ザ・グレート・展開予測ショー

南極物語(9) 


投稿者名:志狗
投稿日時:(02/12/ 9)

南極から二人が帰還した翌日、小竜姫が再び事務所を・・いや横島を訪ねて来た。

横島の“報酬”への決定を知らせるためだ。
南極で横島がそれを話した時、小竜姫たちの一存で決められる事ではなく、先延ばしにされていたのだ。

横島の“報酬”に対しての決定は以下のようなものであった。

『発見された宇宙のタマゴ、これを内部の世界の不干渉の上、神魔界の責に置いてそれを存続させる。』

横島が願ったのは、“ルシオラ”が幸せに暮らすあの世界の存在の保障であった。

たった一つだけ残っていた宇宙のタマゴ。
しかしそれも湧き出す地脈エネルギーにより、辛うじてその存在を保っているにすぎなかった。
横島にしてみればそれを見抜いたわけではなく、「なんとなくもっと安全な場所のほうが良いと思ったから」らしい・・・
 
あっさりと神魔界がその願いを聞き入れたのは、
「アシュタロスの作った世界とはいえ、すでに中には多くの独立した命があるのだから、むやみに消すわけにはいかない」からだそうだ。

シロがその中に存在しなかったのは、あれはアシュタロスがシミュレート用につくったものらしく
影響を及ぼしにくい要素は適当に作られ、あの戦いに大きく関わったもの以外はかなりこちらの世界とは違っているらしい。


小竜姫の話が終わった後、横島はそれまでタマモと買い物に出かけていたシロに急かされて出かけていった。

「散歩のようなものですよ。」
横島はそう言い残していったが、残された事務所メンバーは訝しがった。


それの理由はシロの行動にあった。

前日、南極から帰ってきて疲れていたであろうシロは、おキヌのところへ本を借りに行った。

しかも花の本を。
さらには、翌日シロの買い物に暇つぶしに付き合ったタマモは、花を買うシロの姿を見る。

花を持って散歩?横島と?
美神、おキヌ、タマモ、ついでに小竜姫、果ては人工幽霊一号まで、一同首をかしげる。

だがその疑問に答えられる者は、少なくともその場にはいなかった。












夕焼けに染まる東京タワー

南極から帰ってきた日。どちらともなく「お墓参りに行こう」という言葉が出た。


“彼女”の消えた場所に花を添えたシロはしゃがんだまま、そっと目を閉じ両手を合わせた。
横島はそんなシロと添えられた花をじっと見つめる。

まだ、手は合わせられなかった。




やがて立ち上がったシロに、横島はぽつりと言う。

「俺は・・・・・本当にルシオラを幸せにできるのかな?」

その疑問に肯定で答えるであろうシロの言葉を待たずに続ける。
「可能性とはいえ、生まれてくる子供が夫の元恋人だぞ?
拒絶されなくても、納得いかない気持ちは生まれちまうかもしれない・・・・・」

自分ひとりの力で子供を幸せにしてやれると言えるほど傲慢ではない。
“彼女”の母となる人の気持ちを考えると不安があった。


しかし、そんな横島の不安へのシロの答えは簡潔であった。

「そんなの簡単でござるよ・・・・・・その人もルシオラ殿を幸せにしてあげたいって思っていればいいんでござる。」

その単純な言葉は横島に問題が解決してしまったかのような錯覚を与え、一瞬ほうけさせる。

シロの言う事は間違ってはいないが、解決策というにはあまりにも稚拙だ。


それでも、少なくとも横島には救いだった。

(バカだな、また考え込んじまうとこだった・・・・・)

思い直す横島にさらにシロは告げる。
「それに・・・・拙者、ルシオラ殿と約束したんでござるよ。もし拙者がルシオラ殿の母親になれたら、絶対幸せにしてあげるって。」

「え!?約束って・・・・」
そんな事は初耳だった横島の脳裏に、別れ際にあのルシオラがシロに向けていった“またね”という言葉が思い浮かぶ。

「そっか・・・・」
驚きはしたもののそれは一瞬の事だった。

シロの事だから深い考えがあってのことではなく、その時単純に“そうしたい”と思ったからそんな約束をしたのだろう、と見当をつける。

(でも・・・・・こいつのそんな単純な気持ちって・・・・・・・なんか嬉しいっていうか・・・・楽なんだよな・・・・)

ふと今回の事では、“彼女”の事で悩み苦しんだ時に、シロの気持ちで何度も楽になったことを思い出す。
そして自分がシロの師匠であるのに・・・と苦笑する。


「だめな師匠だな・・・・弟子に救われてばっかりだ。」
唐突な横島の言葉だったが、なんとなく心情を理解できたのか、シロはゆっくりと語りかける。

「先生・・・・・拙者だって父上の死を一人で乗り越えたわけではござらんよ。」

「里の皆がよくしてくれた事もあるでござるが・・・・・」

「先生に会って・・・・・・・先生に優しくしてもらって・・・・・・・」

少し言葉を切り、顔を赤らめる。


「先生の事が・・・・す、好きになって・・・・・」
「シロ・・・・・・」
シロの精一杯の告白に、横島は照れるよりもその健気さにただ聞き入っていた。

「好きだから・・・・拙者は先生の力になれたらすごく嬉しいんでござる。
だから、もっともっと頼って欲しいんでござる・・・・・・・先生を支えてあげたいんでござるよ。」

横島はシロの頭にそっと手を伸ばし、くしゃっと撫でる。

「ありがとな。」
子ども扱いするような感じの横島にシロはむっとするが、それでも頭を撫でられる心地よさに少し身を任せた。
しかしその心地よさからは、次の横島の言葉で引き戻される事になる。


「俺もシロの事が好きだ。」

「えっ!?」
そんな言葉を返されるのは予想外だったのか、シロは一瞬何と言われたのか考え込み・・・・・・・・・・・


理解すると共に、顔がこれ以上ないくらい紅潮する。

「せ、先生・・・・あの・・・拙者・・・」
慌てふためくシロに、横島は意外にも冷静に続ける。

「だけど・・・・・今のその気持ちは、俺がルシオラに抱いてる気持ちや、シロが俺に向けてくれている気持ちにきっと敵わない。」

その言葉にシロの表情は一瞬でかげり、尾もしゅんと垂れる。
そんなシロに横島は「最後まで聞けって」と促し、俯いた顔を上げさせる。

「でも俺はシロの事は“もっと好きに”なっていけるんだ。」
横島の言葉の意味がわからず、きょとんとするシロ。その表情に笑みを浮かべながら続ける。

「ルシオラとはお互いの気持ちを伝え合う事はできない・・・・・・・俺が一人で思いを巡らすことはできてもな?」
シロを・・・いや自分自身を諭すような口調で言う横島を、シロはじっと見つめ続ける。

「シロとはそれができる。気持ちを伝え合って、本当に“もっと好き”になっていける。だってな・・・・」

シロと“彼女”の消えた場所に添えられた花・・・・両方を見る。


「シロは・・・・同じ世界で、同じ時間を“生きて”いるんだから。」


それは、シロと“彼女”をはっきりと分ける言葉だった。

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