ザ・グレート・展開予測ショー

下校時の雨


投稿者名:veld
投稿日時:(02/12/ 7)

 ひりつく頬を撫でる風は冷たい。熱を帯びた患部には心地いいが、心は冷え切った寒さに凍てつきそうだった。視界に移る光景の中に、その一部と化してしまった人の後ろ姿を見、ため息をつく。腹の中にある、苛立ち全てを吐き出すようなため息。
何を望むべくも無い、自分は振られたのだと気付くことはプライドが許さない。零れ落ちそうな涙を、濁りきった空を見ることで耐える。降り出しそうな空、どうせなら、雨でも降ってくれればいいと思う。

 頬を叩かれた。そして言われた。
 「私には好きな人がいます」と。
 確かに、軽い調子で告白した。心は真剣だった。でも、そんな気持ちが、神ならぬ彼女にわかるはずもない。だから、叩かれた。でも、どんなに真剣に思いを伝えても、彼女には届きはしなかったろう、皮肉なことだった。告白する時、初めてちゃんと目にすることの出来た彼女の目にうつっていたのは眼前にいるにもかかわらず、俺じゃあなかった。
 そう、告白した後、彼女が頬を叩くほんの少し前に、俺は気づいたのだ。
 彼女は、恋している。俺以外の誰かに。

 雨が、降り出した。傘は持ってきてない。寒空の下に降り注ぐ雨はとても冷たかったけれど、頬に流れる生暖かいものをごまかすには丁度良かった。どうせなら、いつまでも降りつづけて欲しい。この頬を伝う流れは、そう簡単に途切れそうにも無いから。
 震える体、ごまかすことは出来なくても良い。今は、泣きたい。そんな俺の後ろから聞こえる声。駆け出す、足音。俺の横を通り抜けてゆく。

 
 そして、そいつは彼女の傍で立ち止まる。
 
 「小鳩ちゃん、準備良いねぇ。俺、傘忘れちゃってさぁ」
 
 「あ、横島さん!入りませんか?傘も差さずにいたら風邪引いちゃいますよ!」
 
 「いいの?」
 
 「はい(ぽっ)」
 
 「それじゃあ入れてもらおうかな。ごめんね」
 
 「いえ、私・・・嬉しいですから」
 
 「へっ?」
 
 「いえ!さっ、行きましょ!横島さん!」

  俺は呆然とその光景を見ていた。そして、気付く。彼女の目に映っていたのは誰だったのか。両手から血が出るほど強く握り締める。きっと、青筋も浮き出ているだろう。歯を噛みあわせた時、右の奥歯から鈍い音と、苦い味がした。欠けた歯を、口中から吐き捨てる。怒りが、支配していた。

 
 「納得行かん!!」
 
 思わず口から出た言葉は、どうやら前を歩く彼女には聞こえていたらしかった。ぴくっ、と体を震わせ、振り向く。その瞬間、俺は確かに喜んでいた。振られたとはいえ、俺は彼女の事が好きだったから。
 だが、その思いも凍りつく。
 視線で人を殺せたら・・・!さっきまでそう思っていた俺は、本当に視線で人って殺せるのではないか?というくらいのものを見てしまった。その目で見られた俺はもう立ちすくむしかなく、ぶるぶると、体を震わせていた。恐い・・・、ここまで本気で思ったのは、これが初めてじゃあないだろうか?気のせいか、口で、ころすよ、といっているようにも見えたし。

 
 「どうしたの?小鳩ちゃん」
 
 「いえ、何でもないんです、気にしないでください」
 
 「ふうん・・・、何か困ってることがあるんなら何でも言ってよ。俺でよければ力になるし」
 
 「はいっ!」

 去りゆく二人にかける声も見つからず、というか―――かけれるような関係でもないんだが―――俺はその場で立ち尽くしていた。心底、彼女に逆らうのはよそう、そう思いながら。

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