ザ・グレート・展開予測ショー

南極物語(7)-3


投稿者名:志狗
投稿日時:(02/11/23)

「終わったか?」
戻ってきた二人に横島が声をかける。
シロはルシオラと一緒に頷きお互いに少し視線を合わせると、横島のほうへと駆け寄ってきた。
そしてまだふらついている横島を支える。
その様子をルシオラは満足そうに眺めていた。


「・・・・それじゃあな。」
いよいよ別れのときになり横島が声をかけると、ルシオラは微笑んで静かに頷く。
その笑みに横島は一瞬目を伏せるが、再び視線を向け告げる。

「ルシオラ・・・幸せにな・・・・」
そう言って、文珠を発動させる。
文殊から伸びた光は二人の体を包み込むように伸びていく。
「ええ・・・あなたも・・・・」
ルシオラは答えると視線を少しずらし、シロに向ける。
「じゃあ、シロちゃん・・・・・“またね”」
その言葉に横島は疑問符を浮かべるが、シロはしっかりと頷いた。

光が完全に二人を包み、その姿をかき消した。





二人が消えた所を、夕日がその痕跡を消そうとするかのように照らしていくのを、ルシオラはじっと見つめていた。

「おーい!ルシオラ〜!」
一人の男が夕焼けに染まる空を駆け、彼女の前に降り立つ。手には輝く玉が握られていた。
「あんまり遅いから心配してきてみれば・・・やっぱりここだったか。」
「ヨコシマ・・・」
ルシオラはそう呟くと、その体にそっと抱きつく。
「お、おい・・・どうしたんだよ。」
急に抱きつかれた事に慌ててもがくが、ルシオラはそのままきつく抱きつく。

「ヨコシマ・・・・・幸せに・・・してね・・・・」
その言葉にもがいていた体が止まる。
抱きついた細い体にそっと手を回す。

「あたりまえだろ・・・・」

紅い夕日の中で二つの体が一つの影を落としていた。












横島とシロの前に再びあの荒れ果てた世界が広がる。

シロは足下にあるぼんやりとした光に気付く。
「地脈エネルギーの・・・・泉・・・・でござるか?」
自分の感覚が感じ取ったそのままを口に出す。

一方横島の視線は、その光の中心にある物体に注がれていた。
「宇宙のタマゴ・・・・・か」
見覚えのあるそれにぽつりと声を漏らす。
不思議と驚きは無かった。



その後、シロと横島は事務所と連絡を取り、目的の場所に渡されていた立て札を立てた。
後は帰るだけだったのだが、横島の貧血の具合がひどく、自力での帰還は困難と言う判断が下された。
そのため、たった今立てた立て札を使った専用通路による帰還を行うことになったのだが・・・・
その使用申請に一晩かかるらしく、横島とシロはそこで一夜を明かす事となった。


寝る支度を整えたところで、二人はあることに気付く。
横島の寝袋は、地脈エネルギーの暴走を突き止めるときに石の嵐にさらす事となり、使い物にならなくなっていたのである。
横島は「竜神の装備があるから寒くないし、大丈夫だ。」と言ったが、シロは強引に押し切り、二人で一つの寝袋を使うこととなった。


防寒具を着ていないため、大きめの寝袋は二人が入ってもまだ多少の余裕はある。
それでもすぐ近くにあるお互いの体温がしっかりと感じられる。
普段の横島なら動揺するのだろうが、今は違った。




横島は“あの世界”のルシオラと触れ合うことはなかった。
彼女は“違う”と判っていたから・・・・

彼女は横島の事を一度も「ヨコシマ」と呼ぶ事はなかった。

それでも彼女の声、姿から失ってしまった“ルシオラ”を感ぜずにはいられなかった。
すぐそこにあるシロのぬくもりのを感じる中で、失ったぬくもりを思い出し、悲しみがこみ上げてくる。

そしてその悲しみと共に、自分を責める気持ちが再び心に生まれる。
その感情に身を任せてしまいそうになった時・・・・・・「もう自分を責めないで」と言ったシロの顔が思い浮かぶ。


気が付いたときにはシロをかき抱いていた。

「せ、先生っ!?」
ルシオラとの話により元気付けられ、横島に対し一緒の寝袋で寝るという行動にでたのだが、内心は緊張しっぱなしだった。
そんな状況で横島に抱きつかれ、シロはパニックになりそうになるが・・・・

ふと何か雫のような物が頬を撫でる・・・・・・・・・・横島の涙だった。




なぜ自分は救えなかったのか、なぜ彼女が助かる世界がこの世界でなかったのか・・・・・
この気持ちをなぜ今まで押し込めてきたのか・・・・・・

悔しさ、悲しさ、怒り・・・・多くの感情が横島から溢れ出る。


そんな感情の爆発の中で、横島は自然とシロと共にあることのの安息を求めていた・・・・・・・

「すまんシロ・・・・少しだけ・・・・このままでいさせてくれ・・・・」

その言葉にシロの体からすっと力が抜ける。
横島は体を小さく震わせて、涙を流し続けた。





「先生?」
どれくらい時間がたったのだろうか、横島は極度の貧血と感情の発散で、気絶するように眠ってしまっていた。

シロはその事に気が付くと横島の体をそのままに、自らの手をそっと横島の背に回す。



「おやすみなさい・・・・先生。」
そう小さく呟くと、シロはそっと目を閉じた。

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