ザ・グレート・展開予測ショー

東京ジャングル10


投稿者名:居辺
投稿日時:(02/11/24)

22.西条君大ピンチ
「このくらい、離れたら大丈夫だろう」
 前方を歩く、一行との距離を確認して、西条はつぶやいた。
 ポケットから紙片をとり出すと、カンテラで照らす。
 ここに来る直前に、美智恵から受け取った紙片。
 その紙片には、VIPの居所が記されているはずだった。

 美智恵に無理を言って、手に入れてもらったメモ。
 西条は、一行からわざと遅れるようにして、その内容を確認していた。
 本来なら、森に入る前に暗記して、メモは処分するところだったのだが、あまりにも時間が無さすぎた。
 メモを受け取った時には、出発の時間が迫っていたのだ。
 実際に受け取ったのは、森の前。美神達が到着する数分前だった。
 自衛隊員に不信感を持たれたくないので、おおっぴらにメモを読むわけにも行かない。

 メモには簡潔に、住所、アパートの部屋番号、相手の名前だけが記されていた。
 どうやってたどり着くか検討する前に、暗記してしまうことにした。
 記憶すると、ライターで火を点けて燃やしてしまう。
 つまんだ指先が、火傷しそうになるまで待って、地面に落とすと、踏みにじる。
 バラバラになった灰に火が残ってないか、確認しながら、西条の心はメモの内容の反芻(はんすう)を始めていた。

 アパートだって? その愛人、金銭の援助はしてもらってないってことか?
 VIPとか言われてるくせにケチだな。
 それとも、その愛人、良くできた人なんだろうか?

 ……奇妙だ。なんでこんなに静かなんだろう?
 西条が顔を上げると、美神達一行が歪んで見えた。
 まるで、プールに浮かんだ波紋を通して、底を見るかの様な歪み。
 美神の報告書の内容を、思い出す暇も無かった。
 全身が総毛立つ感覚と共に、西条は空間転位した。 

23.シロの道
 ほっぺたがくすぐったい。
 無意識にそれを押しのけた。
 暖かくて湿った感触が手に伝わる。
 ようやく開けた目に、尖った鼻面が飛び込んできた。
 狼の匂い。でも敵意は感じられない。
 舐められるにまかせて、お返しに耳の後をくすぐってやる。

「あつつ、酷くやられたでゴザルな」
 痛む身体を引き起こす。
 狼達が身体をすり付けてきた。クォ〜ンと優しい鳴き声。
「心配してくれるでゴザルか。大丈夫でゴザルよ。致命傷は負ってないし、もう血は止まってるでゴザル」
 狼達の身体を抱いて、シロはささやきかけた。

 木の幹に身体を預けて一息つく。
 身体を動かすのが辛い。
 かなり消耗してしまったようだ。
 八房を握っていないポチは、それでもかなりの強敵だった。
 あの時、霊波刀の切っ先が、一瞬早くポチの身体を捕らえていなければ、自分は今この世にいなかったに違いない。
 それにしても、倒れて行くポチの見せた、一瞬の笑みの意味は、何だったのだろう。
 分からない。
 この森は、分からないことだらけだ。

 目だけで、ポチの遺体を探したシロは、そこに何も残っていないことに気がついた。
 確かに手応えは有った。致命傷だったはずだ。
 しかし、そこに居るはずのポチは居ない。
 つまり、生きている、と言うことでゴザルか?
 ゆっくりとかぶりを振って、シロは今の考えを否定した。
 そもそも、最初からおかしかったのだ。
 ポチはアルテミスに導かれて昇天したはず。シロも実際に目撃している。
 では、幻か? えらくリアルで、匂いまでそっくりだったが。

 狼の背中を無意識に撫でながら、シロはポチのことを考えた。
 誰よりも山と森と里を愛した人狼、ポチ。
 愛するものを守るため、力を得ることを求めたポチ。
 力を得ることで、全てを解決しようとしたポチ。
 ポチと同じ道を歩もうとは思わない。
 だが、ポチの遺志は誰が継ぐのだろう。
「……拙者はどうしたい、でゴザルか?」

 遠くの方で、ドオンと何かが破裂したような音がした。
 にわかに、空気が苦い味わいを帯びた。
 ふらつく身体を立て直し、立ち上がって風の匂いを嗅ぐ。
「こうしてはおれん。拙者、先生をお助けしなければ、ならんのでゴザル」
 震える膝を押さえつけるようにして、一歩踏み出す。
 狼達がシロにすり寄ってくる。
 自分の背中を使ってくれ、とでも言うかのように。
「かたじけないでゴザル」
 狼達に支えられながら、シロは歩き始めた。

24.強襲
 地面が大きく揺れた後、ぴたりと地鳴りが止んだ。
 ビビョヨヨヨ〜〜〜〜ンッッッッと、そこかしこから音が聞こえる。
 暗い森の中に、微かに影が浮かび上がる。
 前方に現れた、小山のような巨大な影には、覚えがある。
 多分あの時のイノシシだろう。
 それ以外の、周りを取り囲んでいる影は人間のように見える。
「来るわよ!!」
 美神が叫ぶのを待つまでもなく、身構える一同。

 鬨(とき)の声と共に矢が飛んできた。
 矢が足下に突き刺さる。
 矢じりが石造りらしい矢は、いくつかが木に突き刺さり、嫌な音を立てた。
 危険を察知して、カンテラを消灯すると、冥子が悲鳴をあげた。
「だれか〜〜〜〜、明かり点けて〜〜〜〜!!」
「ダメよ、やつらに目標を教えるようなもんなワケ」
 冥子の悲鳴にエミが答えている。
「それよりナイトゴーグルを」
「え〜〜〜〜?、なあに〜〜〜〜?」
 誰も冥子にナイトゴーグルの使い方を、教えてなかったのだろうか。

 美神は飛んでくる矢を、神通棍で払いのけながら、皆の様子をうかがった。
 夜目の利くタマモとピートは、ナイトゴーグルのお世話には、なっていないようだ。
 二人以外の皆が装着した、ナイトゴーグルは増感式だ。
 色褪せたモノクロームの映像が、ゴーグルを通して見えてくる。
 黒っぽい肌の男達が、こちらに向かって弓を構えているのが見えた。
 肩幅ほどもある、奇妙な仮面を付けた男達。
 裸の腰を申し訳程度にボロ布で覆っている。

 イノシシが真直ぐに突っ込んでくる。
 大きすぎるその身体に、樹がなぎ倒され、バキバキと物凄い音を立てた。
「冥子、そいつをお願い!!」
「みんな〜〜〜〜、行くわよ〜〜〜〜!!」
 美神の叫びに冥子が応じた。
 冥子の足下から次々に異形のモノが現れて、イノシシの前に立ちふさがる。
 ドン!! 肉と肉がぶつかる音が響いた。
 イノシシと式神達が咆哮をあげる。
 電光が走り、イノシシの身体に、稲妻の模様が走るのが見える。
「タイガー、冥子が攻撃されないように、幻影をかぶせてあげて」
 美神が神通棍に念を送りながら言った。
「万が一の時は、あんたが楯になんのよ」

 槍を構えた男達が、こちらに向かって走ってくる。
 雪之丞が魔装術で装甲をまとって、突っ込んで行くのが見えた。
 装甲に自信があるのだろうが、無謀すぎる。
 そちらに移動しようと、振り向いた美神と、おキヌの目が合った。
 ゴーグル越しで表情は分からないが、唇が震えているのが見て取れた。
 怯えてるわけじゃないわね、緊張しているだけ。
「冥子のそばに居なさい!! 離れたらダメよ!!」
 美神は走り出した。
 うしろは振り向かない。おキヌが言う通りにすることを信じている。

 雪之丞の後を追って、ピートは走った。
 バンパイアミストで、槍を持った男達をすり抜け、うしろに回る。
 そのまま霧で相手を包み、精気を吸い上げる。
 エナジードレイン。接触した相手から精気を吸い取る、バンパイアの能力。
 命を奪うつもりは無い。少しの間動けなくなってくれるだけで良い。
「これは!?」
 吸い上げた精気の、異質な感覚にピートは叫んだ。
 身体が拒絶反応を起こす。
 実体を取り戻したピートの身体から、煙が上がる。
 そのまま膝を突くと、ピートは倒れた。

「ピート!!」
 雪之丞はピートの名を叫びながら、目の前の男に突っ込んだ。
 相手の胸が潰れる嫌な感覚が、拳に伝わってくる。
 はじき飛ばされた相手が、仲間をなぎ倒してうしろに転がる。
 倒れたピートの身体が視界に入る。
 男達がピートを引きずって、行こうとしているのが見えた。
「放しやがれぇ!!」
 倒れた男を踏みつけ、ピートを追う。
 両手に作った光弾を叩き付け、ピートの周りの男達をなぎ倒す。
 無造作に放り出されたピートの身体に走り寄る。
 安否を確認しようと、しゃがみ込んだ雪之丞に、仮面の男が数人、飛び掛かった。
「邪魔すんな!!」
 雪之丞が叫ぶ。
 しかし、雪之丞にかかる重みは軽くなることは無く、次々と重さを増して行った。

 イノシシと式神達の戦いは、怪獣大戦争となっていた。
 巨体を揺すりながら、あくまで押し通ろうとするイノシシと、その巨体に正面からぶつかり、絡みつき、毛針を飛ばし、切りつける式神達。
「がんばって〜〜〜〜!!」
 冥子が式神達を応援する。
 その脇に立ったタイガーは、辺りの様子に気を配っていた。
 いくら幻影をかぶせているとは言え、この乱戦だ。
 ここだけ敵が来ない訳が無い。
 案の定、槍の戦士の一団が、こちらに迫ってきている。
 念を凝らして、半獣化し相手を睨みつける。
 来るなら来い。
 タイガーは、意志を込め、雄叫びをあげた。

 九つに束ねた髪を揺らして、タマモがステップを切った。
 目の前の男がタイミングを狂わされて、たたらを踏むところに、爪を叩き付ける。
 男は仮面ごと顔を切り裂かれ、叫び声をあげながら地面に転がり、のたうち回った。
 目前に迫った槍の穂先を、バック転でかわしながら、草の葉の手裏剣を飛ばす。
 手裏剣はまるで鋼鉄のそれのように、男達の手首に突き刺さり、武器を取り落とさせた。
 動きの止まった男達の中に、飛び込んで爪を振るう。
 倒れた敵の真ん中に立ったタマモは、うっすらと笑みを浮かべた。

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