ザ・グレート・展開予測ショー

ガールズ・ブラボー!! その1


投稿者名:我乱堂
投稿日時:(02/12/12)

  Start.


 弓かおりは深く息を吸い、吐き出した。
 
 落ち着くための方法。
 憧れのあの人から教わったこと。

『冷静でい続けるのは難しいわ』

 脳裏に浮かぶ言葉。
 憧れのあの人が言ってくれた言葉。

『だけどね。戦いの時、勝敗を左右するのはそれなのよ』

(解っていますわ……お姉様……)

 それは呪文だった。
 彼女が自分の中から力と勇気とを汲み出すための呪文だった。

 そして。

「頼みましたわ……二人とも」

 何十年も打ち捨てられていた廃工場の静まり返った空気に、その呟きは溶けて消えた。



 7日前 六道女子学園霊能科専用霊動実験室


「何だよコレぇッ!!!」
 叫びながら一文字魔理は霊力を篭めた拳を目の前の『敵』に叩き付けていた。
 喧嘩の鉄則は押されても引かないこと。
 ビビった方が負けだ。
 いや、ビビっても前へと出る覚悟があれば、自ずと活路は見出せる。
 それが彼女が持っている勝負の哲学。
 しかし。
 その『敵』は、彼女のそのささやかな哲学が通じるような相手ではなかった。
 つーか、それは彼女と“喧嘩ができる”程度のレベルにしか通用しない程度のものだった。
 遥かに強大な相手には、どうしようもない。
『敵』は拳を受けてなお止まらない。
 彼女を吹き飛ばしてなお止まらない。

《そこまでだ》

 声と共に室内に満ちていた空気が変わった。
 帯電していたようにピリピリと張り詰めていたものが無くなった。そしい、それと同時に彼女を吹き飛ばした『敵』まもた、消失した。一瞬だけ光り、そして弾けて。

「畜生!!」
 魔理は拳で床を叩いていた。

「………………………………」
「………………………………」

 覗き窓から室内を眺めていた氷室キヌと弓かおりは、呆然とその光景を見ていた。



 同日 十分後 保健室


「……っとに、死ぬかと思った」
 椅子に腰掛け、魔理は言う。何処か憤っているようではあった。
「人事みたいに言ってたら駄目ですわよ」
 魔理のこめかみに消毒液を塗りながら、かおりは言う。言いながら手は止まっていない。
「痛ッ もちっと優しくしてくれよ!」
「これくらい我慢しなさい」
「――でも、本当に無事でよかった」
 魔理の腕に包帯を巻きながら、キヌは呟いた。
 二人はぴたりと動きを止め、つい彼女へ見入ってしまう。
「あのプログラミング、美神さんの特訓用にセットされているものなんですよ」
「……それは聞いてる」
 そして、突破できなかったということも。
 だから、挑んだのだ。
 そのことを口にはしなかったが、どうしてか、かおりには伝わったようだった。
「――研修の時からですわね」
「……お前、あれ見てなんとも思わなかったって訳ないよな」
 微かに苦笑してかおりは首を振った。
「まさか……!」
「あのー」
 ヒーリングを包帯の上からかけていたキヌが、訝しげに尋ねた。
「研修って、先週の除霊の実地指導のですか?」
「……他にありませんですわよ。一組ずつ現代を代表するプロのGSの仕事の現場に行った、あの研修のことです」
 キヌはそういわれて、何かに思い至ったようだった。
「そういえば、あの時、みんな美神さんや横島さんの仕事に感心してましたよね」
 何処か嬉しそうだった。
 彼女にしてみれば、仲間が評価されているのである。喜んで当然のことではあった。それに何より、彼女にとっては横島の活躍ぶりを皆が見てくれたというのがよかった。いつもスケベでドシでバカで、みんなにはあまり評判はよろしくない人なのだけれど、いざと言うときにはやってくれる人なのだと知っていて欲しかった。だから。
 しかし、それなのに、二人は押し黙ってしまった。
(えっと……)
 沈黙が重い。
 何処かの国では急に訪れた沈黙を「天使が通り過ぎた」と表現するらしいが、ここに居座った天使はやたらとデカくで重量感溢れるヤツらしい。
 きっと第十四使徒ぐらいはある。
 やがて。
「――おキヌちゃんは、いつもあんな修羅場をくぐりぬけてきてるんだよな……」
「え………」
 言われて、思い出す。
 相手にしたのは悪霊で、ランクはSマイナー。
 死んだのは幕末。
 とある大名家の家老だった。
 藩の財産を持ち出そうとした部下を止めようとして殺された。
 しかも持ち出しの犯人の濡れ衣をかぶせられていたりもしていた。
 地元の一族は真相を知らず、それを恥じて全員が切腹。
 ――ここまで重なると、もうどうしようもないくらいにひどい悪霊になる。
 手のつけようが無かった。
 ネクロマンサーの笛でも、動きを鈍らせる程度にしか役に立たない。
 が。
「いつもなんて無理です! あんなのはせいぜい月に一度くらいですから――」
 再び沈黙が訪れた。
 今度の天使は、またバカデカそうだった。

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