ザ・グレート・展開予測ショー

兄と妹・・・?


投稿者名:veld
投稿日時:(02/11/25)

たったったっ・・・、自分に近づいてくる足音で、その主を当てることができるようになったら便利だな、と、横島は上の空で考えていた。恐らくは彼女だろうと、確率の高そうな推測をしながら。

 その足音は、自分が寝そべっているソファーのある客間に通じる通路の向こうで止まる。この家には今、自分しかいない―――というよりも、彼しか住んでいないのだから当然の事であるのだが。つまり、彼に用がある人物ということなのだろう。
 ぜえはあと、息を整えている。あくまで静かに・・・ひょっとすれば、眠っている自分を驚かせようとでも言うのかもしれない。もしもそうだとすれば、そんな事をするのは彼女しかいない。自然、笑みがこぼれた。ここ最近、無理やりにでも作れなかった笑みが、自然と。そんな自分に戸惑いながらも、彼はその戸惑いすら喜びに変えていた。
 そして、否応なしに期待は高まる。
 ドアを、叩く音が二回。大きな音ではない。軽く小突いたような音。あくまでこれは確認、それと保険なのだ。起きていれば、返事が返ってくるだろう、その時には悪戯は失敗。起きていなければ、今からすることはほとんど成功したも同然。ノックをしたのだから、驚かせたとしても、起こしてあげた、ということにすればいいのだ。いわば、ノックは免罪符。横島はほくそえんだ。恐らく、彼女は期待しているだろう、自分が眠っていることを。そして今、自分がこのノックに答えてしまっては何も面白くはない。あくまで、彼女に期待は抱かせなくてはならない。
 返事はしなかった。十秒、静寂が空間を包み込む。恐らく、ドアの向こうで彼女は自分がさっきまでしていたようにほくそえんでいるに違いない。
 横島はそんな彼女の顔を考えると、心が騒いだ。不意に湧き上がる罪悪感。しかし、もう、後には引けない。彼は、覚悟を決めた。が、思う。嫌われはしないだろうか、と。

 「もう、お兄ちゃんなんて嫌い!」
 そう叫ぶ彼女の泣き顔を想像する。―――ぞっとした。呼びかける間もなく、この部屋から出て行ってしまうだろう少女の姿を思い浮かべると、痛いくらいの悲しみが胸を打つ。絶望感にいてもたってもいれなくなる。そして、恐らくその状況になった時、起こるであろう出来事が、鮮明に思い浮かぶ・・・。

 しまった・・・どうしよう!・・・そう思うのと、その衝撃はほとんど同時だった。

 「わっ!!」

 「うをっ!!」

 ソファーの上から跳ね起きると、目の前に喜色満面のひのめの姿があった。呆然とした横島の顔を見るとさらにその顔を綻ばせる

 「おはよう!お兄ちゃん!」

 横島は力の入らない口元を、必死で憮然とした形にしようとしていたが、どうにもならなかった。ははははは・・・と、乾いた笑いしか出せない口がうらめしかった。その反面、ほっとしていたりもする。が、それも彼女の次の台詞を聞くと変わる。

 「これで、二十勝二敗。あと五勝で私と結婚だよ!お兄ちゃん!」

 彼は顎が外れたように――いや、実際外れているのだが――あう、あう、としか言えなかった。ひのめちゃんはポケットからメモ帳とペンを取り出すと、そこにマルを一つ記入する。バッテンが二つ、マルが二十個。うっとりした顔でメモ帳のマルを見つめる。

 「一週間前のあの日から・・・勝負を繰り返してきた結果がようやく実ったわ!」

 相手を驚かせれば一勝。二十五勝すればなんでも相手の言うことを聞く。一週間前、彼が仕事がなかったので家の中でゴロゴロしていた時、ひのめがやってきて、何か面白い遊びをしようといってみた、暇つぶし―――本当にその程度の気持ちで言った言葉。あの時の情景を思い出す。何でもいいの?と、何度も聞いてきたあの顔、あの時、妙に張り切ってたけど・・・。まさか・・・、おいおい・・・(泣)。

 「あれ、もしかして、さっき私の言ったことでまた驚いてる?それじゃあ二十一勝だね!」

 ひのめちゃんはそりゃあもう嬉しそうにマルをもう一つ増やした。

 「いや、待て・・・違うって、本当に、驚いてないから、ね。っていうか、結婚ってのは・・・それは駄目でしょ・・・ひのめちゃん、ね?」

 その時、また俺の中で嫌な予感がした。そして、俺のいやな予感というのは良く当たるのである。
 ひのめちゃんが俯いた。そして、ぐすぐすっ、と泣く一歩手前の音が聞こえ出す。

 「ひ・・・ひのめちゃ〜ん・・・」

 ひっく、ひっく、・・・うぅ・・・
 やばい・・・やばいぞぉお・・・!!

 「ひのめちゃん・・・お願いだから泣かないで・・・」

 ひのめちゃんは潤んだ瞳で横島を見る。その愛らしさに、少しだけ心動かされる自分を否定できなかった。

 「お兄ちゃん・・・ひのめと結婚してくれる?」

 いや・・、それは・・・人として・・・(理性というか人間として譲ってはいけないもの)

 「それとこれとは話が別・・・」

 そう言うと同時、ひのめちゃんのすでに半壊していた涙をせき止めていたダムが完全に倒壊した。

 「うわーーーーーん」

 「ひ・・・ひのめちゃん!?」

 背筋に、今まで感じたことのない程の寒気がはしった。嫌な予感が、現実となる。

 「よ〜こ〜し〜ま〜・・・」

 彼は後ろを振り向くことは出来なかった。姿を見ずとも、さっきの声で誰かくらいは分かる。そして、彼女は素手でも十分強いのに、恐らくは妹を泣かすものに対して専用の凶器を持ち合わせている。それは、一見すると、ひのめちゃんの好きなおもちゃのように見えるが恐ろしく強力な武器なのだ。

「ひのめ(ニコニコ)♪ちょっとお兄ちゃん連れてくわね・・・」

「助けてーーー!!」

 引きずられていく横島―――彼を見つめるひのめの目はどこまでも純粋。思い慕う気持ちに歳の差は関係ないのか。燃え上がる思いをバックに、横島の命の炎は今まさに潰えようとしていた。

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