ザ・グレート・展開予測ショー

東京ジャングル11


投稿者名:居辺
投稿日時:(02/11/24)

25.強襲(承前)
 仮面の男達はあまり強くなかった。いや、弱かった。
 ただ、数が多い。自衛隊を連れてくるべきだったかと、一瞬頭をよぎる。
 その間にも、神通棍で槍をさばき、次の瞬間に仮面に叩き付けた。
 仮面が砕け散り、男が顔を押さえて倒れて行く。
「雪之丞!! しっかりしなさい!!」
 美神は、身動き取れなくなった雪之丞に声を掛けると、次々と仮面の男を叩き伏せた。

「分かってる! ちょっとピートに気を取られただけだ!!」
 雪之丞が全身から霊気を発して、まとわりつく男達を弾き飛ばす。
「ピートが? やられたの!?」
 言いながらも美神の神通棍は、滑らかに仮面の男を打ち据えて行く。
「分からん。霧になったまま攻撃しようとして、トラブったらしい」
 肩が凝ったかの様に、グルグルと肩を回す雪之丞。
「ピートを連れて冥子の所に行って。そこにおキヌちゃんがいるから」
 美神の神通棍が唸りをあげた。

 イノシシが咆哮をあげた。
 背筋の寒くなるような音で牙を噛み鳴らし、口から泡を噴きこぼしている。
 切られ続けた全身は、分厚い毛皮が赤黒い色に変わっている。
 巨体を這い回る電光に痙攣し、足下がおぼつかなくなってきた。
 弱ってきたのは式神達も同様で、特に正面から受け止めている、バサラとビカラの消耗が激しい。
「もうちょっとよ〜〜〜〜!! がんばって〜〜〜〜!!」
 冥子の目には、イノシシと式神達しか入っていなかった。

 タイガーの漬物石のような拳が、仮面の男の顔面を捕らえた。
 プロレスラー並の体格の、タイガーに対抗できる相手は、男達の中には居ない。
 そのタイガーが幻影の中に身を隠している限り、仮面の男達に勝ち目は無いに等しい。
 それでも闇雲な攻撃が少しずつ、タイガーの身体を傷つけ、タイガーは焦りを覚えていた。
 回し蹴りで男をなぎ倒し、素早く立ち位置を変える。
 空中に差し出される槍の穂先。
 束になった穂先をわしづかみにすると、グイッと引っ張る。
 体勢を崩した男達が、前かがみになるところを、渾身のフック。
 仮面の男達が、かたまりになったまま、すっ飛んで行った。

「どうだ? 何とかなりそうか?」
 雪之丞がささやく。
 倒れたピートの身体に、おキヌは手をかざしていた。
「分かりません。ピートさんの身体は特殊なので、ヒーリングが効くかどうかも……」
「やってみてくれ。今はそれしか方法がねえからな」
 そう言い残して、雪之丞は前線に戻って行った。
 かざした手が冷たい。
 それがピートを倒した何かのせいなのか、ピート自身のせいなのか分からない。
 おキヌは両手に意識を集中させていった。

「あいつら、いったい何人居るワケ?」
 エミは樹上から戦場を見下ろしていた。
 逃げたつもりはない。戦闘の得意な連中に任せただけだ。
 元々遠隔攻撃が得意な彼女は、楯役のタイガーが冥子のフォローに回った時、こうしようと即座に決めた。
 ピートが倒れた時でさえエミは、駆けつけようとする衝動を押さえつけた。
 美神がフォローに走ったのが見えたし、タイガーが幻覚を使ったのが、分かったからだ。
「ほっといたら、だれかれ見境なく襲いかかるんじゃ、しょうがないワケ」
 ブーメランを背中に回すと笛を握り、エミは戦況を見つめた。

「いい加減、面倒臭いわね!」
 タマモは、いつ終わるともしれない戦闘に、嫌気がさしていた。
 敵は弱い。弱いが多すぎる。
 このままじゃ、いつか疲れ果て、倒れることになる。
 迫る槍を楽々とかわしたタマモは、そのまま木の幹を蹴って、空中に踊り上がった。
 目下の一団が見上げるのを、不敵な笑いで見下ろすと、狐火を最大出力で吹きつける。
 太陽の欠片が落ちてきたかのような、強烈な光が暗い森を満たし、消えて行った。

 タマモの狐火が森の中を一瞬照らし、男達の不気味な姿をあらわにした。
 増感式のナイトゴーグルは強い光を受けると、回路を守るため、瞬間的に回路を遮断してしまう。
 つまり、フラッシュを直接見ると、ゴーグルは視力を失う。
 短時間で復帰するようになっているが、そのわずかな時間が命取りだ。

「タマモ!! 後でお仕置きだからね!!」
 美神はゴーグルを投げ捨て叫んだ。
 強い光は、仮面の男達には、何の効果もなかったようだ。
 まだ暗やみに慣れていない目で、目の前の槍を紙一重でかわす。
 考えるより早く、美神は神通棍を鞭と化してふるった。
 鞭は淡い光跡を残して、仮面の男を弾き飛ばす。

 ピートは回復の兆しを見せなかった。
 浅い呼吸を繰り返し、目覚めそうにない。
 おキヌがどんなに霊気を送っても、まるで砂漠に落ちた雨の滴のように、しみ込んで行くばかりで満たされて行かない。
 駄目なのだろうか? 自分は役に立てないのだろうか?
 絶望的な気分が、胸の中に積もっていく。

26.離散
 突然『茶色いお砂糖』が鳴り響く。カオスからの連絡だ。
 居所を気付かれなかったか、心配になりながら、エミは携帯電話の通話ボタンを押した。
『こちらカオスじゃ、どうなっとるんじゃ? 誰にかけても出てくれん』
「あいにく、世間話してる暇無いワケ」
「空間転位の後、そこから出てきたヤツラに襲撃されて、ただいま戦闘中なワケ」
 エミはタイガーのいる辺りに目をやった。
 そこにタイガーは見えないが、長年の付合いだ。そこに気配を感じる。
『で、お前さんは何をやっとるんじゃ?』
「あたしは今回フォローに回ったワケ」
『なるほどのぉ。ところで、今すぐそこから離れた方がいいぞ』

『さっき、時空振を感知した。これまでで最大の規模じゃ』
「新手ってワケ?」
 エミの目に鋭い光が宿った。
『いや。おそらく違うじゃろ』
『お前さん達全員が、空間転位の範囲内に入っておるでな』
 その言葉を聞くなり、エミは木から飛び降り、走り出した。
 携帯電話からカオスの声が、まだ聞こえている。
『おおかた、お前達を転位させてしまうつもりなんじゃろ』
『なに、大丈夫じゃ。今までの観察から、空間転位にかかる時間は、転位する空間の体積と内部の静止エネルギーを含めた、全エネルギーの差に……』

「エミ? あんた、人に戦わせておいて、サボってたのね!?」
 息を切らせた美神がエミに噛み付く。
「そんなことより、ここは危ないワケ。もうすぐ空間転位するってカオスが……」
「そんなことで誤魔化されないわよ! だいたいあんたは……。まじで?」
「今すぐ囲みを破って、脱出しないと全滅なワケ」
「しょうがないわね。冥子に頼むしかないか」

 ポン、と首筋に軽い衝撃を受け、冥子は振り返った。
 そこには誰もいない。ただ何かが首筋でもぞもぞしている。
 首筋に付いた何かを手に取った冥子は、それが何であるかを思い出そうとした。
 人差指ぐらいの形と大きさで、色は茶色と灰色のしましま。
 全体が長い毛で追われていて、ウネウネと蠢いて(うごめいて)いる。
 …………毛虫?
 冥子の絶叫を合図に、式神達が全方位攻撃を開始した。
 戦場は地獄絵図と化した。

 エミがカオスに確認している。
 どうやら、空間転位の範囲から出られたようだ。
 皆一様にぼろぼろの姿だった。ただ一人冥子を除いて。
 仮面の連中は、ちりじりになって逃げたようだ。
「こんなことなら、最初から六道の旦那にまかせるんだったぜ」
 そう言う雪之丞が一番ぼろぼろだ。
 彼が装甲にモノを言わせて、式神達からみんなを守ったのだ。

「それじゃあたし達は戻るわ」
 そう言ったのは、美神とおキヌとタマモだ。
「オタク、なんのつもりなワケ」
 エミが眼差しを鋭くする。
「最初から空間転位するつもりだったのよ」
「横島は空間転位に巻き込まれたし、シロもおそらく自力で空間転位を見つけてるわ」
「そのためにカオスに、時空振探知装置を作ってもらったんだもの」
 美神は、自嘲の笑みを浮かべた。
「おキヌちゃんは、あいつが居ないと灯が消えたようだ、なんて言い出すし」
「タマモは喧嘩友達がいないと、調子悪そうだしね」
「あたしも、あいつをどつきたくてどつきたくて、堪んないのよ」
 微かに頬を赤らめる美神を、タマモが、珍しい物の様に見ている。
「うちの事務所の不始末でもあるし、今回は横島を優先させてもらうわ」
 三人が背中を向けて、歩き去って行く。
「元々3人だけで行くつもりの計画だから、あんた達はその辺でお茶を濁したら、適当に帰ってちょうだい」
 美神がバイバイと手を振った。

 エミが唇を噛んだ。
「冥子、ピートを頼むワケ」
「タイガー、行くよ」
 エミは駆け出した。その後をタイガーが追って行く。
「待て、オレも……!!」
 雪之丞が駆け出そうとした時、冥子のウルウルした視線と、目が合ってしまった。
「行っちゃうの〜〜〜〜?」
「いや、だってオレも行きたいし……」
 しどろもどろの雪之丞。
「式神達〜〜〜〜、もうしばらく出せないのよ〜〜〜〜」
「疲れちゃったから〜〜〜〜」
「私とピートを〜〜〜〜、ここに置き去りにしないで〜〜〜〜」

「捕まったらとか考えないワケ!?」
 並びかけたエミが美神に話しかけた。
「そこなんだけど、今回の事件って、目的が分からないって思わない?」
「普通だったら『世界を征服する』とか『人類を皆殺しにする』とか言う、バカの自己主張がある訳でしょ」
「それが、森が広がる兆候すら無いし、頑なに閉ざして内部を守ろうとするだけ」
「こういう反応って、見知らぬ環境に放り出された、野生の動物に近いって思わない?」
「さっきの連中のことも合わせて考えると、敵の知能はあまり高くないと推定できるわ」
「危険はあるでしょうけど、突破できないほどじゃ、ないんじゃないかしら」

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