ザ・グレート・展開予測ショー

星たちの密会(8)


投稿者名:矢塚
投稿日時:(02/11/25)


 『甲』の活動停止を確認した涼は、爆発の余波で吹き飛んだマリアのもとに駆けつけ

た。オーバーヒートの後遺症で、体がうまく動かない。あせる気持ちに機体がついてこな

いのが、もどかしい。

 マリアは『甲』から数十メーター離れた場所に、仰向けに倒れていた。両足の付け根か

ら先と、左腕の肘から先を失いつつも機能停止に陥らずにいたのはさすがだ。

「マリアッ!意識はあるかっ!?マリアッ!!」

 マリアをその小さな体で抱きかかえ、涼が叫ぶ。その叫びにマリアの瞳が動き、涼の顔

を捉える。

「・・・イ・・エス・涼・・・ミッション・・・コン・・・プリート・・・」

 涼はその台詞に、安堵の気持ちと共に湧き上がってきた怒りを込めて、怒鳴る。

「ばかやろうっ!無茶すんじゃねぇ!!・・・自分を大切に出来ない奴が友達を大切に

出来んのかよっ!?こんな・・・こんなロボットみたいな戦い方、俺は認めねーぞ

っ!!」

 涼の矛盾した叫びに、マリアが優しく微笑む。

「ソーリー・・・涼・・・」

 その微笑の意味するところを、涼が気づいた。

「マリア?お前、もとの・・・いや、公園であったときのマリアか?」

「・・・イエス・涼・・・戦闘用OSは・『甲』による攻撃の・・・衝撃で・予想外のエ

ラーが発生・強制終了しています・・・今の・マリアは・・・いつもの・マリアです。」

 あの捨身の攻撃時にはすでに、公園で会った時のマリアだった?

 だからこそ、あんな無茶をしてのけたのだろうか?涼の心をさまざまな思いが

満たし、溢れさせる。

 ふいにその目から涙が一筋流れた。

「涼・泣いているのですか・・・何が・悲しい?・・・」

「涙なんか・・・くそっ!・・・余計な機能つけやがって!・・・それに悲しいんじゃな

い・・・これは、きっと・・・嬉し涙だ・・・」

「涼は・・・マリアが壊れて・・・うれしい?」

 切なそうに問うマリアに、涼が力いっぱい否定する。

「ちがう!マリアが死んでなくて、うれしいんだ!」

 その答えに、今出来る精一杯の笑顔で答えるマリア。

「・・・サンキュー・涼・・・マリアの為に・泣いてくれる・・・うれしい・・・

マリアが・涼の為・・・戦ったことに・・・後悔・ありません・・・」

「マリア・・・」

 言葉の続かない涼。その彼に、セイリュートから通信が入る。

「良くやってくれた、リョウどの。あの化け物相手にこの程度

の被害で済んだのは二人のおかげだ。ところで、Drカオス氏が

まもなくそちらに到着する。」

 その言葉に呼応するように、涼のすぐ目の前に美神から拝借してきたカオスフライヤー

にまたがった、体格のいい老人が空から降りてきた。その顔は、必死の形相を

貼り付けてこちらを凝視している。

「マリアッ!!無事か?・・・お前は本当に、時たま無茶をする!!」

 フライヤーから転げるように降りたカオスは、涼など目に入らぬ勢いでマリアを

奪い、抱える。

「ソーリー・・・Drカオス・・・マリア・また・大破して・・・しまいました・・・

・・・家賃・・・また・滞納して・・・しまいます・・・」

「いい、いい!家賃など今はいい!すぐにわしが、もと通りにしてやる。安心せい!」

 カオスは、すぐさまマリアのチェックに没頭する。涼は、その姿に心を痛め

カオスの前に回り込む。

「カオスさん。マリアがこうなっちまったのは、俺のせいだ、すまねえ!」

 言うと、土下座をして謝る涼。その彼に、カオスがうろんな目を向ける。

「ふん。小僧、お前が涼か?マリアと、セイリュートとかいう奴からの通信で成り行きは

聞いとるわい。これは、マリアが自ら望んだ行動の結果じゃ、お前が謝る筋合いは無い。

しかし、いくらマリアが望んだとはいえ、わしがもう200歳若ければ有無を言わさず

スクラップにしとったぞ。」

 カオスでもこのような顔をするのかという凄惨な顔と台詞に、涼がたじろぐ。

「すまねえ、マリアがここまでやるとは、予想外だった・・・」

 その言葉に、カオスが涼の方を見ずに呟く。

「お前等に、マリアの心はわかるまい・・・こいつは、自分がアンドロイドだということ

を厭というほどわかっとる。人間の、友情や信頼といったものを数値でしか表せないし

理解するのも困難だ。だから自分の友の為に、自分を簡単に犠牲に出来る。

・・・その方法でしか、相手に自分の価値を証明できないんじゃ・・・」

 最後の方は自らをも責めるようなカオスの台詞に、涼は言葉が出ない。

「・・・まあいいわ。お前は、ある意味マリアに一番近い友人のようだ。

・・・このような無茶さえなければ、また遊んでやってくれ。」

 マリアの状態が外見以上に良好なので、カオスの怒りも少々和らいだようだ。

 そんなカオスに、マリアが言う。静かに、そして、躊躇いがちに。

「・・・Drカオス・マリア・・・次に直ったときには・涙腺の・機能が・・・欲し

い・・・・・・いえ・・・出来れば・・・次に・目が覚めたら・・・人間・・・」

 そこまで聞くと、カオスがマリアの機能を停止させる。

「おいっ?カオスさん!?」

「安心せい、小僧。自己保存モードに切り替えただけだ。・・・それに、これ以上は

わしは聞きたくない・・・」

 涼の沈黙に、独白するようにカオスが言う。

「わしが一番わかっとるよ、マリアの真の望みはな。しかしこればかりは、いかにわしで

も叶えられん。・・・出来たらとっくにやっとるわい・・・」

 心からの悲哀。セイリュートでも、無理だろう。生体データの残っている涼ですら、

サイボーグが精一杯なのだから。

「仕方ないといえばそれまでだが、運命を受け入れ、今そのときを生きるしかない。

マリアのようにな。」

 まるで、涼の苦悩を見透かしたかのようなカオスの台詞。

 その言葉と目の前のマリアは、涼に少しだけ今の自分を受け入れさせた。

 夜はさらに更け、三人を闇に包んでいく。夜空には、煌めくような星たちが輝いてい

た。

 その一つがこぼれる。

 それを見た涼は思う、マリアの願いはいつか叶うのだろうかと。

 また、その流れ星はマリアの涙のようだとも思った。


                  おわり

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