消える街〜永遠のあなたへ〜
投稿者名:Maria's Crisis
投稿日時:(02/12/ 3)
疲れた顔が立ち並ぶ交差点。
無表情に行進を続ける群衆。
鼻を引きちぎらんばかりの悪臭。
頭痛さえも呼び込む大騒音。
・・・・・人間って、すぐに消えちゃうんでしょ?
誰の声も届かないこの街。
すれ違っても振り向けないこの街。
このまま、こうやって、消えちゃってもいいの?
どこかのビルの屋上。
私は顔を上げ、前方を見据える。
分厚い雲に隠れた夕陽が、オレンジ色の光の矢を射していた。
あの雲がなかったら、きっと、もっとまぶしいんでしょうね。
そんなつまらないことを思いながら、もっとつまらない街に目を落とす。
私には理解できなかった。
人間って、100年も生きることができないはず。
100年もすれば、消えてしまうはず。
それなのに・・・、なんでこんなつまらないことばかりやってるの?
もっと楽しいことがあるでしょ?
もっと楽なことがあるでしょ?
たった100年の人生なのよ。こんなことしてて、終わっちゃってもいいの?
たった・・・、100年・・・。
私は人間じゃないから、100年の歳月なんて一瞬のことにすぎないと思う。
でも、その100年で・・・、その一瞬で・・・。
みんな消えてしまう・・・。美神さんも、横島も、おキヌちゃんも、みんなみんな、消えてしまう。
私だけ・・・、置いてけぼり・・・?
「タマモ?」
私を呼ぶ声に振り向く。「見鬼くん」を片手に、横島が微笑んでいた。
「こんな所に居たのか?探したぞ」
「うん・・・」私は適当に相槌を打つ。
「なんだ?なんか面白いもんでも見れるのか?」
横島が興味深そうに、私の見つめる先に目を凝らす。
けれども、数秒でその興味深そうな表情が、つまらなそうな表情に変わる。
「おまえな、眺めるならもっとマシな景色にしろよ・・・。こんな汚いオフィス街なんか見て、良い気分になれるのか?
人間って言うのはなあ、金払ってまでして、こういう所から脱出したがってんだぞ。貴重な休日に、家族連れて・・・」
「私・・・、人間じゃないから・・・」
横島の言葉を途中で遮る。彼の言いたいことは最後まで聞かなくても、予想はついていた。
「妖怪にはこういう景色は珍しいのかい?ああ、それとも、ずっと山奥に居たから都会に興味がある、とか?」
その言葉は半分は正解だった。
私はもう半分を口に出してみる・・・。
「人間のバカさ加減に、呆れていたのよ・・・」
それを聞いた横島は、「ふうん、そうか」と軽く笑い、私の隣に並んで立つ。
彼のその反応は、私の予想外であった。
私の考えに共感でもするかのような、その態度・・・。
「ねえ、・・・人間さん?」そんな彼に声をかける。
「はい、なんでしょう、妖怪さん?」おどけた調子で彼が答える。
「この人間たちは・・・」
私は眼下の街を見下ろして言う。
「一体・・・、何をしているの・・・?」
「何・・・って?」
横島は苦笑まじりに聞き返す。
「この人間たち・・・、みんな・・・、あと数十年もすれば消えちゃうのよ。私から見れば、ほんの一瞬しか生きれない・・・。
それなのに、どうしてこんなに疲れた顔をしているの?どうしてこんなに苦しそうな顔をしているの?」
このビルの下で、救急車がけたたましいサイレンの音を鳴り響かせ始めた。
その音もほんの数秒で、どこか遠くへと消えていく・・・。
「う〜ん・・・、俺、バカだからさ・・・、そういう難しいことはよく分かんないけど・・・」
横島は後頭部の辺りをポリポリと掻きながら、答える。
「みんな身の程をわきまえて、必死に生きてるんじゃないかな・・・」
「身の程・・・?」
「まあ、ここに居る人たちがみんな人間ってわけではないんだよ。金持ってる人間は、もっと贅沢にふんずりかえって暮らしている。
違う国に行けば、またその文化に従った暮らしをしている人間もいる」
そこで言葉を区切ると、少し首をかしげるような仕種をする。
「共通して言えることは、人間はみんな、その一瞬を精一杯生きてるんじゃないかってとこかな。タマモが言う通り、人間には時間がないからねえ」
「私の身の程って、何なんだろう・・・?私の精一杯できることって・・・」
横島の言葉に、無意識に口から出た。
「あともう少ししたら・・・、みんな消えちゃう・・・。私だけ、置いてけぼりにされちゃう・・・」
「いや、それは違うな」
横島がきっぱりとした口調で言った。
「俺たち、なにか残していくよ・・・。残していきたいね・・・」
「・・・・・」
「こどもや孫、その後の世代・・・。そして、俺たちがたしかにこうやって精一杯生きてきた、という何かを残していきたいんだよ。
だから、みんなこうやって必死にがんばっているんだ。タマモから見れば、すごくつまらないように見えるかもしれないけどね」
「・・・・・」
「タマモにはそういった俺たちの残したものを、伝えていってもらいたいなあ」
そう言って、私に微笑みかける・・・。
「だからさ、置いてけぼりになんかはしないよ。たしかに、俺たちはタマモより先に消えちゃうだろうけど、その代わりに俺たちそっくりの子孫が残ってるよ」
「ルシオラ・・・、っていうひとのこと?」
ふっと少し苦しそうな笑顔を浮かべると、横島は前方の空をみつめる。
夕陽の光の矢が、その笑顔を包み込んでいるように見えた。
「俺たちだって、消えるのは嫌なんだ・・・」
彼の言葉は、私以外の他の誰かにも向けられているように聞こえる。
「だから、覚えていてもらいたい・・・、俺たちの名前や思い出を・・・」
それが誰なのかは、すぐに分かったが、口にはしなかった。
「おっと、そうだ!もう少しで夕食になるって、おまえのことを呼び戻しに来たんだっけな」
横島がポンと私の背中を叩いた。
「いい・・・、私・・・、もう少し、ここに居る・・・」
「おキヌちゃんが油揚げ料理の新メニューを考えた、って言ってたぞ〜」
「えっ?じゃあ、すぐ行く」
条件反射で即答してしまった・・・。
そんな私を見て、横島はにこにこ笑っている・・・。
私は赤くなった顔を見られないように、うつむく。
うつむいた目線の先には、相変わらずのつまらなそうな表情の街があった・・・。
そして、やはり相変わらず、何かに追われてるかのように、動き回っている。
流れて行く時の中で、人も街も変わっていく。
ほんの少しの時間で・・・、一瞬とも呼べるような時間の中で、変わり、消えてしまう。
だから、この今を、一瞬を無駄使いにすることができない。
人間たちも・・・、そして、私も・・・。
「さて、行くとするか〜」
横島が右手に文殊を乗せると、念を込め始めた。
私は瞬間移動に備え、彼のすそを強く握る。
笑って、食べて、叫んで・・・。
みんな、どこからやって来たの・・・?
泣いて、飲んで、ささやいて・・・。
みんな、どこへ帰っていくの・・・?
すべての答えは、きっと横島みたいな人間たち、そして、彼らの暮らす街が教えてくれるはず・・・。
横島の放つ、文殊の優しい光に身を包まれる・・・。
その光の中で・・・、誰かが私にささやきかけた。
『永遠のあなたへ・・・』
もう一度・・・、振り返る・・・。
その声の主を・・・。
次の瞬間には、いつもの事務所に居た・・・。
美神さんが帰ってくるのが遅い、と横島を叱り飛ばす。
おキヌちゃんが、それをなだめる。
シロが夕食の用意をせかす。
あのささやきを、最後まで聞くことはできなかったけど・・・。
振り返ると、街が笑っていた・・・。
完
今までの
コメント:
- 九回目の投稿です。
馬酔木さんの「永遠のあなたへ」のレスポンス作品(?)です・・・。
「永遠のあなたへ」は私自身すごいハマってしまいまして・・・。
読んだ後の私の感想と言いますか、考え等をこういった投稿の形で表してみました。
この話自体はたいしたことありませんが、「永遠のあなたへ」は素晴らしい作品です。
探すのが大変ですが、皆様も是非・・・。 (マリクラ)
- こんにちは、りおんです。そうですね…今、私は何のために生きているのか、と問われた時、胸を張ってこうだと答えられるように生きていたいですね。それはたくさんの時間があってもだけれど、私には限られた時間しかない。だから余計に一生懸命に生きようと思うんですね。それで、一生懸命生きてどうするか、どんな意味があるのか、どうせ死んでしまうじゃないかと言われたら、そんなことはない、と。自分が生きていることには意味があり、そして他の人々にも大きな意味がある。自分が例え死んでもその後の時間を生きる人はいるのだし、それ以上に「今」生きていることに意味がある。そういう風に言えれるように生きていたいですね。精一杯、一生懸命に。では^^。良かったです、うん、本当に良かったです。 (りおん)
- 追加(笑)。タマモが最高でした。横島君も良かったです。うん、本当に。 (りおん)
- ええ、人間は神、魔族、妖怪に比べれば短命ですね・・・
「だから、人間の人生は花火のように、閃光のように輝くんだ!」
某大魔導士さんも言ってましたし(笑)
この後、さらにタマモと美神事務所・・・人間との絆が深まることを期待します♪ (ユタ)
- 大都会の描写でしたが、ド田舎者の私(笑)でもなんだか納得できちゃいました。
それから「何かを残したい」というのも、読んで“ああ、そうだなぁ”って共感を覚えました。そのわりに、「一瞬を精一杯生きる」ことを忘れがちな私ですが(汗)
とても重く、深い意味が備わっている作品だと思います。すごく良かったです。
馬酔木さんの「永遠のあなたへ」も、いろんなことを感じられる素晴らしい作品だと私も思います。
マリクラさんと同様に推薦したいです♪ (志狗)
- 「人間五十年、下天のうちにくらぶれば(以下略)」(信長、談)みたいな感じですね♪(←分かりにくい喩え) 確かに何百年、何千年と生きることの出来る妖怪のタマモからすれば、毎日ただ目的も無さそうに少ない寿命を無駄にして生きているように見える人間たちが不思議に思えてたでしょうね。その短い人生を一生懸命に生きることで人間はたとえ悲しいことや辛いことに遭っても「充実感・満足感」を得られるものです;ある意味現金な生き物と言えるかもしれません(笑)。そんな人間たちとの思い出を一層大切にしようと決意したタマモの様子、それをはっきりとした言葉ではなく「何となく」諭した横島クンの様子がそれぞれに良かったと思います。投稿お疲れ様でした♪ (kitchensink)
- 人間さんと妖怪さんの会話、印象深いです。こういう台詞まわしと、続く会話の自然さにただただ感動するばかりでした。内容ももちろんすばらしかったです。 (矢塚)
- どうも、お邪魔します♪
背景描写っていうか、そーいうのが非常に上手で…タマモの心情とかがよく分かりました。
特に横島の「おまえな、眺めるならもっとマシな景色にしろよ・・・。こんな汚いオフィス街なんか見て、良い気分になれるのか?」という台詞が…なんとなくですが、今の自分にも当てはまるような気がして…すごく良かったです。
もっと言いたいことがあるような気がするのですが、それを上手く言葉で表せないのが悲しいところです。(泣)
次回作品も期待させていただきます! (直哉)
- 人の命は、短く限りがあるからこそ、何よりも尊いのかも知れない…。
黒絹「私にも覚えがあります。幽霊だった三百年間、時は只たゆたうだけの淵のようでした。生き返って、限りのある生を取り戻した時、私の人生は漸く流れを得たんです」
俺達も生きている事を大事に考えて、精一杯やれる事をやらないとね。
黒絹「そうですね。後悔の無いように、遣り残す事の無いように………とゆーわけで、さっそく横島さんへの差し入れに、この痺れ薬を…」
―――ちょっと待てーい!?Σ(゚ロ゚)
黒絹「止めないで! 一服盛ってでも彼をモノにしたいとゆー、この切ない乙女心を!」
違う! ソレ絶対に乙女心と違うぞ!! (黒犬)
- この度も、たくさんのコメントありがとうございます!
私、短編ではちょくちょくコメントさせて頂いてるんですが、長編はあとでまとめて読む、という方針なもので、あまりしておりません・・・(汗)
もし、様々な条件が合致すれば、こういった形で感想を書かせていただこうかな、と思っております・・・。
りおんさんへ:詳しいお話はチャットでした通りです(^^;そのまま投稿してもいいようなコメントありがとうございました♪
ユタさんへ:某大魔道士さんは存じませんが、おおよそはそういうことですぅ。コメントありがとうございました♪
志狗さんへ:深い、重い、というのは、馬酔木さんの原作がそうでしたからねえ・・・。私も少しは意識したつもりだったのですが、やはり力量が違いすぎてしまったようです(^^; (マリクラ)
- キッチンシンクさんへ:そうですねえ、信長の言葉通りかもしれませんねえ。自分ではまったく気づいておりませんでした(^^;「現金な生き物」というお言葉には、私も思わず、苦笑いをするばかりでした・・・(^^;
矢塚さんへ:自然したか・・・、いつもそういうところに苦労するタイプなので、そういってもらえると、すごく嬉しいです♪コメントありがとうございました!
直哉さんへ:あのセリフでそこまで感じとって頂けるなんて、大変嬉しい限りです!次回作、なんとかがんばってみます!ありがとうございました♪
黒犬さんへ:これが、あの裏では名の通る「黒絹」ですか〜(汗)このおキヌちゃん(?)黒いですよ・・・、黒すぎですぅ(涙)・・・と言いつつも、すごい面白いです♪かなり笑えました♪次回も期待してます(^^ (マリクラ)
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