ある未来のある夜
投稿者名:志狗
投稿日時:(02/12/12)
「おかーさん、ただいま〜。」
「おかえりなさい。」
今年、小学校に上がったばかりの娘を笑顔で迎える母。
「今日ね、学校でね―――――――」
「へえ〜、よかったわね――――――」
二人でおそろいのエプロンをつけて食事の支度をしながら、一日の出来事を話す。
顔には絶えることのない笑み
「ただいま〜、あ〜疲れた。」
「あ、おとーさん!おかえりなさい!」
「おかえりなさい、あなた。」
仕事から疲れて帰ってきた父を、夫を迎える。
「おとーさん、だっこ〜。」
「こら、おとうさん疲れているんだから・・・・」
諭されて不満そうな顔をする。
「ダメなの?」
「い、いや!そんな事ないぞ!ほらっ!」
「やった〜!おとーさん、だいすき〜」
この笑顔があれば、どんな事でもできると思えるほどの笑みを娘は浮べる。
そして―――――
食事をして、お風呂に入って
いろんな話をして、いろんな話を聞いて
飽きる事のない時間が過ぎる
「そろそろ寝ないと、明日起きられないわよ?」
「え〜、もう?」
だだをこねる娘。
大好きな絵本を読んであげて、やっと寝かしつける。
どこにでもありそうな、平凡な光景――――――
娘を寝かしつけた夫を、洗い物を終えた妻はエプロンで手を拭きながら迎える
「なあ。」
短く呼びかける夫の顔に、少し憂いを帯びた表情が浮かんでいるのに妻は気付く。
いたずらっぽい顔をして返事をする。
「なんで“ござる”か、“先生”?」
夫の気持ちが沈みそうな時、それを敏感に感じ取り、昔の言葉遣いでからかうように答える妻。
夫はその声と笑顔に何度も救われている事に苦笑しつつ続ける。
顔の憂いは消えていた。
「俺たちの娘は・・・・・・・幸せなのかな?」
「どうかしらね」
夫の問いに軽い口調で答える。
そして、その答えに残念そうにする夫に微笑みかける。
「相手の気持ちが全部分かるなんて事はないわ。」
少し昔を思い出す。
「あなたはいろんな気持ちを見せてくれたけど、まだ私がわからない部分がたくさんある。」
夫は妻の言葉を静かに聴いている。
「だから私はあなたを見て、あなたの気持ちを知ろうとするの。」
さっきは表情から気持ちを読み取った。
「あの子の気持ちの全てはわからないわ。」
けどね、と続ける。
「あの笑顔は本物。」
娘の笑顔を思い出すだけで顔がほころぶ。
「あの子が“彼女”でも、そうでなくても」
ぴくりと反応する夫に気付きながらも続ける。
「私たちは“私たちの娘”幸せのために頑張るの、そうでしょ?」
「そうだよな。」
そう言って肩の力を抜く。
「ありがとう・・・・お前と一緒でよかった。」
「どういたしまして。」
いつもは軽い夫が時々口にする真剣な言葉は、今でも妻の頬を赤く染め上げる。
照れ隠しに、少し意地悪をしたくなる。
「あんまり“弟子”に頼ってちゃいけないわよ?」
「う・・・・でも、お前が頼って欲しいっていったんじゃねーか。」
「あ、あら、そうだったかしら。」
やぶへびだったわ、と冷や汗を流す妻に夫は苦笑する。
夫婦の時間が流れる。
「そろそろ寝よっか」
「そうね」
声を掛け合い、二人で娘の眠る寝室へと向かう。
川の字を作る三人
ふと二人は愛する娘の寝顔を覗き込む。
両親の会話など知る由もなく、すやすやと小さな寝息をたてながら寝ている少女
枕元には寝る前に父親が読んでくれた本
物心ついたときからその本が大好きだった
少女はその本をねだった時に、両親が浮べた笑みの意味を知らない
少女がわかったのは
その笑みが自分への愛に満ちていたことだけ
本の中身
それはある少年と少女のお話
世界の命運をかけた戦いの中で
敵同士である二人が恋に落ちる
少年は少女を救うために必死の努力をする
少女は少年のために己の全てを賭ける
戦いの中で翻弄されながらも
その心は相手を想う
そんな二人のお話
その結末は――――――
もちろん二人のハッピーエンド
両脇から両親の見守る中
物語を夢見る少女の寝顔に小さく微笑が浮かんだ
今までの
コメント:
- veldさんご所望(?)の「南極物語」その後の世界の一つです。
二人の娘が“彼女”なのかどうか、考え出すと悩みこんでしまいます。
深く考えすぎないで読んで頂くと良いかも(笑)
「南極物語」読んでない方にはわけのわからないネタになってしまいました。申し訳ありません。
読んで頂けたら・・・・嬉しいなぁ(笑) (志狗)
- やっぱり幸せが一番ですね。
こんにちは志狗さん。ハルカです!!
私はルシオラーですがこんな幸せもアリかなーなんて思ってます。
シロと横島クンとその娘。
その子が彼女かどうかは分からないけれど、
三人が幸せだからそれでいいと思います。
おつかれさまでした。 (ハルカ)
- 本来はおキヌちゃん原理主義者の私ですが、シロも大好きです(爆)。こう言った横島クンとシロの幸せそうな夫婦生活、そしてその幸せそうな2人の間に生まれた娘のそれ以上に幸せそうな様子を読んでいると心が和む気がします。「少女」と言う言葉がしっくりと来た我々がよく知るシロからは、大分成長したみたいですね;しっかりと夫を支える「妻」としての顔、そして「女」としての顔を見せています。ところで、子供は4人じゃないんですか?(笑←しつこい) 投稿お疲れ様でした♪ (kitchensink)
- すごいですね、二人が何者なのか、一行で納得してしましました^^
すばらしい文法です、 (謎の人ふふふっ)
- ああ、凄く嬉しいですよ!志狗さん!
リクエストが届いたぁぁぁぁのだぁああ!!南極物語のその後の世界の一つ(何気にここがミソ)ですか、つまり、次回は四匹の・・・(期待っていうかkitchensinkさんに同意、ワクワク)
シロの大人らしくなった所が、残念なような、嬉しいような。人、いや人狼も成長するんだなぁ、としみじみ感じました。横島くんをしっかり支えているところ、彼にとって理想の女性になれている、そんなシロもいいかな、と。(揚げ足取られている所、あ、まだシロだっ!(笑)なんて、妙に安心してしまったり)
(veld)
- 人の心の中なんて誰にも分からないものです。だからこそ知ろうと努力する。分かり合うには時間が要るし、その結果が本当に自分の考えるものではないのかもしれません。でも、確かなものはきっとある。ルシオラ嬢の笑顔(対横島には無敵)はそれに気付かせてくれたような気がします。
って言うか、愛されてるよぉ!!幸せそうだよぉ!!本当に良かったぁぁぁ!!!
長くなったので二つに分けましたぁ!! (veld)
- 心温まるお話ですね〜。
最後に横島クンが読んで聞かせてあげた絵本に焦点を当ててるのはよかったです。
でもそれだったら、最初の方で、読んであげてる横島クンと、それを聞いている娘さんの様子を、
もっと描写すれば更に奥が深くなったような気もします。
「世界の命運をかけた戦い」という内容の絵本というのも、なんか変な気もしますね・・・。
でも、下手にいじるとかえって分かりにくくなりそうなんで・・・、漫画・・・ですかね?(^^;
まあ、あんまり深く考えるのも、難しいですね・・・(苦笑)
全体の雰囲気とか素敵だったので、賛成票です♪ (マリクラ)
- 初めは何の話なのか分からなかったけど(すみません^^;)、読んでいて納得。
あ〜、こんな展開もありだなぁと、ほのぼのしんみりとしたお話でした☆
賛成〜☆ (toto)
- ハルカさん
ルシオラーの方に賛成して頂いてほっとしております。ルシオラが子供として、という事には私もけっこう抵抗があります。自分で書いておきながら妙な葛藤が生まれております(汗)。
kitchensinkさん
シロの言葉遣いや雰囲気はかなり変えてみました。母は強し・・・カナ?
>ところで、子供は4人じゃないんですか?
むむ、含みのありそうな言葉ですね(笑)。どうしましょう?
謎の人ふふふっさん
一言で誰かわかる、そーゆー二人ですもん(笑)
文法・・・・私にそんな物を使う力があったのでしょうか?(汗) (志狗)
- veldさん
う!あなたも四匹という言葉を・・・本当にどうしようかなぁ、書いてみよう・・・カナ?
>まだシロだっ!
シロはきっといつまでもシロです(笑)。もっとうまい描写できればよかったですけど(汗)
もっとうまく書ける方はたくさん居られますけど、私じゃこんなもんです。
それでも楽しんで頂けたようで・・・・お粗末さまでした。 (志狗)
- マリクラさん
そうですね、本を読んであげる描写を入れたら全体の流れも、もっと良くなったと思います。一話で一つのまとまった形を作るのって難しいです(汗)
>「世界の命運をかけた戦い」という内容の絵本というのも、なんか変な気もしますね・・・。
うわ、考え直してみるとメチャクチャ変です(汗)。アシュ戦を意識しすぎかな。もっと絵本らしい表現にすれば良かったですね。
御助言ありがとうございました。今後とも御指導頂けたら嬉しいです。
totoさん
>初めは何の話なのか分からなかったけど
うわぁ!やっぱり!すいません!初めに注釈付けるべきかなとも思いましたが、あるかないかの雰囲気が吹っ飛んでしまいそうだったので(汗)
こんなのもアリかな、そう思っていただけるのは本当に嬉しいです。 (志狗)
- ああああああああ・・・・・いいです。
これしか言えないくらい・・・
ボクの作品はシロの出演が少ないんでこういうふうに巧く文章かける人がうらやましいです(泣)
いいもの読ませてもらいましたm(__)m (ユタ)
- 冒頭で、これはもしや「あっち側」の話か!?と思っちまいましたよごめんなさい紫です。
・・・原作を肯定するなら(僕は最近、一生懸命原作を否定したものを書いてますが・笑)、こーゆーのもアリかもしんない、とか思いましたよ。ええ、いいお話でした。では。
(「ござる」「先生」「弟子」「『彼女』が云々」を消去して読むと?・・・ごめんなさいごめんなさい冗談ですううう) (紫)
- こーゆー真相がグレーなままの結末というのも、なんだか奥ゆかしくて好きです。
話の流れ的には明らかにある一つの事実を示唆しているわけですが、どこにも『シロ』という言葉すら出てきていないとゆー(爆)
それでも母として成長したシロの姿には、その口調の変化も含めて違和感を覚えるどころか感服しました。『あけっぴろげに接する事が出来る』というシロらしさが見事に描き出されていたと思います。
幸せな未来に乾杯♪ (斑駒)
- ユタさん
>ボクの作品はシロの出演が少ないんでこういうふうに巧く文章かける人がうらやましいです
私の作品は暗めで、たくさんの登場キャラを動かす事ができないので、そーゆー文章を巧く書ける人がうらやましいです(笑)・・・いや、本当に。
紫さん
>「ござる」「先生」「弟子」「『彼女』が云々」を消去して読むと?
そうすると、「あっち側」あたりの横島とルシオラの会話ですね(笑)。本当はシロだと分かる言葉を全く入れないで、シロにもルシオラにも取れる文にしようと思ったのですが、そうするとその二人に限定ができず「お好きなキャラを当てはめてお楽しみ下さい」になっちゃいそうだったんで(汗)
もちろんシロを特定する言葉を消去してお楽しみいただくのも可(笑) (志狗)
- 斑駒さん
>こーゆー真相がグレーなままの結末というのも、なんだか奥ゆかしくて好きです
私もです。私のはまだうまく書けてませんが、上手な人が長編でそれをやったりすると、もどかしい想いが残ってお話がいつまでも後を引きます。
GTYにもGS美神という名作による“もどかしい想い”が発端で投稿している方もいたりするんじゃないかなぁ。私もそのようなものですし(笑)
>その口調の変化も含めて違和感を覚えるどころか
口調は変えるかどうかは迷いましたが、結果は悪くなかったようでほっとしています。
>幸せな未来に乾杯♪
では、私も続いて・・・・・乾杯♪ (志狗)
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