ザ・グレート・展開予測ショー

一人になんてさせない −3−


投稿者名:veld
投稿日時:(02/12/ 3)

 

 その日の夜、俺はおキヌに知る限りの事は話した。ベッドの上、二人隣り合うように座り、ゆっくりと。不思議なくらい、冷静に話せていた自分が少し嫌になったが、彼女に打ち明けないままいる事のほうが嫌だった。自分一人で救えるなんて思ってはいないし、これは二人で考えてゆかなければならない問題だった。そのためには、冷静に語らなければならない。自分の私見から考える、誤った情報を彼女に与えるべきではないから。

 「そんな・・・蛍子が・・・」

 そこから先は言葉にならなかった。思いっきり声を出して泣けばいいのに泣いてはくれない。押し殺した泣き声に、俺は何もしてやれなかった。ただ、抱きしめ、頭を撫でてやることくらいしか。彼女は何の反応もしない、俺を薄情とは言わなかった。分かっている、彼女はきっと、俺の思いを知ってくれている。だから、何も言わないし、声を押し殺すように泣く。俺だって、泣き出したい気持ちなのを知ってくれているから。
  



 朝起きたときに、枕もとが湿っていた。涙の名残、彼女は俺が眠った後泣いていたんだろうか――そう思うと、悲しくなった。起き上がり、彼女が待っているであろうキッチンに向かう。朝の冷たい空気の中に、暖かな空気を感じるその場所に彼女はいた。心ここにあらず、といった感じでただ、黙々と行動している彼女が。俺が入ってきたことに気付かず、ただ、目の前の作業に徹している。
 そんな、朝食の支度をしている彼女を、思わずそっと抱いた。胸元に腕を添えて、ただ、包み込むように、俺が傍にいると言うことを教えてあげるように。彼女は、一瞬体を震わせた。そして、彼女の手が、俺の腕に触れる。ただ、触れるだけ。そして、顔だけ振り向いて、

 「頑張りましょうね!横島さん!」

 かすれた声、それでも、気丈に振舞う彼女の声音に、心が打たれた。流さないと決めた涙が少しだけ流れた。あいつを救ってやるまで流さないと決めた涙をほんの少しだけ。

 「私の前での涙はノーカウントです」

 「うん」

 心でも読まれているかの様。彼女に答えた俺の声もまたかすれていた。振り向いた彼女の、儚げな笑顔が俺の心を優しくさせる。もうすぐ、蛍子は起きるだろう。その時までにいつもの笑顔に戻るように、俺は彼女に・・・。



 そう、元々は蛍子を人間にする方法を模索していたのだ。美神さんの事務所から借りた資料、厄珍から仕入れた情報を元に手に入れた魔族と人の関係を記した本。知り合いのICPO職員(隊長・西条ではない他の人物)から横流ししてもらった資料。小竜姫様に譲ってもらった古代の資料(あと、訳してももらった)。彼らはそんなものを持っていく俺を怪訝そうな顔で見つめていた。気付かれていないのか・・・そんな事を考える自分が嫌だったが、そのほうがいいとも思った。巻き込みたくは無かったから。
 それらは膨大な量となったが、俺は情報に飢えていた。魔族から人間へ、そう言う例はいくつかあった。美神さんの前世であるメフィストもその例に漏れない。しかし、具体的な表記をしたものは見つからなかった。
 美神さんの前世の記憶を読むことが出来れば、その方法もわかったかもしれない。しかし、ヒャクメが言うには、美神さんの前世の記憶は美神さん自身の無意識のうちに厳重に封印されているらしい。そのうえ、過去に行った時に、メフィストは莫大な霊力を持っていたらしい。強力な力を持つ、菅原道真の鬼を打ち破るほどの力。さらに、アシュタロスの住処から力を奪って人間になったらしい。たとえ方法がわかったとしても、そんなにコストのかかる方法は使えない。
 どうにもならないのか・・・目に見えて減ってゆく残りの資料に、僅かな期待を抱くことしか出来ない。そんな無力な自分に愕然とした思いを抱いた。

 魔族と人間の定義、それはあやふやなものだった。人間と同じ霊気構造だが遥かに強力な者が魔族・神族と呼ばれる者、というものから、霊気構造から人間とは異なり、人間と呼ばれる者と、極端に異なる力を持つ、と言う説、果ては異性人なんてものもある。大小見ても、数限りなく・・・、それらの考えの中に一石を投じてみようか、と思うこともある。土偶羅の話では魂のひっかえとっかえは魔族ならともかく、人間では不可能と言う話だった。つまり、ルシオラが俺に残してくれた霊気構造はルシオラから俺へのから一方的なものではあったが、もしも、俺が魔族だとするなら、彼女に俺がもらったものを返すことも出来たと言うことだろう。つまり、魔族と人間の定義ってのは霊気構造うんぬんじゃなく、魂の柔軟性によるものじゃないかと思う。あるいは、ベルゼブルのようなタイプがあるように、本体をオリジナルかつ司令塔とする、複製コピーが可能・・・。
 そこまで考えて、ふと、何かを見落としている気がした。が、どうしても、そこからその何かにまで行き着くことが出来なかった。
 結局、どの本にも詳しいこと、確かであると言う確証は見受けられなかった。魔族のなかでも、どんなタイプのやつをどう見るか?そう考える意味でも、当然のことではあるかもしれない。そんなこと考えてみても、無駄なことだろう。論文の中にある不確かな現実、それらは俺を打ちのめす結果しかくれなかった。

 魔族・神族から直接話を聞ければよかったのかもしれない。ワルキューレ、小竜姫様、聞こうと思えば誰にでも聞ける。おそらく、蛍子も彼女らのようなタイプの魔族だろう。   
 ただ、俺は不安だった。ICPOが蛍子を危険視しているのと同様に、魔族・神族からもマークされている可能性がある。もしも、彼女らの所に、蛍子を捕まえろ、と言う命令が出たなら、俺は彼女らに協力してもらうことで、情報を与えてしまう可能性もある。信じていないわけじゃなく、そんな風になってしまう可能性を少しでも少なくしたかった。
 アシュタロスの死によって起こっている混乱のなかでも、デタントの流れに確実に向かおうとしているのに、わざわざ、そこに火を投げ入れるような真似はしたくはなかった。それはほんのちっぽけな火種かもしれない。それでさえ、デタントに反対する連中の言い訳程度にはなりかねない。ギリギリの所にあるその情勢の中で心身ともに疲れ果てているのだろうか、どこか浮かない顔をしつつ俺を快く出迎えてくれ、GSの知識を蓄えるための勉強という形で資料を貸してもらい、訳する協力してくれた小竜姫様に、切り出すことが出来なかった、というのも事実ではあるが。

 

 ―――時間は無かった。
 
 蛍子の中にある魔族の因子がいつ目覚めるかは知らない。ひょっとしたら、もう目覚めているのかもしれない。まだ、物心もついていない彼女がそんな力を持てば、ひのめちゃんの発火能力よりも遥かに恐ろしいことになる。蛍子が無意識にでも力を使った暴走をしたなら、世界中の一流のゴーストスイーパーが束になってかかってこようと勝ち目は無いだろう。いや、その前に力を使い果たした蛍子がどうなるのかが分からない。下手をすれば、そのまま力に流されて死んでしまう可能性だってある。その最悪な考えを思い浮かべるたびに、焦りを覚えた。そして、明確な時間が分からない。明日かもしれないし、それはずっと先のことかもしれない。起こることも無いかもしれないが、ひょっとすれば今日かもしれない。
 暴走しなくとも、危険視するICPOの連中が彼女に何かする可能性もある。その何かによっては、彼女の力が目覚め、最悪な結末を迎えないとも限らない。
 切羽詰ったその時、おキヌと俺は決断しなければならなかった。
 「蛍子を救うために、悪魔に魂を受け渡す」ことを・・・。

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