ザ・グレート・展開予測ショー

だるまさんがころんだ


投稿者名:りおん
投稿日時:(02/12/17)


「だるまさんがころんだ」って昔よく遊んだんですよ。多分今回の主役の横島君も。
少しずつ鬼に近づき、鬼がこの言葉を言って後ろを振り向いたら、動きを止める。それで鬼にタッチすれば勝ちって言う遊びで…


―はじめのだいいっぽ―


始まりは街中の、ごくごく普通のありふれた雑踏の中だった。

その日、俺は美神さんに頼まれて、買い物のために冬の街を歩き回っていた。
年末になんやらかんやらを買いに行かされるのは全然珍しいことじゃない。
違う事と言えばおキヌちゃんがついて来ていない事か。日曜なのに模試だと言う。

「大変だな〜、おキヌちゃんも。」

そんな事を考えながら、夕方の暗くなり始めた街中を、言われた物も買い揃え、いざ事務所へ戻ろうとした途中…
交差点で信号が青になるのを待っている時だった。俺は何気無しに振り向いた。
別に霊感が働いたとかではなく(本当はそうだったのかも知れないが、その時はそうは思わなかった)ほとんど無意識の内の行動だった。
誰が誰かなんてほとんど分からない、誰も意識しないような人込みの中で、ふと目にとまった…

それは一人の少女だったのだが(誰だ?「やっぱりか…」とか言ってる奴は)、少し雰囲気が…
周りの景色からそこだけ切り離されているような、そんな印象を与える少女だった。
小学生のようだ。ありふれた感じの制服を着て…手に抱えているのは……熊のぬいぐるみだろうか。
彼女はこちらを向いていた。おそらく俺を見ているのだ、と思った。

これだけなら普通は目に留まらない。そのままさっさと行ってしまうところだ。俺はロ○○ンじゃない。断じて違う。
だが、俺は注意を引かれた。何故か?その少女の顔が見えなかったからだ。
長い黒髪。それが顔の上半分を覆い隠していて、目を覗く事が出来ない。それだけなら、まだよかった。

気になったのは口許。微笑を浮かべている。こちらを向いて笑っているのだ。
俺はしばしの間それに見入ってしまった。別に魅力的な笑顔だったとかそういうことではない。そうだったらどんなによかったことか。
その微笑から感じる雰囲気、そして俺とその見知らぬ少女との間にある空気は、明らかに日常からかけ離れた…
まさにこの世のものとは思えなかったが、しかしこの街の、この雑踏の雰囲気と、妙に合っている。そんなことを感じた。

(帰ろう…)

不意に俺はそう思った。
幽霊か、妖怪か、それともただの人間か。
そんな事は分からないが、ここにいて向き合ったままでは、俺はいつまでも帰ることが出来ない。そんな気がした。
相手はまだこちらを向いている。あの笑顔を浮かべて。

「帰ろう…」

言葉を口に出すと、身体も同時に動き出した。
一瞬、彼女の口が動き何か喋るようだったが、俺はそれを無視して事務所へと足を向けた。



――だるまさんがころんだ――



事務所に着く頃には日もほとんど暮れかけて、辺りを闇が覆い始めていた。道をすれ違う人の顔もすぐにはよく分からない。
所々についている街灯の下を通るときだけ、俺は闇から抜け出したという安堵感を感じる。

事務所が見えてきた時、俺はふと振り返ってみた。何気なしに。
それは無意識の動作だったが、あるいはずっと気になっていたのかも知れない。
振り返った先にはさっきの少女がいた。口許にさっきと同じ微笑を浮かべて。

「うそだろ…マジで?」

俺は少し驚いた。あそこからついて来たのか?やっぱり物の怪の類か?
という疑問が浮かんだが、予想通りという考えもまた無意識にあったかも知れない。
神様は俺をトラブルに巻き込むのがよほど好きなようだ。あの人込みの中をよくもまあ…
彼女との距離はかなり遠かったが、さっき会った時よりこころもち近づいている気がする。
いずれにせよこういうのは苦手だ。どうでもいいが苦手だ。いつまでたっても苦手だろう。とにかく苦手だ。
さっさとおキヌちゃんの作ってくれる夕飯を食いに行こう。もののけでも人間でも少なくとも事務所の中には入ってこれない。
そう自分に言い聞かせて、俺は事務所に入って行った。GSのくせに逃げるな、だと?…怖いんだから仕方ないだろ!!



だるまさんがころんだ



「いだだだ……何もあんなに真っ赤になるくらい怒ることねーじゃねーか。一晩泊めてくれって言っただけなのに。
こんなにぶたんでも………いてえなぁ」

事務所を出た俺の口から真っ先に出た言葉は美神さんに対する愚痴だった。
物の怪にとり憑かれてるかどうかは分からんが、この状況で俺は一人アパートまで帰る気は無かった。(無論怖いから)
なのに美神さんは……ああ、夜風が身に凍みる。
辺りはほとんど真っ暗闇。所々についた街灯と道の両側の家々が、その道にわずかに光を投げかけている。
ちらりと後ろを振り返る。さっきと同じ少女がいる。口許には同じ微笑。

「ふ、ふふ……ふふふふふふ…」

急に闘志が湧いてきたぜ。独り身の切なさをなめるなよ!


[疾][走]


俺は首を後ろに向けたまま呟いた。

「ついて来な。ついて来れるもんならな!!」

そうして俺は走り出した。夜の街を、疾風の如く。
通りを駆け抜け、角を曲がり、庭先の犬を驚かし、冷たい冷たい冬の空気を切り裂きながら、俺は走った。



だるまさんがころんだ



もうどれくらい走ったか。文珠の効果が消えて、ふと我に返ると街灯の明かりの光の中にいた。
ここはどの辺りだろうか?走るのに夢中でどこをどう走ってきたのかよく分からない。
ふと、俺もシロの散歩癖がうつって来たのか、などという思いが浮かぶ。
毎朝あいつの散歩に付き合わされて何kmも走らされて、ついに俺も走りに目覚めたか……
まあ、何はともあれ奴は撒いただろう。そう考えて、後ろを振り返った。
俺の脇の街灯の一つ後ろの街灯。その明かりの中に少しも変わらぬ微笑を浮かべて、あの少女が立っていた。

「………………」

ちょっと声が出ない。
相手が人間ならもちろん、幽霊や妖怪の類でも追いつけないくらいのスピードだったのに。
辺りは闇。その中に浮かぶあの微笑は、他に何も見えないこの場所で何とも言えないものを感じさせる。
相変わらず相手の眼が見えない。見えたら見えたで怖いだろうが。長い髪に隠れて、口許しか見えない。口許に浮かぶ微笑しか。
明らかに俺に投げかけている微笑。明らかにこの世のものではない微笑。
怖い…怖くてたまらない。

「こーなったら…これだ。」


[転][移]


「あばよ。」

俺はこの台詞は相手よりもむしろ自分に言い聞かせていた。無事あのアパートへ、俺の家へ帰れるように。そう願いを込めて。



だるまさんがころんだ



一瞬後、俺は俺のアパートのドアの前にいた。今度は大丈夫か?大丈夫だよな?大丈夫なはずだ。
じゃあ、このままドアを開けて布団に潜り込んで眠ることにしよう。そうだ、そうしよう……
でも、後ろも気になる。
どっちだ?いるのか?いないのか?いや、考えるな!
このまま部屋に入って眠ればいい。そうすれば、朝になればなんとかなってるはずだ。
明日美神さんに相談に行ってもいい。(金は取られるかも知れんが)
でも後ろも気になる…



だるまさんがころんだ



振り向いてしまった。振り向かなければよかった。なんで振り向いてしまったんだろう。
明日美神さんのとこに行くまで我慢すればよかった。
俺の部屋のドアに向かって右を向くと階段がある。その階段を上りきった所に彼女が立っていた。
先ほどと少しも変わらない微笑を浮かべて。
今度はもう目と鼻の先だ。細かな所までがよく分かる。熊のぬいぐるみをしっかりと抱えている。そして、口許もよく見える。
そして気づいた。先ほどよりも口の端が吊りあがっている。もう微笑とは呼べない……

「だああ――っ?!!あけっ、あいてくれ!!はやくっ!はやく――っ?!!」

開かない!ドアが開かない!!ドアノブにすでにかかっていた俺の手は早くドアを開けようと必死になっている。
もちろん俺も必死だ。だが開かない!………そうだ。鍵だ!!

「………あった!!」

ポケットを引っ掻き回して、やっとこさ鍵を見つけた。手が震えている。冷静に冷静に……

「………開いた!!」

俺は文字通り部屋に転がり込んだ。早くドアを閉めないと……
そう思って入り口の方を向き直ると、ドアの外、俺のすぐ目の前に二本の足があった。こちらを向いて立っている。
俺は恐る恐る顔を上に向けてみた。分かり切っている事を確認するために。
長い髪。目元を隠し、口許に浮かぶ笑みが一際映える。
いや、先ほどよりもさらに釣りあがっている口許の上、髪の間から目が覗ける。
その考えが浮かんだと同時に俺はドアに手をかけ勢いよく閉めていた。目が合ったりなんかしたら俺は恐怖でどうにかなってしまう…

「くそっ!入るなっ、入って来るなあ――っ!!」

文珠に[封]の字を込めてドアに向かって投げつける。
入るな、入ってくるな。
俺はそれだけを考えながら、全ての窓を閉め布団に潜り込んで、自分にも[護]の文珠で結界を作った。
もう振り向かない、振り向けない。
頼むから入ってこないでくれ………!!



だるまさんがころんだ



カーテンの間から薄い光が漏れてくる。夜明けだ。
結局あれから何事も無かった。俺は一晩中眠れずにいたが、おかげで少し冷静に考えることもできた。
最もそれは明け方近くになってからで、大半の時間は震えていたが。怖いんだよ!怖くてたまらないんだよ!!
GSでも怖いものは怖いんだよ!!!!ま、それはともかく………
(振り向くと少しずつ近づいてくる)
これに似たものを俺は思い出していた。もう子供の頃遊んだだけだから、なかなか思い出せなかったが。
大阪では「ぼんさんがへをこいた」とか言ってたけど。懐かしいな…もうずっと昔に遊んだあの遊び………

「だ〜るまさんがこ〜ろん……」

俺は最後まで言い切ることができなかった。俺の背中に触れた感触は氷よりも冷たく、その声は闇よりも暗かった。



『タッチ………』











おしまい。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa