ザ・グレート・展開予測ショー

一人になんてさせない −1−


投稿者名:veld
投稿日時:(02/11/28)

 

 そこにありつづけることが出来たなら幸せ、出来なかったら不幸せ。単純なことでしかない。選択肢はなかった。ただ、手に持った薬を飲むだけ。この薬を作るためだけに、半年間ハードなスケジュールをこなし、カオスに資金提供をしてきた。はっきり言って、カオスに頼んだのは、こうして完成品を前にした後でさえ不安である。が、ここでこれを飲まなければ、今までの事が無駄になる。それより何より、時間がない。

 「坊主!ICPOの連中が研究所を包囲しとるぞ!早く飲まんか!」

 そう、時間がないのだ。がっ―――

 「おい!カオスのじいさん!これ、本当に効くんだろうな!?」

 びくぅ・・・、カオスは電流でも走ったかのように体を震わせると、傍目からでも分かるほどの大量の汗を流し始めた。つまり、自信はない、ということだろう。言葉で言われるよりもずっとわかりやすい反応だが、もちろん、その反応で俺の決心が決まるはずもない。が、自体は窮を要する。俺は愛娘の顔を思い浮かべた。――蛍子、お父さんは頑張るよ!そうすると、途端に決心はついた。初めからこうすりゃ良かったんだが。一気にフラスコの中の液体を流し込む。良薬口に苦しというが、その薬品に味はなかった。無味無臭、呑む方としたらありがたいが、色は毒々しい色だった。なにを混ぜたらこんな色になるんだ?

 「じいさん、飲んだぞ!」

 飲むには飲んだが、体に変化はない。どういうことか、とカオスを見るが、カオスは満面の笑みを浮かべると、研究室の外に出て、ICPOの様子を探っていたマリアを研究室の中に呼んだ。そして、俺につかまる。

 「今までは不可能だった複数人での文殊による転移・・・出来るようになったのなら、お前の力が格段にパワーアップしたということ。・・・外見上の変化はないようじゃが・・・まあ、これは好都合じゃろ」

 「失敗したら・・・どうするんだ?」

 俺の問いにカオスは笑みをさらに深くする。

 「わしは西洋の魔王、Dr.カオスじゃぞ・・・!失敗などありえん!」

 さっきのリアクションからすると、失敗の確率のほうが高い気がするけどな・・・。そろそろ、静養の魔王になったほうがいいと思うぞ、カオス。

 「大丈夫です・・・Mr横島・・・。失敗したとしても、ごまかせばいいんです」

 (ごまかせるのか・・・(汗))

 マリアは笑みを浮かべ(たように、俺には見えた)、俺の袖をしっかりと掴む。そして、俺の顔を見、頷く。俺は苦笑しつつ頷き返すと、彼女の腰に手を当て、軽く抱く。

 「分かった。連れてけなかったらごめんな、マリア・・・と、ついでにカオス」

 顔を赤く染め(たように、俺には見えた)、顔を伏せたマリアと、さっきのマリアの言葉に言葉を失うカオス(建設的な意見だと思うぞ、可能かどうかはともかく)。その二人の顔を交互に見たあと、俺は右手に持った二つの文殊に念をこめる。

 「転」「移」

 文殊から放たれる光の輝きが、俺たちを包み込む――俺の体に触れる空間が動いてゆく。俺という存在が、この場から消失する瞬間を残念ながら見ることは出来ないが、きっと、魔法でも使ったかのように見えるだろう。それとも、縦線でもかかって見えるのかな。そんな事を考える間なんてもちろんない。移動なんて、一瞬なのだから。


 目的地は俺の部屋。精神集中の結果・・・、(なのかはよく分からない。はじめてこの文殊を使ってから、俺はできる限り行き先のイメージをするようにしているんだが、本当にこれが必要なのかどうか分からないからだ。)どうやら、俺の部屋にたどり着くことはできたようだった。


 「どうやら、うまくいったみたいじゃな・・・」

 カオスのじいさんの声がすぐ傍から聞こえてくる。そして、マリアの柔らかな感覚も。アンドロイドの割に柔らかな体、少しドキドキしているのを否定できない。だって、妻子もちだからって男をやめたわけじゃないしな。(変な誤解はするなよ、俺は妻と娘を誰よりも愛してる。どこぞの馬鹿親父のように見境なく女をくどくような真似は絶対にしない!・・・多分)

 「ああ、そうみたいだな」

 俺はそっと、マリアの体を離す。名残惜しいが仕方ない。少し・・・いやかなり残念ではあるが。マリアの顔を覗くと、いつもと変わらない彼女の姿があった。何故か少し残念な気分になった。
 漆黒の闇と薄闇の狭間で、カーテンが揺れている。開けっ放しになっているドア、泥棒にでも入られたかのように滅茶苦茶になっている俺の部屋。まあ、やってるのがICPOなだけで、やってることは変わらないんだろうが。きっと、他の部屋もこんな感じだろう。おキヌと蛍子には美神さんの事務所に行ってもらったからこの惨状は知らないだろう。まあ、帰ってきたらびっくりするだろうが・・・、分かってくれるだろう。
 俺は部屋の中に無造作に置いてある手鏡を拾うと、自分の姿を見た。が、どこにも変わった様子はない。この部屋からあの研究室に行く前の、元の俺の顔。そんな俺を見、カオスは、どこか遠慮しつつも聞いてきた。

 「どうじゃ・・・人間でなくなった感想は?」

 俺は苦笑いを返した。カオスは複雑な顔で俺を見つめた。

 「後悔は・・・しねえよ」 

 本心から・・・そう思った。

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