ザ・グレート・展開予測ショー

一人になんてさせない −2−


投稿者名:veld
投稿日時:(02/11/30)

 何もかもが嘘なら、楽なのにと思わないこともない。幸せすぎた、報いを受けたのかと、そう思うこともある。納得できることではない、が、信じたくもないが、運命って奴は本当にあるのかもしれない。――いや、宿命か。それを甘んじて受ける、そんなつもりなんて、毛頭ないが。
 彼女が生まれたことを悲しむことになる結末なんて、俺の中で存在するはずはなかった。幸せな日々が待っている、盲目的にそう思っていた。考えればすぐに分かることだったのに――俺は考えることをしなかった。ただ、勝手に思い込んでいた。
 ――今度こそ、幸せにしてやれる、と。
 
 ある日、蛍子とおキヌが散歩に出かける時間、朝の十時、俺は普段なら美神さんの事務所にいるか、除霊のために外に出ているか――とにかく、本来なら家にいるべきでない時、俺はいた。養うべき家族がいる俺が、何の理由もなくここにいるわけではない。
 俺の家――おキヌと結婚したことで俺も一人前として認められ、今までと比べものにならない程の収入を得ることが出来るようになった。そして建てた一軒の家。その、リビングで、俺とICPOの長官である美神さんのお母さんは話をしていた。
 その内容は、妻にも、娘にも、誰にも聞かれたくないことだった。

 「蛍子は魔族・・・なんですか・・・」

 隊長は頷いた。苦々しげな顔、とても冗談を言っている顔ではない。冗談で言っていいような話でもない。そう、彼女の言っていることは間違いなく真実だった。考えればそれも当然な話ではある。蛍子は、俺の中に眠っているルシオラの霊基構造を受け継いでいる。彼女は、ルシオラの生まれ変わりと言っても過言ではない。そして、ルシオラは魔族だった。

 「正確には、限りなく魔族に近い人間――人魔と呼ばれるタイプね。ルシオラさんの魔族因子があなたの子供に受け継がれる・・・、それも極めて自然な形で。つまり、令子が言った通り、あなたの子供はルシオラさんの生まれ変わりである、ということ・・・」

 なにが言いたいのか、促す気などなかった。分かりきったこと、そう、蛍子を授かるまでは気付きもしなかった、いや、気付こうとすらしなかったこと。

 「なにが問題かってことは話すまでもないわね・・・。父から遺伝的受け継いだ魔族の霊力を持つ文殊使い・・・。ICPOの上層部では・・・」

 上層部では・・・、言い訳のように聞こえるその言葉に苛立ちが募る。言いたいことは分かってる。

 「危険視されてる、ってことですか」

 隊長は「ごめん」と小さな声で言った。何が「ごめん」なのか?自然、声が硬くなる。軽い気持ちで話せることではない、感情的になりそうな口調を抑揚のない、無表情なものへと、意識して変える。

 「ICPOは一体どうするつもりなんです?まだ、蛍子は幼く、その体にそんな力があることなんて知らない・・・。それに、文殊ってのが遺伝によって使えるかそうでないかなんてまだわからないでしょう・・・?魔族かそうでないかで娘をどうこうしようなんて、身勝手な言い草ですね・・・。もしも、ICPOがあの子の敵になると言うのなら、つまり俺の敵になると言うことです。その時は・・・俺は全力を持ってICPOを潰します」

 無論、そんなことは出来るわけがない。いくら文殊なんて力を持っているとしても、一個人が組織に勝てるはずはない。それに、ICPOはあまりに巨大すぎる敵だった。それでも冗談なんかじゃない、俺は本気で言った。蛍子の存在を消そうというのなら、俺はどんなことをしてでもそれを阻止する。たとえ、人を殺めることになったとしても・・・。
 隊長は何も言わなくなった。何も言えないのだとすればそれが答えということだろう。俺は唇を噛み締めた。痛い。これは夢ではないのだと、分かる。思考を明確にすれば、敵ははっきりと見える。ICPO・・・。

 「あなたは・・・俺の敵ですか」

 彼女は首を横に振った。そして、俺を見る。真剣な顔で。

 「あくまで、これは忠告。私があなたの敵になることはないわ。・・・ほとんどの職員は、そんなこと考えていない。でも、上は、少しでも自分達の力を超えるものに恐れを抱いてる。出る杭は打て、そう、考えてる」

 「結論からすれば同じでしょ?上が動けば下も動く。あなたは、命令に逆らうことが出来ますか?西条は?他の連中は?」

 彼女はじっと俺の目を見つめていた。そこに見えるのは、強い、意志。

 「私はその命令が発令する前に止めてみせる。・・・私にできる限りの事をして。それでも駄目だった時には、あなたの・・・蛍子ちゃんの味方になります。今度こそは、救ってあげたい・・・。そう、思ってるから」

 彼女のことを信じたい、そう思う反面、彼女の目的遂行のために見せる残酷さを知っている俺は、その全てを鵜呑みにすることは出来なかった。薄情だとか言われるかもしれないけど、俺の信じることの出来る彼女は、あくまで美神さんの母親としてで(これも、正直言って危ういと思っている。俺は世界の平和の為に命を捧げろなんて、死んでも言えない)、ICPOの職員としての彼女は、信じるに値しない人間だと思っている。俺は、ICPOを信じる気にはなれなかった。



 「じゃあ、また」

 リビングのドアを開け、彼女を送る。玄関で一礼する彼女は結局はICPOの歯車の一つでしかない。去り行く彼女の姿を見つめながら、俺が決めたことは、ただ一つ。



 ICPOと敵対する覚悟を決めること。

 そして、何よりも、すべきこと。








 それは、蛍子を人間にしてやる・・・ことだった。

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