ある日
投稿者名:veld
投稿日時:(02/12/ 8)
“ナイフで刺されるよりも痛いことがある、君は知っているかい?”
カーステレオから流れる曲、聞き覚えのない曲だった。昔に聞いたんだとすれば、鼻で笑っていたかもしれない。俺はナイフで刺されることなんて日常茶飯事だったよ、って。
きっと、この作詞をした人は、そんな風な意図で考えたわけじゃない。そんなことに気づくこともなく、俺はただ聞き流したろう。そう、そんな意味ではないのだ。
“そうさ、君は知らない”
窓の外は闇の中に光るネオンが無粋に感じられるほどに眩しく輝いていた。昼よりも明るく感じる。太陽の暖かな光ではなく、人工的な、無機質な光。人によっては、そう感じはしないかもしれない。気分の問題かもしれなかった。が、そう思えた。
しばらく車を走らせると、光が止む。
この辺りまで来ると、人の気配がしなくなる。郊外というわけではない。ただ、この場所は、年中静まり返っている。誰も、いない。
“君は知らない、そのほうが幸せだと、僕が考えていることも”
いつまでも変わらずにいられたら、この場所はこの場所なりに幸せかもしれなかった。
それでも、この場所は、あってはならない。
「過去を、消しに来た」
空間が歪んだように、見える。その先に見えるのは、大量の純粋な邪気。悪霊と呼べることもない、ただ、実体を持つことなき、死の偶像。
「ドクターカオスの作った失敗作。こいつだけが・・・俺に残った、彼女らと俺との最後の接点」
“さよならなんて、言いたくないのに”
「別れはいつ誰が、言うのか知らない・・・別れるなら早いほうがいいだろう?そう思わないか・・・」
もう、遅すぎた言葉。
「さよなら」
十六個の文殊が狂っていた空間を元に戻す。喧騒が、静まり返る。
ゆっくりと、時が戻る。そして、俺が生きてきた時間が帰ってくる。一番、俺が楽しかったあの頃へと。
「全く、カオスにも困ったもんよね・・・。空間を狂わせて、異世界からエネルギーを得ようなんて・・・。地獄炉よりもたち悪いわよ」
「本当に・・・。まあ、でもみんな無事だったからいいじゃないですか」
「まぁね」
「美神さん、なんか俺夢見てたんですよ?」
「ん?」
「いや、今回のことで失敗して、俺だけが逃げて助かる、って奴なんですけど」
「ほー・・・横島くん、逃げたんだぁ・・・」
「いや、夢の中の話ですって!!」
「そうですよ、美神さん、あんなに横島さん頑張ってたじゃないですか!」
「ふふふ、冗談よ、そういえば、似たような夢を私も見たけど」
「へ・・・?どんな夢ですか?」
「・・・長い、長い、眠りの中で待ってるのよ、誰かを・・・」
“宝石箱の中に君の傷をいれてしまおう。きっと美しく見えるはず。別れは傍目から見ればとても美しいものらしいから”
今までの
コメント:
- うぅ、何か泣ける話ですね...最近涙腺が弱くなってきたかもしれません(笑)。実は最初拝読した際には情景が朧げにしか把握できなかったのですが、どうやらカオスが現代と過去の異世界とを繋げる空間を作ってしまったようですね。一瞬横島クンがそれを使って戻ったように思われたのでビックリしました;結局「今」を一番に考えて残った彼「らしい」判断に共感できました。ラストの令子の発言で待ってる相手のことを想像して少しニヤついてしまう自分が情けないです(笑)。投稿お疲れ様でした♪ (kitchensink)
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