魔人Y−16
投稿者名:NAVA
投稿日時:(02/12/ 6)
横島が眠りについてから約3ヵ月。
その日がやってきた。
横島の客室のドアが開く。
客室は横島が使っていないにも関わらず、丁寧に掃除が成されている。
「う〜ん。北辰さんは仕事熱心だね〜♪」
ヤマサキは北辰の仕事振りに満足しつつ、横島を眺めた。
「スリーピングビューティーなんて言葉があるけど・・・彼の場合はビーストかな?」
くだらないことを呟きつつ、部下達に命じて横島へ拘束具を取り付けさせた。
「さ、客室にジャミング装置を使用してくれるかい♪」
ブーンッ
試しに横島手製の文珠を発動させてみる。
何も起こらず、文珠には漢字が浮かばない。
それに満足した彼は横島の変化を待つ。
ジャミング装置が働き出した今、文珠によって眠らされている横島が目覚めるはずだ。
そしてその時は訪れた。
「ん〜?ルシ・・・オラ・・・?」
理解不能の激しい喪失感と共に横島は目を覚ました。
「あれ?ヤマサキさん?そっか。ソファーを借りたんだっけ?」
『???』
現状を把握しようと周囲を見回すが、四肢が拘束されていることに気付く。
「ヤマサキさん・・・?これって何の実験ですか?」
そこで機嫌良くヤマサキが喋りだす。
「いや〜♪おはよう、横島君♪」
とにかくヤマサキは嬉しそうだ。
「うん。これは実験の一環なんだけどね〜♪ちょっとその前に君の現状を説明しましょう♪」
そう言って、文珠で3ヶ月ほど眠らされたことなどを横島に告げる。
さすがに激怒した横島だったが、それには応えずにヤマサキは更に嬉しそうに続けた。
「でね?君に見せたいモノがあるんだよ〜♪多分、君も物凄く喜んでくれるはずさ〜♪」
横島の抗議を一切受け付けず、横島ごと廊下を移動するヤマサキ達。
四肢を拘束された横島には車椅子が準備されていた。
自分を睨み付けてくる横島に一切かまわず、一人で喋り続けるヤマサキ。
「これから君をお連れするところはとある実験室でね〜」
プププププッ
笑っている。
言いたくて言いたくて仕方が無い様子だ。
横島はどちらかと言えば戸惑っていて、ヤマサキに裏切られたという実感はまだそれほど無い。
――――もしかしたら、何かのプレイか?
なんて期待までしてたりする。
しかし一行が目的地に着いた途端、そんな思いは雲散霧消する。
そこには16の培養槽があった。
電気がついていないせいで、暗くてよく見えない。
見えないが、16の培養槽とその中に何かが入っていることは影から分かった。
「さ〜横島君♪これは僕から君へのプレゼントだよ♪」
そう言って明かりを点すヤマサキ。
「ル・・・シオラ?」
呆然とする横島。
「ん〜♪ん〜♪もっと良く見たいって?分かるよ分かるよ〜♪」
言いながら車椅子をゆっくりと移動させるヤマサキ。
わざわざ16の培養槽全ての前をゆっくりと通る。
培養槽の中には目を閉じたルシオラが胎児のように丸まって浮かんでいた。
その顔に生気は無い。
しかし、時折空気の泡が口から漏れることからも、彼女達が生体活動をしていることが窺える。
「・・・生きてるのか?」
腹の底から声を絞り出す横島。
「もちろんさ♪遺伝子を調べた結果、君と同じ半人半魔ということが分かってるよ」
「何で16人も・・・?」
「フッフッフッフ。よくぞ聞いてくれました♪
実は君を実験に使えない場合を考えてね〜、クローンを作らせて貰ったんだよ〜♪
そしたら、どういうわけかルシオラちゃんになっちゃってね〜♪
いや〜、まさに神秘的♪吃驚だよ〜♪
あ、16っていう数字には意味は無いんだけどね。
実験用のモルモットは多い方が良いじゃない♪
そういうわけさ♪」
「アンタは!!!!」
「はいは〜い、人の話は最後まで聞きましょうね♪
実はこの培養槽なんだけどさ。
ここのボタンをポチッと押すとね。
詳しい仕組みは省略するけど、要するに霊基構造を分解する不思議な薬が流れ出すんだなぁ〜♪」
さらっと恐ろしいことをニコヤカに言うにヤマサキ。
さすがに横島も二の句が次げない。
「そ〜んなわけでね♪僕からちょ〜っとお願いがあるんだよ〜♪
もちろん引き受けてくれるよね?」
横島に選択の余地は無かった。
今、横島の目の前には原始風水盤らしきモノが広がっている。
――――地下には入るなって言われてたけど、こんなモノがあったのか・・・。
自分の置かれた状況を処理し切れていない横島はぼんやりとそんな感想を持つ。
原始風水盤らしきモノの中央には機械のコードが繋がった、一辺が5mくらいの立方体の黒い箱があった。
横島はすぐにそこへ凄まじい霊力が流れ込んでいるのに気付く。
「さすがA級、実質S級のGSだね〜♪すぐに気付いたかい♪」
ヤマサキが解説する。
「あのポイントはこの辺り一体の地脈が集中してるポイントなのさ♪
で、あの箱と風水盤みたいなのはそれを効率良く取り込むための秘密兵器ってわけさ♪」
「・・・・で、俺に何をやらせようってんだ?」
もはや横島の中でヤマサキは敬語を使うの値しない人間だった。
「まあ、そんなに急がない急がない♪
あの仕掛けはね〜、人間に霊力を流し込むためのシステムも積んでるんだ♪」
「???」
横島には未だにピンと来ない。
「で、僕が君にお願いするのはあのシステムに組み込まれて欲しいってことさ♪」
「はぁ?」
「大丈夫♪
専用のシートも君用に作ってあるし、アレに組み込まれてる間は空腹とか一切感じないよ♪
何せ、膨大な霊力が君に流れ込むからね〜♪
多分、意識すら無いと思うけど♪」
「な・・・何言ってるんだ?アンタ?」
「あ、この装置の名前ね〜、良い名前が付かないから仮称なんだけど『文珠生成機』って呼んでるんだよ♪
うんうん。名は体を表すってこのことだよね〜♪」
この時点で横島にもやっと理解出来た。
つまり、この装置は文珠を人工的に生成するための機械で、
それの燃料を地脈に。エンジンの部分を横島忠夫という文珠使いに当て嵌めようと言うのだ。この男わ。
地脈の集うポイントから無尽蔵に霊力を吸い上げる、そしてそれを横島が吸収し、文珠を生成する。
それを無限に行うための装置というわけだ。
「ふざけんな!!そんなことに協力出来るか!俺は機械じゃないぞ!!!」
「困ったなぁ〜♪」
と言いつつも、全然困ってない様子でヤマサキがそう言うと、部下の連中が動き出した。
横島の正面に巨大な液晶画面が移動されてくる。
その画面に電源が入ると、ルシオラ達の培養槽が映し出される。音声は無い。
「ん〜♪不吉な番号だしこれにしよ♪」
ポチッ
ヤマサキが手元にあるリモコンらしきモノのスイッチを押す。
するとNo.13と書かれた培養槽に黄色い液体が混ざり始める。
そしてすぐにその中に収まっていた少女が閉ざされていた目を見開いてもがき始める。
大量の空気の泡を口から吐き出し、苦しそうに動き回る。
手足が激しく培養槽のガラス部分にぶつかるが、その程度ではビクともしない。
「なっ?!や・・・やめろーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
横島が絶叫する。
しかしヤマサキはニコヤカに宣告する。
「いや〜♪もう手遅れなんだよね〜♪
今の僕達じゃ一度崩壊を始めた霊基構造を直すなんて無理なんだよ〜♪」
全身の力を振り絞って拘束を外そうと暴れる横島。
霊波刀を出そうとしても出ないし、文珠も出てこない。
「あ、言い忘れたけど、今この辺りでは横島君の霊波をジャミングしてるからね♪」
ヤマサキがやはりニコヤカに忠告する。
そんな横島の目の前で、No.13の少女は手足の先から徐々に崩れていく。
それを目の当たりにして、涙を流し一層暴れ狂う横島。
「やめろ!やめろ!やめてくれ!ルシオラぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!」
そして最後にはNo.13と銘打たれた培養槽には何も無くなった・・・。
横島は呆然として動きを止める。
しばらく沈黙が続く。
横島も。
ヤマサキはニヤニヤしつつも。
他の研究員も何も言わない。
ただ、横島の次の発言を待っている。
「・・・・好きにしろ」
今までの
コメント:
- 横島君が人間に喧嘩を売るにはこれで十分。
そう思う人は言ってください。
さもないと、もうちょっと不幸になって頂きます。ニヤリ
>ルシオラーの方々へ
私もルシオラ好きです。タマモの次くらいですけど。
ええ、間違いなくルシオラは好きです。萌え萌えです(照 (NAVA)
- 喧嘩売るに十分かと言えば、う〜ん、どうなんでしょう?(爆) とりあえず今回の展開では横島クンの悲しみと機械の一部に組み込まれることへの諦めに似た感情に共感できたので賛成です。今までのヤマサキの文珠研究がこんな生成機を作るために、そしてルシオラのクローンは横島クンに対する「脅し」としても使われるために作られたとは...。横島クンはこのままどうなってしまうのでしょうか? 次回も楽しみにしております♪ (kitchensink)
- ははっ、研究員達よ、これで皆殺し決定だな…。奴についていかなければこんな事にはならなかったのにね。
しかしヤマサキの性格なんてまるっきりアレですね。笑顔で殺戮。
次回あたりでヨコシマが魔についていく方向で話が進んでくれると嬉しいですね。(これ以上の不幸はちと勘弁して欲しいなーと)あとヤマサキの死はしっかり書いて欲しいのは私だけ? (浅川)
- も少し不幸にならなきゃ、人間全員に喧嘩売るには物足りない気もします〜
たとえば文殊生成機に組み込まれる直前に
残りのルシオラたん全員壊される映像を見せ付けたり
でも・・・ルシオラたんいぢめられるのは可哀想・・・とかもおもったり・・・ (SIN)
- コメントありがとうございます。
一応、密かに自分に課していた毎日更新は無理っぽくなりました(ぉ
やっぱりねぇ。この状況じゃあ、ヤマサキ個人かGS協会を憎む程度ですよね。
やはりまだ甘いですな(笑
>kitchensinkさま
はい、やっとGS協会の目的を明かして、いきなり達成です。急ですみません。ちなみにヤマサキは横島が眠った状態でも組み込むことは可能です。これはヤマサキなりのエンターテイメントとご理解ください。
>浅川さま
皆殺しかぁ・・・。どうかなぁ。フラストレーションの貯まる結末となると思います。まあ、それなりに理由はありますのでよろしく。やっぱり不幸は続く予定(笑 (NAVA)
- >SINさま
はじめまして・・・カナ?
ルシオラクローンが16体もいる時点で、何か不幸事があるのは予想付きますよね(笑
是非、期待に添いたいと思います。
ルシオラたんは・・・何とか救済措置を講じるつもりです。
(NAVA)
- 私ごとき若輩者が口を挟むのも失礼な話だとは承知の上で、あえて言わせていただければ
横島は自分から人様に喧嘩吹っかける人ではありません。
復讐とかそういう非生産的な目的で自らも傷つくのはよしとしないと思います。
いや、別にそうじゃなきゃいけないと言う権利はオレにはありません。
オレだって似たようなことしてるし。
ただ、不幸が大きければ説得力がつくよ、というのは誤解だと思いました。
全人類とゆーのも引っかかりましたし。
感想じゃないコメントだけなんて失礼のきわみで、大変申し訳ありません。
時間もあまりないところでどうしても納得いかない話題だったので。それでは (ダテ・ザ・キラー)
- >ダテ・ザ・キラーさま
コメントありがとうございます。
えーっと・・・これは批判、あるいは違和感・・・カナ?
まずは、それだけきちんと読んでくださってることに感謝いたします。
で、それに対する答えですが、ダテ・ザ・キラーさんの持つ横島観ってのは大概の人のソレとほぼ一致すると思います。私自身も似たような感じです。ですが指摘されたその点こそ、この話の核心に迫るポイントなんです。所謂、ネタバレって奴になるので、今すぐその点についてきちんと答えることが出来ません。プロットを公開出来れば、多少は理解いただけるのではないかとも思いますが。
そんなわけで、正直「気長に最後まで見てくれ」としか言えないのが現状です。 (NAVA)
- まぁ、私とダテ・ザ・キラーさんは別人ですから、横島観が完全に一致するわけもありません。結末を見て「それでもこれは違う」と言われるかも知れないことには謝るしかありません。
ですが、ダテ・ザ・キラーさんみたいな方に「違和感はあるけど、これはこれで良いんじゃない?」って言ってもらえるように頑張るつもりです。蛇足ですけど、作中で全人類とは書いた記憶が無いんですが・・・。人界(人間)に喧嘩を売ってるだけというか。勢いで書いちゃったのかな^^;
きちんとした答えになっていなくてすいません。
誤解を受けるような表現があるかも知れません。
ですが、これからも疑問・違和感を感じたらご指摘お願いいたします。 (NAVA)
- P.S.この話を読んでる方全員に宣言いたしますが、私は横島最強伝説の信奉者ではありません。基本的に横島ではなく、周りのキャラを動かすことで話を進めるつもりです。いや、もちろん必要なパートでは動いてもらいますけど。
そんなわけでよろしく。 (NAVA)
- これは賛成・・・なのかな?どーだろ。いや、ルシオラーな僕としてはやはりルシオラが不幸になるのには抵抗したいのですが、僕はダークも結構好きってゆー困った人なのです。ええ、趣味が変です。まあ、ここは一つ、ダーク話を楽しむ(?)ってことで賛成票を入れときます。では。 (紫)
- >紫さま
ルシオラの不幸は嫌。でも話の流れは否定しないと。
フフフ。貴方も私と同じく倒錯的な愛の道を歩まれますか(マテ
というか、この話はSS(サイドストーリー)からFF(ファンフィクション)に移行しちゃってるなぁと思う今日この頃。
生きててごめんなさい(ぉ (NAVA)
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