一瞬の情景
投稿者名:veld
投稿日時:(02/12/ 7)
解けかけた雪をすくい、湿ってゆく手袋の感覚に酔う。季節はずれの雪。彼はまるで魔法でも使ったかのように降らせてくれた。彼は偶然だ、というけれど、いいの、私はそう思っておくから。
一年しかない命。私達は一緒にいられる時間を精一杯生きたいと思った。パピリオもぺスパも、横島には信頼を置いてくれている。そして、共に最後のときを過ごそうと言ってくれたあの人。その言葉が嘘でもいい。たとえ、私達を欺いているのだとしても、今はその言葉を信じているから。
でも、漠然とした予感がする。私は彼の傍から離れてしまう。それはきっと、永遠の別れ。もう、めぐりあうことはない。そんな、予感。
「横島・・・私、雪が見たいの」
「雪?」
私が言った言葉に、彼は不思議そうな表情を浮かべる。私はそんな彼の反応が面白く、ついつい笑ってしまう。彼の顔が憮然としたものに変わったとき、私は苦笑する。
「もう、そんな顔しないで!そう、雪、あと、何ヶ月も待たなきゃ見れないなんてちょっとね・・・。あなたの力で何とかならない?」
「文殊か?うーん・・・、難しいと思うぞ。いや、この時期だと、すぐに溶けてしまうだろうしな」
「いいのよ、ただ、見たいだけだから」
でもどうして、そういいかけた彼の言葉が飲み込まれる。そんな彼の気遣いが少し悲しい。私はきっと困った顔をしている。彼も、そんな顔をしているから。
「そっ、見たいだけ」
雪が降り注ぐ。季節はずれの雪。彼が私に見せてくれた、もう一つの「美しいもの」。
「本当にできるとはなぁ・・・。何でもありだな。俺」
呆然と空を見ながら横島が言う。周りでは、パピリオやペスパが不思議そうにその情景を見ている。土偶羅様はアジトにしている洋館の中にいる。彼は何も言わなかった。
「横島」
「ん?」
私は作った雪玉を横島に投げつける。横島の顔が白い雪玉の色に染まる。
「くすくす」
「くははは」
「あははは」
三者三様、私とぺスパとパピリオの笑い声。横島の顔が引きつっている。そして、無言で雪をすくい、軽く握る。そして、
「雪合戦だ!!」
ほんの一瞬。そう、あなたの思い出の中から消えてしまう程度のものかもしれない。私はあなたに、何も残せないかもしれない。でも、一瞬でも、美しいものを、あなたに忘れないで欲しい。
私はあなたの前から消えてしまうけど、いつまでも消えないものがあるわ。
「そうでしょ、横島?」
「?」
今までの
コメント:
- 近い将来での自分の死を自覚していたルシオラ、あながち有り得なくも無いように感じてしまうのはveldさんの文章力がモノを言ってるからでしょう。確かに原作では雪が降るような場面は無かったですね;そんなルシオラのおねだりにちゃんと応えてやる横島クンの優しい一面が「らしい」気がしました。アシュ事件が徐々にヒートアップする前の束の間の平和の風景、その後の悲惨な結末を知っているだけに尚更このシーンが際立っている感じです。投稿お疲れ様です♪ (kitchensink)
- ちっぽけな願い。ほんの些細な出来事。世界を相手に喧嘩を売った一味が望むには、あまりにも小さなこの一瞬。
だが、いつか。この時、雪を降らせて良かったと横島が思う日が、きっと来る。必ず来る。 (黒犬)
- ああ、なんもいい言葉が出てこない。ああもう、良い、としか言えない俺って馬鹿。 (紫)
- 始めまして展開のすみっこのほうにすんでいるhazukiと申します(笑
…綺麗ですねえ。
こーゆうの好きです♪…自分でかけないから尚更(汗)
…すいませんちゃんとしたコメントかけません(涙 (hazuki)
- すごく平和で幸せな風景ですね。
嵐のような大戦が始まる前のほんの少しだけの
平和なんでしょうか?
もしも戦いが避けられないことならば
願わくばこの小さな平和が少しでも長く続かんことを・・・・ (ハルカ)
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