ザ・グレート・展開予測ショー

ささやかな祈り


投稿者名:tea
投稿日時:(02/12/19)

 生きたい。ただ、それだけだった。




 ずっと、雑音の中で生きてきた気がする。帝の寵愛を一身に浴びる私の周りでは、様々な思惑や姦計が交錯していた。
 女連中から向けられる、嫉妬と羨望の思い。
 男連中から届けられる、媚の篭った生臭い贈物。
 人というのは、とかく権威や力に弱い。砂糖に群がる蟻の様だと、常々思う。私は、そんなものには存外興味はなかった。生きていく為にはより強い庇護が要る。そのためだけに帝を篭絡した。
 政治の道具として利用しようと近づいた貴族達は、軽い幻術をかけると尻尾を巻いて逃げていった。丑の刻参りを画策した側室のお局達は、意趣返しに遭って残らず病床に臥せっている。
 誰も、私を私として見なかった。在るのは、「帝のお気に入り」としての私だけ。つまり、そのレッテルを剥がしてしまえば、連中にとって私は路傍の石ころ程度の存在価値なのだろう。
 寂しくもないし、悲しくもなかった。あんな連中と付き合うのは、こっちから願い下げだった。
 生きていたい。それだけが、たった一つの私の思いだった。





「・・・マモ。タマモ!!」

 誰かが、私を呼ぶ声がする。はっとして声の方を振り向くと、バカ犬が不機嫌そうな顔で私を睨んでいた。

「なに、ぼーっとしているでござるか?声をかけたのだから、さっさと返事するでござるよ」

 まるで私が悪いかのような口ぶりだ。確かに呼びかけを無視したのはこちらに非があるが、こいつにけなされるのだけは我慢できない。

「悪かったわね。アンタと違って、色々と考えることがあるのよ」

 鼻で笑うようにして言い返す。案の定というかお約束というか、シロは食って掛かるようにして反駁してきた。つくづく直情的なものだと内心苦笑する。

「まったく、お主はどうしていつもそうなのでござるか!」
「うるさいわね、アンタには関係ないでしょ?」

 まるで会話が噛み合わない。水と油というか、犬猿の仲というか。咆えるようなシロの口撃が耳につく。きっと私の顔には、無数の縦線と怒りマークがくっついているだろう。溜息混じりの自分の顔が、ありありと脳裏に思い浮かぶ。
 けど・・・不思議と、嫌な気分じゃなかった。
 今朝の夢のせいなのかな。あれが前世の記憶なのか、単なる夢なのかはよく分からない。それが原因であれこれ考えて、やぶ蛇みたいにシロと喧嘩してるけど・・・なんていうかな。こいつといると私が此処にいる、って実感できるんだよね。
 ここの連中は、みんな私を私として見てくれている。美神もシロも、おキヌちゃんも横島も・・・だから、なのかな。抜け出そうとか、そんな気がしないのよね。あんまり認めたくないけど、居心地がいいってことなのかな。
 そんなことを考えながら、やっぱり口は動いてる。元々シロは口八丁な性格じゃないから、徐々にジリ貧になっていって最後には膨れっ面でそっぽを向いちゃうのよね。まあ、これもお決まりのパターンか。
 後はシロが悔し紛れの捨て台詞を吐いて、会話終了ってトコね。世間では負け犬の遠吠えっていうんだっけ。あ、負け狼か?

「う〜・・・」

 ・・・悪口言うだけなのにそんなに考えないでよ。何か、呪われてる気がしてきたわ。
 あ、頭に豆電球が灯った。余程良いフレーズが浮かんだようね。ひみつ道具片手に、ジャ#アンに仕返ししようとする#び太みたいな顔だわ。

「タマモ!!お主は・・・」
「アンタ達!!さっさと食べに来ないと、ごはん抜きだからね!!!」

 台詞の途中で、階下から美神の怒声が響いてきた。それを聞き、シロがしまったという顔をする。

「シロ・・・ひょっとしてアンタ、私を呼びに来たんじゃないの?」

 ほぼ確信に近い推測を、呆れ顔と共にシロへと向ける。シロは目に見えてうろたえていて、「ごはん抜きは嫌でござるう〜!」と泡を食ったようにして階下へと駆けていった。
 部屋に一人残った私は、やれやれと頭を振る。でも、顔は笑っていたんだと思う。
 
 本当に、バカばっかり。
 けど、此処には私の居場所がある。

 

 生きたい。


 みんなと一緒に、笑ったり、泣いたり、喜んだりしながら。ずっと、一緒に生きて行きたい。
 たった一つの、私の思い。

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