ザ・グレート・展開予測ショー

南極物語(7)-2


投稿者名:志狗
投稿日時:(02/11/23)

「なんで・・・なんで先生がそんな辛い目にあわなくちゃいけないんでござるか・・・」
横島が話し終えると、シロはぽろぽろと涙を流す。

「そっか・・・私、死んじゃったのか・・・・・」
ルシオラはどこか他人事のようにポツリと口にする。

「・・・・憎くないのか?・・・・俺は、命をかけてくれたお前を見殺しにしたのも同然なんだぞ・・・」
ルシオラを見上げるように見つめながら、自分への嫌悪を込めた口調で言う。
「どうして?私一人のために仲間と世界・・・全てを犠牲になんかできないでしょ?」
“同じ”せりふを言うルシオラに、横島の感情が弾ける。
「ああ!“ルシオラ”もそう言ったよ!それは仕方がなかったかもしれない!でも俺が俺を許せないのは!」
そして堪える様に唇を血がにじむまで噛み、はき捨てるように言う。
「全部が終わって・・・日常にもどって・・・・・・始めはみんなを心配させたくないっていう気持ちだった。 
でも誰もルシオラの事に触れようとしなくて!・・・俺もそれが楽で!・・・ルシオラへの想いを隠すのが当然になっていって!」
横島の独白をシロは青ざめて、ルシオラは無表情に聞き入る。

「俺はルシオラを・・・・殺し・・・・たのに!・・・まるで何もなかったみたいに!・・・ルシオラがいなかったみたいに振舞って!」
ルシオラの死を認めようとせず逃げ回る、そんな自分への嫌悪がはっきりと見て取れる。
「シロにあの戦いのことを話した時も!ルシオラのことを話さずに平気で話ができて!」

「そんなことない!」
自分を非難し続ける横島の言葉をシロが遮る。
「先生は話した後すごく悲しそうだった!それはきっと・・・隠していても心のどこかでルシオラ殿の事をずっと考えていたからっ!」
そしてシロは横島の肩に顔をうずめ、小さく呟くように言う。  
「だから・・・・・・だから、もうそれ以上自分を責めないで・・・・・・拙者・・・そんなのいやでござるよ・・・・・」
はじめて見る横島の過剰なまでに自分を責め続ける姿に、シロは耐え切れなかった。

「ごめんな・・・・・シロ・・・・」
低く嗚咽を上げるシロを撫でながらそう言うと、再びルシオラを見上げる。
「一つだけ教えてくれないか?この世界でお前はどうやって・・・」
「だめよ。」
ルシオラは横島の言葉をぴしゃりとはねつけた。
「私がどうやって生き残ったか?そんな事を聞いてどうなるの?聞いたらあなたは「あの時ああすれば・・・」って後悔するだけ。
それは今、シロちゃんがやめてって言ったばっかりでしょ?」 
無意識にだが同じ過ちを犯そうとしてしまったことに、横島は恥じ入る。
そして少しの後に上げた顔は、どこか乾いたような感じがした。


「シロ、肩貸してくれ。」
横島の言葉にシロは戸惑ったが、すぐにうずめていた顔を上げ、肩を貸して横島を立ち上がらせる。
まだ足元がふらついているが、それでもとりあえず立ってはいられる様だ。
「ルシオラ、文珠を二つばかりくれないか?」
「え?」
「帰るよ・・・俺たちの世界に。ここにいちゃシロを悲しませる事しかできなさそうだしな・・・・・あとは向こうで考えるよ。」 
ルシオラは「そうね・・」を呟くと、文珠を手渡す。
横島がそれを力なく握ると、『帰』『還』の文字が浮かび上がる。


「その前に、シロちゃんとちょっと話したいんだけど・・・いい?」
「え?拙者はかまわないでござるが・・・・」
そう言って、心配そうに横島の顔を見る。
横島はそんなシロの心遣いをうれしく思いながら、顔でなんとなく促す。
ルシオラはそれを確認すると、シロを連れて横島の死角へと移動した。

「話って何でござるか?」
シロの問いにルシオラは真剣なまなざしで答える。

「あなたに・・・彼を支えてもらいたいの・・・」

「え?・・・・・」
思わず聞き返すがルシオラはそのまま続ける。
「彼は・・・“私”の死に縛られすぎてるわ。あなたに彼をそこから解放してあげて欲しいの・・・」
「でっ、でもっ!拙者がしてあげられることなんて・・・・・」
何も無い、と言おうとしたのだろうか・・・・・言葉尻が小さく途切れてしまう。
ルシオラはシロの様子に小さくかぶりを振る。
「特別に何かをしてってわけじゃないの。“私”の死を知った上で、それを押し隠さずに彼と付き合っていって欲しいのよ。」
「・・・それだけでいいのでござるか?」
拍子抜けした様子のシロに、ルシオラは静かに頷く。
「ええ・・・さっき彼が言ってたでしょ、「誰も触れようとしない」って・・・・
きっと美神さんやおキヌちゃんも臆病になってるのね・・・・・傷に触ることで追い詰めてしまうかも、変わってしまうかもって・・・・
でもそれにちゃんと向き合っていかなければ、彼は前に進めないわ・・・・」

「それならルシオラ殿が傷に触れてあげたほうが・・・・先生もきっと・・・」
本当は、自分が支えになってあげられるのならどんなに嬉しいだろうと思う。
それでもルシオラには敵わないのかもしれない、と言う思いが先立つ。
しかしルシオラはかぶりを振る。
 
「私じゃだめ。私は・・・・・彼を“ヨコシマ”とは見れないわ・・・」
その横島を突き放す言葉にシロは息を呑む。

「私にはこの三年間一緒に生きてきた“ヨコシマ”がいる。
正直、“私”の死を聞いても実感がわかない。私は今すごく幸せで、そんな可能性を考えた事もなかった。
だから私は、彼を怒る事も、慰める事も、励ます事もできない。それができるのは彼と一緒の世界に存在する人だけ・・・・・
そしてあなたならそれができると思うから・・・頼みたいの。」
「どうして拙者ができると思うんでござるか?」
自信がもてないのか、シロが不安そうに言う。

「あなたは・・・純粋よ。無条件に彼のところに飛び込んでいける。彼が自分を責めたらすぐに「そんなのいやだ」って言える。
あなたが自分の気持ちを素直に伝える事が、彼を救っているのよ。」
「よくわからないでござる・・・」
申し訳なさそうに言うシロに、ルシオラは満足そうに続ける。
「それでいいのよ。あなたは理解する必要はないわ。ただ自分の気持ちに素直でいればいいの。それが彼の救いになる。」
「??」
何故自分が素直でいることが横島の助けになるのか理解できないシロは、ますます疑問符を浮かべる。

「それに・・・私があなたならできるって思う一番の理由はね・・・・」
そんなシロの様子に、いたずらっぽい笑みを浮かべるルシオラ。

「彼のこと好きでしょ?」

「えっ!な、なんでござるか、いきなり・・・」
急な問いに慌てるが、ルシオラは取り合わない。
「隠そうとしてもダメよ?三年もヨコシマの恋人をやってきたのよ。そういう気配には敏感なの。」
そうでなくとも見れば判る事は伏せておく。

「でも・・・拙者は先生の弟子でござるから・・・」
シロはしばらく赤面していたが、やがてぽつりと言う。
「そんなこと気にすることないわよ?私とヨコシマなんて、はじめは飼い主とペットの関係だったんだから。」
「ペ、ペットでござるか・・・」
どんな光景が頭に浮かんだのか、それを振り払うかのようにぶるぶると頭を振る。
「そ、だからがんばってね?ヨコシマって恋愛に優柔不断な所があるから・・・おかげで私も結婚まで三年もかかっちゃったわ・・・」
今までの苦労が脳裏をよぎるのか、思わず額に手をやるルシオラ。 

「拙者は、先生にとってルシオラ殿みたいな存在になれるんでござろうか・・・・」
横島に思われ続けているであろうルシオラ、その存在がはるか遠く感じるシロは、羨望にも似た気持ちを抱く。
「あなたはあなたでいいのよ。彼にとっての“ルシオラ”にはなれないし、なろうとしなくていい。」
ルシオラは、優しいまなざしを向けながら続ける。
「あなたは彼を必要としているし、彼も気付いてはいないのかもしれないけど、あなたの事を失いたくない気持ちがあるわ。
あなたが自分の気持ちを今までと同じように伝えていけば、時間はかかるかもしれないけど彼はきっとそれに答えてくれる。」

「ルシオラ殿は、先生の事を本当によく知っていて・・・・大切に思っているんでござるな・・・・」
「ええ・・・彼を“ヨコシマ”と一緒に見ることはできないけど、その本質は、どんな世界でも変わってないって信じてるから・・・・」
「拙者もそう思うでござるよ。」
シロの言葉にルシオラの顔がほころぶ。
違う世界のとはいえ、同じ男を思う仲である。どこか共感がもてるのであろう。

「それに、あなたにも幸せになって欲しいと思ってるわよ?」
「えっ?」
初対面の相手にそんな事を言われるとは思わなかったのだろう、シロは軽く意表を突かれる。
「だって、あなたは“私”のお母さんになるのかもしれないでしょ?」
シロの頭に、先ほど横島が話した「ルシオラが横島の娘に生まれ変わる可能性」の話が浮かぶ。
「そっ、それって・・・・拙者が・・・・先生の・・・・・」
赤面するシロを前に、ルシオラは続ける。
「私には「造物主」はいたけど、「親」はいなかったから・・・違う世界の事でも楽しみだわ・・・」
その言葉にシロははっとする。

ふと、父のことを思い出す。
自分には父を失う悲しみがあったが、父と過ごした思い出もある。
彼女はそのどちらも感じることができない。
なんともいえない思いがこみ上げてくる。

父を失ったことがあるシロだからこそ、その彼女の想いを強く感じたのかもしれない。

気が付いたときには口を開いていた。

「もし、拙者がそうなったら・・・・絶対にルシオラ殿を幸せにしてあげるでござるよ。」
その言葉にルシオラは目をぱちくりさせていたが、やがて目を細める。
「ありがとう・・・・・じゃあ、約束ね?」
「約束でござるっ!武士に二言は無いでござるよっ!」

そういって二人はそっと指きりを交わした。 

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