ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−13


投稿者名:NAVA
投稿日時:(02/12/ 3)



 美智恵に叱咤を受けたおキヌ・シロ・タマモ。


 ――――――――良し!タマモ!特訓の続きをするでござるよ!

         言うが早いか、事務所を飛び出すシロ。

 ――――――――こらっ!待ちなさい馬鹿犬!

         慌てて追いかけるタマモ。



 そしてそれを見送るおキヌ。


 当初は闘志を燃やした3人だったが、一番最初に冷静になったのはおキヌであった。


 『私の強くなるって何?』


 常々抱いている問題だった。

 美神・横島が戦っている間、自分は後ろで応援しているだけ。

 特技のネクロマンサーの笛の出番など、かなり特殊な状況だ。



 ――――――――私って役に立ってる?




 おキヌはこの劣等感を払拭しなければいけなかった。






 「こらっ!馬鹿犬!もうちょっとアタシに合わせなさい!」

 「拙者はちゃんとやってるでござる!そっちが失敗してるだけでござる!」


 方向性が見えてるだけ、こちらはまだマシという程度。

 修行そっちのけで喧嘩する五十歩百歩な2人。





 こんな調子で美神の帰還を迎える3人だった。













 「は〜っ。やっぱり神界はそんなに甘くないわ」

 妙神山での首尾を聞かれた美神は開口一番にそう言った。

 「と、言うことは失敗ですか?」

 おキヌがしょんぼりしながら尋ねる。

 「ま、失敗は失敗だけど、それなりの成果はあったわ」

 そう言って、美神は妙神山での出来事を全て伝えた。

 「じゃあ、神界と魔界が横島さんを探してくれるんですね?!」

 暗い話ばかり続いていたので、目を輝かせるおキヌ達。

 「すとーっぷ!」

 と、そこで美神が釘を刺す。

 「母さんから話は聞いたらしいから全て話したけど・・・過剰の期待は禁物よ?」

 美神としては、最悪のケースも想定して動かなければならない。

 自分自身を含め(本人は認めていない)、おキヌ達に与える影響が強すぎるのだ。

 横島忠夫という男は。

 「良い?神界・魔界に対しては、まだ捜索隊結成の理由付けが出来ただけで、これから上層部を説得するのよ?」

 美神としては、おキヌ達の心のケアも考慮に入れなければならない。

 ――――――――本来ならあの馬鹿が身体を張ってやる仕事なのに!

 内心、理不尽な怒りを覚えつつ美神は続けた。

 「つまり、捜索はスタートすらしてないの。まだ準備中。当面は私達だけで捜索を続けるわ」

 







 その日の晩。

 美神は珍しくワインを飲んでいた。



 神界・魔界の調査隊結成にはどう短く見積もっても1ヶ月はかかる。

 そんな簡単に横島君が死ぬ、あるいは殺されるはずはない。

 あのゴキブリ並みのしぶとさの横島君が簡単に死ぬはずもないし、研究素材としても非常に貴重なはずだ。

 現存する唯一の文珠の使い手だし、それ抜きにしても後天的な半魔というのは珍しいはず。

 横島君の安全――――五体満足かは知らないけれど――――は確実。

 あとはどうやって救い出すか。



 そんな思考がエンドレスに続く。

 手詰まりだ。

 神界を味方に付けようとしたのだって悪あがきみたいなものだ。

 斉天大聖の助言は非常に有益だったが、時間がかかり過ぎる。

 オカルトGメンだって、所詮は個人の都合で動いたりはしない公の組織だ。

 母美智恵は信頼に値するが、Gメンという組織総出で協力体制を取れるとは思えない。

 独立勢力で信頼出来る組織はないものか・・・。


 ――――魔界に協力を要請するか?

     却下。

     ワルキューレやジークが、小竜姫達以上に影響力があるとは思えない。

 ――――シロ経由で人狼の里?

     却下。

     臭い当てクイズじゃない。

 ――――九尾の狐タマモの眷属?

     却下。

     今のタマモの力じゃ眷属達が従ってくれそうにない。

 ――――おキヌ経由で浮遊霊達?

     却下。

     ホームレスを探すんじゃない。

 ――――唐巣神父経由でバチカンは?

     却下。

     あの人は破門されたんだった。

 ――――いつぞやの月神族は?

     却下。

     月以外で影響力は皆無。


 はぁ〜〜〜。

 こういう時に一番に頼るのがGS協会だってのに・・・。

 その協会を相手にするなら誰を頼れってのよ。

 そして何度目かのため息を吐いた時、



 トントントンッ


 「美神さん?ちょっと良いですか?」

 おキヌが現れた。  







 「どうしたの?こんな夜更けに」

 ホットミルクにちびちび口を付けるおキヌにそう尋ねる。

 「ちょっと相談したいことがあるんです・・・」

 「何?横島君のこと?大丈夫よ。このGS美神令子を信じて待ってなさい!」

 努めて明るく振舞わんとする美神。

 「美智恵さんに言われました。横島さんと一緒にいたいなら強くなれと」 

 美神は母がそんなことを言った理由も気持ちも一瞬で理解した・・・が、

 ――――だからおキヌちゃんには言わなかったのに!

 はっきり言えば、美智恵の自爆だったりするのだ。

 「美神さん・・・私、役立ってますか?邪魔じゃないですか?」

 おキヌの表情は必死だ。

 ここで受け答えをミスったら致命的になる。そう理解した美神は言葉を選びつつ丁寧に言った。

 「ねぇ、おキヌちゃん。役立つって何だと思う?」

 「え?」

 「多分、おキヌちゃんがどういう場面でどういう風に役立ちたいかは想像が付くわ」

 沈黙して美神の言葉を真剣に聞き入るおキヌ。

 「私、横島君、おキヌちゃん。仕事中の前衛・中衛・後衛の順番よね。横島君は前衛も後衛もこなすけど、基本的にこのスタイルね」

 頷くおキヌ。

 「ちょっと考えてみて?もし、私が後衛で、おキヌちゃんが前衛を勤めたらどうなると思う?」

 「そんなの失敗するに決まってます!」

 「そうね。私もそう思うわ。じゃあ、さらにもう1つ考えてみて。3人一組のチームじゃなくて、2人一組のチームだったら?」

 「??????」

 「私と横島君、横島君とおキヌちゃん、おキヌちゃんと私。前衛と後衛だけの布陣だったらどうなると思う?」

 「美神さんと横島さんなら、美神さんが前衛で横島さんが後衛。横島さんと私なら、横島さんが前衛で私が後衛。美神さんと私なら、美神さんが前衛で私が後衛になると思います」

 「ええ。それが一番効率が良いわね。でもおキヌちゃん?その3組の組み合わせで気付いたことない?」

 「・・・やっぱり私は後衛、つまりお荷物だってことです」

 「違うわ。確かにおキヌちゃんは後衛専門になってるわ。でも、私も前衛専門になってるのよ?」

 ちょっと驚いた顔をしたが、すぐにおキヌは反論する。

 「でも前衛専門の何が悪いんですか?!」

 「じゃあ後衛専門の何が悪いの?」

 「え・・・?」

 キョトンとした表情で考え込むそぶりを見せるが、すぐに切り返す。

 「前衛なら横島さんと肩を並べて戦えます!横島さんの盾になれます!横島さんを守れます!」

 ――――この娘・・・イコール横島君が大好きですって宣言してるのを気付いてるのかしら?

 美神は胸のモヤモヤを抱えながらも苦笑して応える。

 「後衛なら横島君を支えてあげられる。横島君をフォローしてあげられる。横島君を癒してあげられる」

 「あ・・・えーと・・・」

 言葉に詰まるおキヌ。畳み掛けるように美神は続ける。

 「私には私の出来ることをやってるだけ。おキヌちゃんはおキヌちゃんが出来ることやるだけ。何が不満なの?」

 「・・・・じゃないですか。美神さんだって出来るじゃないですか!私がやれることみんな出来るじゃないですか!」

 「出来ないわよ。私と横島君、貴女と横島君。その二つの関係を考えなさいよ」

 「何の関係があるんですか?!」

 おキヌ、逆ギレ状態。

 「大有りよ。貴女の言ってることは、自分は神通棍を振るうから、私にネクロマンサーの笛を吹けって言うようなモノなのよ?」

 「ですから、何の関係があるって言うんですか?!」

 「キャラが違うって言ってるの!」

 「・・・はぁ?」

 「私に横島君へ『横島さ〜ん?ちゃんとご飯食べてますか〜?』とか、『横島さ〜ん?ちゃんとお部屋のお掃除しなきゃ駄目ですよ?』とか、『横島さ〜ん!身体の調子悪そうですけど、大丈夫ですか〜?』とかって言わせたいわけ?」

 「あ・・・いえ・・・」

 声色を使っておキヌの口癖化した台詞を言う美神。

 さすがにおキヌもちょっと引いてたりする。

 ――――似合わない。美神さんには悪いが似合わない。

 「今、似合わないとか思ったでしょ?」

 ギクッ

 白状してるとしか思えない表情のおキヌ。

 「それが答えよ」

 「え?」

 「私は私らしく。おキヌちゃんはおキヌちゃんらしくやってれば良いのよ」

 「私・・・らしく」

 「そ。自分のせいでおキヌちゃんが変わっちゃったなんて知ったら、横島君も悲しむわよ?」

 「私・・・足手まといじゃないんですか?ここに居ても良いんですか?」

 「居ても良いじゃないの。居てもらわなきゃ困るのよ・・・って、おキヌちゃん?」

 急に美神が慌てだす。






 涙が止まらない。
 
 幽霊上がりのあやふやな自分。

 かつての家族や知己はもう生きてはいない。

 自分の居場所はここしかない。

 言葉にしなくても、美神や横島達は自分の存在を許容してくれている。

 それは判っていた。

 しかし、自分が必要だとはっきり言葉にしてもらった。

 自分の居場所が再確認出来た、存在を再確認出来た。

 そう思うと自然に涙が溢れてくる。











 


 

 そして泣き続けるおキヌを優しく抱擁する美神。

 暖かい空気が2人を包み込む。





 ――――私のキャラじゃないって言ったばっかりなんだけどな。

 内心で苦笑しつつも、こんな日があっても良いっか。そう納得する美神だった。



今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa