ザ・グレート・展開予測ショー

南極物語(終) 


投稿者名:志狗
投稿日時:(02/12/ 9)


「じゃあ・・・・・」 
しばらく自分と花を見つめる横島に見入っていたシロが口を開く。

「先生も・・・拙者への気持ちを、もっとちゃんと見えるようにして欲しいでござるよ。」


気持ちは心の中にしまっておいても、本当の意味で前に進むことはない。
横島が今まで前に進むことができなかったのは、そのせいもあるかもしれない。

どんな気持ちであれ、はっきりと人に見せる事は何らかの進歩を生む。
特に横島の場合、“彼女”へ抱いていた気持ちは純然たる好意だ。その想いは決して消える事はないのだろう。
だから、その気持ちを抱きつつも他者への好意を示す事・・・・・・それは横島のとっての前進だった。


シロは自分で気付かずとも、横島を前へと導いていた。




「ちゃんと見せるったって・・・・どうすりゃ良いんだよ?」
導かれた事にも気付かず、横島は自分の疑問を口にする。

「え、えっと・・・・その・・・・例えば・・・」
顔を赤く染めなにやら言いよどむが、やがて決心ができたのか横島のほうにしっかりと顔を向け・・・・・そっと目を閉じる。

初めは疑問符を浮かべていた横島だったが、やがてその行為の意味が理解できると、ゆっくりとシロの肩を抱き・・・・


ほんの一瞬、僅かに触れ合うように口付けた・・・・・・・・







横島の顔が離れ、シロは目を開ける。
その瞳は少しの間焦点が定まらず宙を泳ぐが、やがてまだ目の前にある横島の顔を捉える。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぼんっ!

湯気が上がりそうなほど赤くなるシロに、一見落ち着いていた横島も動揺し始める。

「てっ、照れるなよっ!こっちだってメチャクチャ恥ずかしいんだからなっ!」
「ごっ、ごめんなさいでござる。」
「いや・・・・怒ってるわけじゃないんだが・・・・・」

照れ隠しに言った言葉に素直に謝られてしまい、横島は少し気まずそうにする。
一方シロはとっさに横島の言葉に反応したものの、その心を占めているのはたった一つのことだった。


自分の望みに応じて、横島がその心を見せてくれたという喜び。


だがその一方で、横島の心が見えないことへの恐怖も募る。

あの世界で見た、自分の知らない横島の心。
壊れてしまいそうなほど、自分を責めていた横島の姿。
 
気持ちを溜め込む事で、あんな事になってしまう横島の姿を見るのはもう嫌だった。


「先生・・・・・」
「な、なんだ?」
先ほどまでの照れた表情は影を潜め、打って変わって真剣な顔をするシロに気おされるようにして横島は答える。


「これからもし拙者の事を“もっと好き”になってくれるなら・・・どんな形でもいいでござるから、その気持ちを見せて欲しいんでござる。」
そこまで言って、ふとかぶりを振る。

「ううん、好きっていう気持ちじゃなくてもいいでござる。先生が出してみたい気持ち・・・・どんなのでもいいでござる。
拙者のことを“もっと好き”になったことで見せれる思った気持ち・・・・・見せて欲しいでござる。」
「シロ・・・・・・」
横島はただシロの名を呟くしかできなかった。

「それがどんな気持ちでも拙者は受け入れられるでござるよ。だって・・・・・・」
横島の瞳をしっかりと見つめ・・・・言う。


「拙者は先生が大好きなんでござるから・・・・・・」



一度目のような、たどたどしい・・・気持ちを搾り出すような告白とは違う。
心のそこから相手を慈しむ様な好意を告げる。


一度目の時は、まだ子供っぽさを残していた事で横島も落ち着いて対応できた。
しかし今度のシロの表情は今まで見たこともないくらい大人らしく、横島の心もドキンと脈打つ。

「あ、あのな・・・・シロ・・・」
言いにくそうに言葉を発する横島に、シロはちょっと不思議そうな表情を浮かべる。

「えと・・・・・さっそく“もっと好き”になっちまったんだが・・・・・」
「え!?」
先ほどまでの大人の雰囲気はどこへいったのやら、目に見えて慌てだすシロ。 

「じゃ、じゃあ・・・・・ど、どうするでござるか?」
何か気持ちを見せてくれるのか・・・・とちょっと期待するような瞳で問う。


「やっぱ・・・・見せるんだったら、シロへの気持ちを見せたい・・・」
「それでいいんでござるか?」
「安心しろって、他の気持ちだったら、また別のときにでも見せてやるよ。」
そこまで言って、少し落ち着きをなくす。

「それじゃあ・・・・・・え、えっと・・・さっきと同じのでもいいか?」

横島の別の気持ちが見れないことを一瞬残念に思ったシロだったが、今の“さっきと同じの”という言葉にそんな気持ちは吹き飛ぶ。

赤くなって動揺するが、二度目という事もあり少し緊張しつつも再びゆっくりと目を閉じる。


横島は一度目と同じようにシロの肩に手を添えて、顔を近づけていく。



二度目の口付けは、一度目よりもほんの少し・・・・ほんのちょっとだけ長い口付けだった。






顔を離した後、お互いを見る。
二人とも顔は赤いが、一度目のようにあたふたしたりはしなかった。


「夕日・・・・・」
ぽつりとシロが言葉を漏らす。

沈みかける紅い日は全てを真紅に染め、沢山の赤に満ちた世界を作り出している。

その赤はあの時“あの世界”で死に掛けた横島を思い出させ、シロは思わず身を振るわせる。
それでも、真紅の夕日には儚げな美しさがあった。


「『昼と夜の一瞬の隙間・・・・短い間しか見れないから・・きれい』・・・」
横島の呟き・・・・そのらしくない言葉にシロは怪訝そうな顔をする。

「あいつの・・・ルシオラの言葉だよ。夕日・・・・好きだったんだ。」
「きれいでござるもんな・・・・・」
「ああ・・・・夕日・・・好きか?」
横島の問いに、シロはちょっと言い難そうにするが、それでもはっきりと言う。

「すっごくきれいでござる・・・・・けど、拙者は・・・・どちらかというと、お月様のほうが・・・」
申し訳なさそうに言うシロに、横島は微笑みかける。

「それでいいって、お前とルシオラは違うんだから。はっきりの自分の好み言うほうがお前らしいって。」
そういって、シロの頭を撫でてやる。


「よし!今度、月のきれいな晩に散歩でも行くか!」
「ほんとでござるかっ!」
横島の言葉に目を輝かせるシロ。

「ああ、でもあんまり長いのはナシな?」
「え〜、一晩中散歩したいでござるよ〜。」
「俺の体が持たんって・・・・・・・でも時々なら、一晩付き合ってやってもいいぞ。」
「絶対でござるよっ!」
「あ〜、わかったわかった。」
また子供っぽくなったシロに苦笑しながら、横島は手をぱたぱたと振った。



「そろそろ帰るか。」 
しばらくじゃれあった後、横島がそう告げ、シロもそれに頷く。

文珠を生み出す横島、シロはその体に手を巻きつける。

最後に二人で、シロが花を添えた場所を見る。


呟きは同時であった。

「また来るな。」「また来るでござるよ。」


お互いの言葉に笑みを浮べ合い、文珠の発動で二人の体が浮かび、その場所からゆっくりと離れていく。



二人の発する声も、ゆっくりと遠ざかっていく。


「帰るついでに散歩に行くでござるよっ!」
「昨日の今日でまだ疲れてんだよっ!ちょっとは師匠をいたわれ!」
「拙者の唇を奪ったのだからそれくらいは・・・」
「あれはお前が―――――――――!」
「――――――――――――――!」
「――――――――――――――!」















二人の去ったこの場所で、シロの供えた花だけがそよそよと風になびいていた。


薄い青の二種類の花が、赤い夕日に彩られて不思議な色合いを醸し出している。





花は「ルリハコベ」と「ミヤコワスレ」


花言葉は・・・・・















『約束』 『また逢う日まで』

















“彼女”への・・・・横島への・・・・・・・そして自分自身への・・・・・



シロの決意表明だった。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa