ザ・グレート・展開予測ショー

東京ジャングル 9


投稿者名:居辺
投稿日時:(02/11/24)

19.蛍の導き
 蛍に導かれるままに、横島が暗やみの中を進んで行く。
 足下は草を踏む感じから、ゴツゴツした感じに変わっていた。
 木の根などではなく、まるで均される前に固まってしまった、コンクリートのようだ。
 時折、蹴飛ばした小砂利が転がって、乾いた音を立てる。
 その音の響き具合。周りはかなり広いようだ。

 横島は何度かライターを灯そうとしたが、どうしても点かなかった。
 電子式の百円ライターは、カチカチと音を立てるだけで、火花すら見えない。
 ポケットに入れっぱなしだったそれは、沼の水をかぶってしまったらしい。
 ライターを諦めた横島は、それをポケットに放り込む。
 蛍は緑の光を左右に揺らしながら、ゆっくりと飛んで行く。

「お前、どこまで行くつもりなんだ?」
 その問いかけに蛍が答えるはずも無い。
 それでも、導かれていると言う直感が、横島には有った。
 この先に待つのは何か? 彼女か? それともまったく関係のない何者か?
 どちらにしても、行かなければならない。見極めずにはいられない。
 横島はポケットの中で、彼に残された命綱、二つの文珠を握り締めた。

 ふいに、何の予兆も無く、光が消えてしまった。
 蛍を見失った横島は、辺りを見回してみる。
 どちらを向いても真っ暗。墨を流した様な闇が、横島を包んでいる。
「おーい、どこ行ったんだ」
 無駄と思いつつ、声を掛けてみる。

 永遠とも思えるような、時間のあと。
 目の端に緑の光を捕らえた。
 安心したのもつかの間、正面にもう一つの光が。
 更に、そのわきにもう一つ。更にもう一つ。更に……。
 緑の光点が次々に点灯して行く。
 息を飲んだ。
 蛍の、光のドームの中心に、横島は立っている。
 蛍達は、同期したリズムで明滅を繰り返しながら、狭い空間を激しく飛び回る。
 光の乱舞に圧倒される。

 一匹の蛍が横島の前に、漂い出てきた。
 先を争うように、次から次へと蛍がやって来て、互いの周りを回り始める。
 緑の光のボールが、鼓動のようにリズムを刻みながら、次第に大きくなって行った。

 様子を見守っていた横島が一瞬見たもの。
 光のボールの中の、彼女の面影。
 見間違いかもしれない。確かめないと。
 目を凝らしたが、もう見えない。
 おそるおそる、光のボールに右手を伸ばす。
 指先がボールに触れたと思った瞬間、指先から全身に衝撃が伝わった。
 全身が引き裂かれるかのような痛みに、横島が絶叫をあげる。
 冷たい地面に、うつ伏せに横島は倒れて行く。
 何故か彼女の指先が、頬をなぜたのを感じながら、横島は意識を失った。

20.地鳴り
 昼でも暗い、この森の夜明け前は、当然真っ暗だ。
 GS一行はカンテラの明かりを頼りに、森の奥を目指し、歩みを進めていた。
 蛍光灯使用のカンテラの青白い光は、ただでさえ非現実的なこの森を、いっそう不気味に見せていた。

 当初、固まって歩いていた一行は、一列になりつつあった。
 と言うのも、足手まといが一人いたからだ。
「いいわね、冥子だけには注意して。多分あの子が一番危険だから」
 美神が隣を歩くおキヌ達にささやくと、おキヌは真剣な顔でうなずいて返した。
 タマモは何か疑わしげな視線を冥子に送っている。
 当の冥子は何故かご機嫌で、大きな葉っぱをめくったり、樹の洞を覗き込み、何か探している。
「妖精さん〜〜〜〜。どこですか〜〜〜〜?」

 妖精? 確かに居ないとは限らないけど。何しに来たんだこの女。
 美神は冥子と目を合わさないようにして、頭を掻いた。
 以前、遊びに来た冥子と、鈴女を引き合わせたら、予想通り鈴女に懐かれてしまった。
 どうやらそれ以来、妖精に興味を持ったみたいだ。
 冥子は友達を探してるつもりなのだろうが、世の妖精が善良な妖精ばかりとは限らない。
 できれば妖精など出てきて欲しくない。これ以上話をややこしくして欲しくない。
 式神を出さないように、説得するのも一苦労だった。
 出すのは危険が迫った時だけ。それでなんとか納得してもらった。
 でも、冥子は皆が何故、彼女を怖れているのか、どうしても理解できないみたいだ。
 いつ爆発するか分からない、爆弾みたいな女。
「歩くブービートラップよね」
 美神は胸の内でつぶやいた。

「だ、誰か。助けて!」
 一瞬にして緊張が走る。
 声のした方向に振り向くと、エミがピートの腕を取って、物陰に引きずり込もうとしている。
「毎度毎度、やること変わんないわね。このメラニン蟻地獄女!」
 相手にしてらんないと向けた背中に、エミが噛み付く。
「お子様ランチな片思いやってるガキに、言われたくないワケ!」
「誰が片思いだっっっ!!」
 美神が瞬間的に逆上する。
「ゴキブリそっくりのくせして、人間様と対等の口利くな!!」
「!!……。言うに事欠いてゴキブリ!?」
「そりゃあいつを見た時は、ちょっと驚いたワケ。だからってそこまで言う?」
「元々オタクが部下の管理を、きちっとしてないせいで、こんなことになったワケ!!」
 たちまち、一触即発の状態になってしまった。
 おキヌとピートが必死に取りなすが、二人の耳には聞こえていない。
 先を歩いている雪之丞達が「先に行くぞ」と諦め顔で声を掛けた。

「ホント、あの二人って顔を合わすたびに、ああなんだから」
 タマモは、雪之丞の横で、ため息交じりにつぶやいた。
「友情確認の儀式なんですカイノー」
 タイガーが悟ったかのように言った。目を閉じて胃の辺りを、手で押さえている。
 見かけより繊細なタイガーは、胃炎を患っていた。
「どっちかっつーと、西条の旦那の方が似ていると思うけどな」
 最近、姿を見せないゴキブリの王様は、元気にしているだろうか。
「そういや西条のダンナ、どこ行ったんだ? 姿が見えないが」
 雪之丞が、一行の人数を数え始める。

「まあまあ〜〜〜〜、二人とも〜〜〜〜、こんな所で喧嘩しないで〜〜〜〜」
 と言いながら冥子が二人に割って入る。
「邪魔よ!!」
 興奮した二人に、突き飛ばされた冥子が、しりもちをつく。
 一瞬、何があったのか分からない、と言った表情を浮かべた冥子。
 ジワーッと涙が、大きな目に溜まって行った。
「あ、ゴメン!!」
 慌てて助け起こす美神。エミが冥子のお尻の汚れを払っている。
 しかし、謝ったところでもう遅い。手榴弾のピンを抜いたようなものだ。
 冥子の足下が、モクモクとうごめいている。気のせいか、地鳴りのような音まで聞こえてきた。

 やばい。プッツンする。
 美神とエミは素早く、回避行動を開始した。
 間に冥子を挟んで、互いに抱きしめ合う。
「本気で喧嘩してた訳じゃないわ。ほら、こんなに仲が良いんだもの」
 冥子がおびえた子供のような顔で聞く。
「本当に〜〜〜〜?」
「ほ、本当よ〜〜。ね?」
「も、もちろんなワケ!」
「よかった〜〜〜〜。私どうしようかと思っちゃった〜〜〜〜」
 嬉しそうに、美神とエミの胸元に、顔をうずめる冥子。
 顔を引きつらせた二人と、本当に幸せそうな一人の、女三人友情の図。
 だが、冥子の頭上では二人の女が、視線で火花を散らしていた。

「いや危なかったな」
 木の影から、顔を出しながら雪之丞。
「いきなり全滅するかと思いましたよ」
 とピートが後を引き継ぐ。
 三人の周りにぞろぞろと集まってくる。全員危険を察知して隠れていたらしい。
「あんたら、後で覚えておきなさいよ」
「それより、西条の旦那が居ないんだが」
 雪之丞が美神のセリフを、受け流して言う。
「どうやら携帯の電源を、切ってるらしい」

21.罠
 地鳴りは森全体を、揺らし始めていた。
 木の葉が擦れ合って、耳障りな音を立てている。
「令子!?」
 エミが冷たい笑みを浮かべる。
「ええ、凄いプレッシャーね。ようやく森の主が本気になったってトコロかしら」

 美神の携帯電話が呼び出し音を鳴らした。着メロは『女の操(みさお)』である。
 メロディだけで、和音が入ってない所を見ると、自分で入力したらしい。
 美神は地面に叩き付けそうになったが、思い直して出た。
 携帯電話からカオスの声が聞こえてくる。

『こちらカオスじゃ。先程から、森全体の霊気が高まってきておる。気付いとったか?』
「ええ、かなりのモノね。そっちはどお?」
『装置は順調に作動しておる。じゃが、まずいな。雨が降ってきそうじゃ』
『こっちの装置は、防水仕様じゃないんじゃ』
『今、自衛隊の諸君に、テントを取りに行ってもらっておるが、間に合うかの?』
『最悪の場合、空間転位の位置情報の提供は、できなくなってしまうのお』
「仕方ないわ、なんとか頑張ってみて。あんた次第で、こっちは立ち往生なんだから」
『ん……? いきなりで悪いが、時空振が発生したようじゃ。今位置を計算しておる』
『物凄いエネルギーじゃ、かなりでかいぞ』
『……マリア? 1テン5センチの六千五百倍はいくつかの?』
「手計算なの!?」
 美神がツッコミをいれる。
『冗談じゃ。お前さんから中心部に向かって、約百メートルの距離じゃ』

『オッと、新しい反応じゃ。……おや?』
「どしたのよ!?」
『次から次に反応が出て、計算が追いつかん。とりあえず反応の数だけ言っとくぞ』
『ひーふーみー、……マリア? みーの次は何じゃ?』
「ちょっと!? いい加減にして……」
『かっかっか、傑作じゃのお。ミーの次はケイじゃと。マリアも言いおるわい』

「……あんた、あたしが生きて帰ったら、只じゃすまないからね」
 美神が低い声でささやく。携帯電話の向こうで、ゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
『そ、そう言うな。わしらだけじゃ退屈なんじゃ』
『計算終了まで、間を持たしとるだけに過ぎん。ほれ、出たぞ』
『……最初のを入れて8箇所じゃ。お主らの周りをぐるりと取り囲んどるな』
『気を付けろ。罠じゃ』
「遅いわっ、ボケーーーー!!!!」
 美神の絶叫が地鳴りを制して、暗い森に響き渡った。

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