ザ・グレート・展開予測ショー

星たちの密会(裏)


投稿者名:矢塚
投稿日時:(02/12/ 3)


「・・・やはりオヌシ、手馴れておるな・・・」

 小龍姫により自我を与えられた一つ目のバンダナが、青年の額から声をかける。

青年は、それに言葉を返すでもなくただ黙々と手帳にかかれたルートを確認し、容量の

少ない脳みそに叩き込んでいた。

「・・・よっし・・・後は、この道から抜けて、銭湯に行けばいいな、

それで、煩悩満タンだ・・・」

 最終確認を終えた青年が、手帳から眼を離す。その眼差しには強い決意が

漲り、断固たる意志を感じさせた。

「・・・おいっ・・・おい横島っ!」

 バンダナが再三呼びかけるのに、今初めて気がつく横島忠夫。

「ん?ああ、なんだ?」

「すぐそばに人の気配がする、気をつけろ!」

「なっ!なにー!ば、ばれたのか?」

 決して大声を出さず、挙動不審のようにあたりを見回す横島。

 目隠し用の植木をはさんだ向かいは、テニスコート。そちらにいるおねーさん

達が気づいた様子は、無い。彼のいる植え込みは、他の場所からも完全に死角に

なっている為、気がつかれるはずは無いのだが。

「コートにいる、おねーさま方じゃないのか?」

「いや違う!この気配の消し方、只者ではないな・・・いましがたまで

この私が気づけなかったのだ。」

 横島に緊張がはしる。バンダナが息を殺し、気配を探り続ける。

「・・・気配が消えた?・・・どうやら去ったようだな。しかし、一体何者だ?」

「んー?、のぞきのプロだったりしてな!」

 とりあえず面倒事にならなかったので、気楽になる横島。

「・・・少し、まじめに生きたらどうだ・・・」

「馬鹿言うな!まじめに生き残るためには、煩悩が必要なんじゃ!」

「・・・確かにそうなのだが・・・」

 バンダナのテンションが低いのも仕方ない。これから生死を賭けた戦いに

望むにあたり、まずしなければいけないのが覗きと、それによる煩悩の

充填とは。

「とにかく、時間が無い。急ぐぞ。」

 バンダナの杞憂などどこ吹く風で、解き放たれた矢のごとく横島は走り出した。




「ふふんっ。まさかここから覗いているとは、誰も気がつくまい。」

「確かにな。それにしても、オヌシの発想の凄さにはある意味感心するな。」

 渋みをきかせた声の会話が、横島とバンダナの間で交わされる。場所が場所なら

さぞかし絵になっていただろう。

 しかし、その絵面は最低だった。バンダナの一つ目が出るように頬被りをし、

銭湯天井部の天窓からはいつくばって女湯を覗いていたからだ。

 いくらなんでも、落ちたら重症は免れない高さである。そんな場所に這い上がり、

わざわざ覗きを行う馬鹿などそうそういない。

 横島は、下手に滑落すれば死ぬかもしれないという恐怖の中で、覗き行為に

酔い痴れた。

 それは、恐怖と快楽の入り混じるなんともいえない時間であった(変態だな)

 横島の煩悩がみるみるゲージマックスになりつつある頃に、倒錯の時間は破られる。

背後に人の気配がするのだ、それも烈火の怒りをたたえた気配が。

 バンダナも、場所が場所なので警戒を怠っていたらしい。

 その気配に、横島とバンダナが恐る恐る振り返る。そこには、高校の制服をラフに

ひっかけた一人の青年が、仁王立ちで屋根の上に立っていた。

 体格、人相とも『好戦的』という言葉に申し分なかった。

 青年が怒りを殺して、問いただす。

「・・・まさかなあ!うちの馬鹿親父以外に、この場所から女湯を覗こうなんて

大馬鹿野郎がいるとは、思いもしなかったぜ。親父用に仕込んだ警報装置が、

役に立つとはなあ。・・・てめー、覚悟は完了してんだろうな?」

「いっ、まってー!話せば判るっ!これには深い事情が!」

 横島の弁解など、はじめから聞く耳を持たなかった青年が、

今いる場所も忘れて殴りかかる。

「うるせーっ!この星乃湯を覗こうなんて性根はっ!俺が叩き直してやるっ!」

「ひーっ!かんにんやーっ!!」

 美神の制裁に比べれば甘い攻撃をひらりと横島がかわすが、しかし足場が悪かった。

回避後にバランスを崩して天窓を突き破り、まっさかさまに女湯に落ちていく。

 その後の女湯では、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開された。


「くっそー、本当に頭にくるぜっ。これでまた、客足が減っちまうじゃねえかっ。」

 覗き見犯にゴキブリのような俊敏さで逃げられた青年が、銭湯の番台で呟く。

自他共に認める駄目親父は、朝から行方知れず。そのうえに、今日の騒動である。

怒りが収まらないのも良くわかる。こめかみの辺りが気の毒なくらい、ひくついている。

「ただいまー!」

 間の悪いことに、その駄目親父のご帰宅であった。

「ああっ!てめーは今まで、どこほっつき歩いていやがった!」

「な、どこって・・・いろいろとその、息抜きを・・・」

 いつにない剣幕で怒鳴られ、親父がしどろもどろに答える。

「おのれの人生には、息抜きしか無いんかいっ!」

「なっ。ひどいっ、そんな言い方ないじゃないか・・・」

「あああっ!ったく!なんてろくでもない日だっ!まったく。」

 怒り心頭の青年が今日の出来事を、駄目親父に説教と共に時折怒号を混ぜつつ

聞かせ始めた。説教の間、利用客のサービス用に据付られているテレビからは、

今日行われたGS試験でのトラブルが報じられていた。

「ほうー。すると、俺並みの覗き野郎がいたってわけだ。世の中広いねー。」

 息子の機嫌がだいぶ落ち着いてきていたので、自分の立場を忘れて

人事のように感心してしまう。

「馬鹿かおのれはっ!何感心してやがるっ!」

 怒りに再点火する青年。その業火に、次の言葉を飲み込む駄目親父。

 こんなことを言ったら、本当に殺されそうな台詞。

『いやー、奇遇だなー。実は俺も今日、覗きのプロに会ったんだ。』

 この台詞は誰の耳にも入ることなく、駄目親父の胸の中に封印された。




 ・・・しかし、青年のろくでもない一日は、まだ終わっていなかった・・・




   
                 おわり

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