ザ・グレート・展開予測ショー

夕焼け。(ゆうやけその後)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(02/12/ 1)

「夕焼けには、想い出が多すぎるよなあ。」
西の空に沈む太陽に目を細め、横島は苦笑しながら、くしゃりと、自分の髪をかきまわした。
すとん、と、その場に座り、頬ずえをつき沈んでゆく太陽を、見る。
空を赤く染めて空に沈んでゆく太陽は、美しく、まるでこの世界との別れを惜しんでるかのようだ。
この場所で、約束をした。
いや、約束と言うものではないかもしれない。
ただ、自分はその時当たり前だと思うことを言っただけだ。
けれど、彼女にとっては、とても大切な、約束だったらしい。
何度も、何度も、繰り返していた。
まるで、その言葉が宝物であるかのように。
何度も、呆れるほど多くの夕焼けをみると─約束したのに。
結局、一緒にみた夕焼けは、百回に満たなかった。
そして、今このときに彼女は横にはいない。

唇が笑みの形に歪む。
それはどこか皮肉めいていて─。
頬ずえをついている、右手はかすかに震えている。
「約束、したのにな」
紡がれた言葉は、穏やかなものなのに、痛々しい。
あんなに、喜んでいたのに。
ずっと一緒にいれると。
傍で同じように歳をとって、穏やかとは言い切れないだろう、さわがしい時間をいっしょに過ごせると信じていたのだ。
自分も、そして彼女も。
けれど、それはもう、叶わない、こと。
傍にいるべき彼女がいない。

自分のために、その全てをくれたのだ。
身体も、心も、これからの、時間も。

約束も、全部自分にくれたのだ。

涙は、でない。
けれど、こころが、ひどく苦しい。
ただ、苦しいのだ。

何回も、夕焼けを見ようといったのに。
ずっと一緒にいようといったのに。
どんなに願っても、思ってももう叶わない。
彼女がいないのは、事実でありそしてそれを選んだのは自分なのだから。

きり、と心臓が痛む。
針で突き刺すような、鋭い痛み。
後悔は、しない。
けれど、あの時のことを思い出すと苦しくなる。

何度でも、同じ場面がきたとしても同じ決断をすることがわかっていてもだ。
仕方ない。
頑張った。
みんなはそう言った。
彼女も、最期は、笑っていた。
自分の娘になると、笑いながらいっていた。

寂しげに、だけど、嬉しそうに。

ならば、と思う。
ならば、自分も前をむかないと、と。
いつか生まれる彼女を幸せにできるだけの、自分でいなければと、思う。

たくさん、抱きしめよう。
アイツにできなかった分まで
たくさん、いろんな綺麗なものをみよう。
アイツと見れなかった分まで
たくさん話をしよう
アイツと話せなかった分まで


ちゃんと、今度生まれてきたら幸せにするから─

だからさ、ちょっとだけ、ここでだけオマエを思い出してもいいか?
ここでだけ後ろを向いて、いいか?

この夕焼けのなかだけ
オマエとの思い出が、約束がたくさんある中でだけ、泣いても、いいか?
呼んでもいいか?

「ルシオラ」
と。
おわり

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