねえな」

 倒そうと思えば倒せる。文殊で攻撃するなり、霊波刀で一刀両断すれば早い話だ。倒そうと思えば方法なんていくらでもある。あるのだが。
 背中に感じる依頼人の視線を感じながら、彼は舞台に上がっていった。

 「なぁ、そのダンス、何ていうんだ?」

 「?」

 少女は動きを止めると、彼をまじまじと珍しげに見つめ始めた。いくら見ているのが女の子であっても、あまり気持ちのいいものではない。居心地悪そうに、少女の答えを待っていたが、少女は口を開かない。

 「・・・聞いてるんだが、教えてくれないのか?」

 少女は視線を彼の目に置いた。必然、彼は少女の目を見ることになる。濁りのない、ブラウンの瞳。良く見なくても、少女は掛け値なしの美少女だと言えた。そして、その目は表情豊かに見える。あのひりつくほどの鋭い空気は霧散して、穏やかな空気が流れ出す。
 答えが来るまでの間、少女と見つめ合う。不思議と、さっきまで感じていた焦燥感のようなものは感じなくなっていた。さっきよりもずっとそうなりそうな状況にもかかわらず、だ。不思議なほど、心穏やかになる。

 「何してるんですか!?彼女を早く退治してください!!」

 後ろからうるさい依頼主の声が響く。が、無視した。彼はただ、彼女の答えを待った。自然、浮かぶ笑みを隠す事無く、ただ、彼女を見つめながら。

 「このダンス・・・、いえ、ダンスと言うより、舞は、私が考えたものなんです」

 少女は得意げに、それでいて寂しげに告げた。そして、唇を噛み締める。目を伏せて、視線をそらす。彼は彼女の目を追っていた。そして、そこに光るものを見た。

 「人のいる前で踊ってみたかった。だから、悔しかったんです。私の舞を勝手に自分のものにし、堂々と人前で踊っている人たちの姿が憎らしかった。馬鹿げたことかと思われるかもしれませんが、情けないことかもしれませんが・・・」

 「情けないことはないと思うが。―――っていうか、俺は見たことがないぞ。そんな美しいもの・・・。そんなに綺麗なもんなら、みんな知ってると思うし。別に気に
やむことはないと思うが」

 「だからこそです!!」

 彼女は声を荒立てた。

 「だからこそ、未完成どころか、私の舞の持つものをまるで理解していないような人が舞うことが不愉快なんです!!」

 「まぁ、気持ちは分かるような分からんような・・・」

 「言うなれば品種改良を加えたおいしいお米を作った製作者が私だとして、それを『げっかびじん』としたとして、後からその改良を受け継いだ人が作ったとんでもなくまずいお米を作ったそれを『げっかひじん』というのと同じくらいの不愉快さを前製作者の私は感じているわけです!!!」

 「分かった、ような気がしないでもないな、うん。ただ、どうして、米?」

 「私がお米が大好きだからです(きっぱり)」








 「横島さん!?どういうことですか?早く退治してくださいませんと困るんです!」

 ヒステリックな人だなぁ、と横島は顔をしかめつつ、少女の話に耳を傾ける。まぁ、話とはいっても、半分以上、ほとんど全ては愚痴みたいなものだ。何気に、見た目の割には歳を食っているのかもしれない。霊の姿なので、年齢の概念などないのかもしれないし。若い者はなっとらん、とはいつの時代も変わることのない万国共通の名言だ。

「んで、お前さんはこの講堂の管理人の舞が見るに耐えない酷いものだと言いたいわけだな。んで、その公演の途中で乱入してくると」

 どっちが悪いのかいまいち分からない。

 「失礼な!本打ちは後から堂々と入ってくるものです。むしろ、私から言わせてもらえば、あんな下手な舞を見せてお金をとろうなど詐欺以外の何者でもありませんし、やはり私が見せなければならないと思うわけです」

 実際、私の方が受けはいいんですし。

 「だから、乱入してんじゃねーか」

 幽霊だからってこともあるんじゃね―のか?何気に。そんな事を考えていると、呆れたような声音の声で自然と出てしまっていた。

 「人の話を聞きなさい!!早く、彼女を退治して」

 まあ、これは無視するとして。

 「乱入ではありません!!」

 まぁ、お前にとってはな。

 「まぁ、それはいいんだけどな、このままじゃ、俺はお前を倒さなけりゃならないわけだ。分かるだろ?」

 深く頷く。

 「勝負・・・しますか?」

 「何の?」

 「舞の」

 「却下だ。俺は舞なんて踊れないし」

 拳を頭上高く振り上げ、謎の踊りを踊りだす。その踊りが原因か、それとも、彼の台詞が問題か、彼女は顔をしかめつつ、尋ねた。

 「では、私に問答無用で天国に行けと?」

 「まぁ、天国に行くか、地獄に行くかは知らんが・・・。それも、こちらの方法の一つではあるな。最悪の場合、それも辞さない覚悟だ」

 踊りながら言う。何とも見ていて気の抜ける踊りだったが、無視されてお冠の管理人や、それどころでない少女はその踊りに何思うこともなかった。

 「酷い、酷すぎます・・・」

 よよよ、と目元を手で拭う仕草をする。滅茶苦茶うそ臭い。と言うより、嘘だろう。多分。

 「安心しろ。問答無用なんてことはしないから。お前の目的は多くの人に見られたいっのなんだろ?それなら、俺がそういう舞台を用意してやるよ」

 「本当ですか!?」

 「ああ、それで未練無くして成仏してくれ」


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