ザ・グレート・展開予測ショー

南極物語(7)-1 


投稿者名:志狗
投稿日時:(02/11/23)

「ル・・シ・・・・・オ・・・ラ・・・」

目の前に立つ女性。
自分が知っている姿よりもやや年上で、髪も少し長いようだ。
それでも横島は、彼女がルシオラであるという確信を抱いていた。

「ルシオラっ!」
立ち上ろうとした横島だったが、体に力が入らず尻餅をつく。

「先生っ!」
慌ててシロが、そのまま仰向けに倒れそうになる横島を支える。

「まだ無理よ。蘇生はしたけれど、血を流しすぎてひどい貧血になってるから・・・」
“ルシオラ”は、いたわるように優しく声をかける。

「初めまして・・・かしら?あなたは私の知ってるヨコシマとは“違う”ヨコシマのようだから・・・・」

その言葉に横島は少なからず驚きの表情を浮かべる。しかし・・・
(そうだよな・・・“同じ”なわけないよな・・・・わかってたはずなのに・・・・)

「お知り合いでござるか?この方も文珠を使っておられたでござるし・・・」
事情の分からないシロが言った言葉に、うなだれていた横島が反応する。
「文珠?」
「死にかかっていた先生を、文珠を使って助けて下さったんでござるよ。」

「ああ、これ?」
怪訝そうに見上げる横島の視線に答えるように、ルシオラは懐からいくつかの文珠を取り出すと、手の上で弄ぶ。
「“こっち”のあなたがくれたのよ。「今日のはたいした仕事じゃない」って言ったのに・・・心配性なんだから・・・・」
困ったように言うが、それでもどこか嬉しげだ。
「でも、あってよかったわ。文珠じゃなければ蘇生できなかったと思うし・・・・・
運がよかった・・・いえ、運命かしら?・・・・この場所、東京タワーでなんてね。」
そういって微笑む。
「・・・そっか、ここ東京タワーだったのか・・・・・ほんとに運命かもな・・・・・」
以前自分が命を救われ、ルシオラが命を失った場所・・・・そこでまた命を救われた・・・・皮肉な偶然に横島は苦笑する。

―――と、その時、横島の服の裾がくいくいと引っ張られる。
見ると、話についていけず置いてきぼりにされたシロが指を咥えて潤んだ視線を向けていた。

「あ・・・わ、悪い・・シロ。」
「うう・・・拙者にも事情を説明して欲しいでござるよ・・・・」
「俺も、完全に把握してるわけじゃないけど・・・」
シロの頭を撫でながら、ルシオラに再び顔を向ける。

「原因はわからないけど、多分・・・平行世界に紛れ込んだんだと思う・・・」
横島の言葉に、ルシオラも静かに頷く。

「平行世界?」
「分岐していった世界・・・別の可能性を選んだ、似たようで異なる世界よ。」
「??」
「ああ、例えば・・・アシュタロスの話はしただろ?俺たちの世界では勝ったけど、負けた世界もどこかに存在してるだろうって事だよ。」
ルシオラの言葉に疑問符を浮かべたシロも、横島の例えでやっと納得したようだった。


シロを納得させた後、横島は一つ息を吐くと再び口を開いた。
「ルシオラ・・・この世界の事、聞いてもいいか?・・・」
横島はルシオラの生きているこの世界で、彼女がどう生きているのか知りたかった。
ルシオラは横島の問いに頷き、話し始める。
「あなたの世界でも、アシュ様には勝ったのね?この世界でも同じよ。あれからもう三年たったけど、今でもおおむね平和よ。」
「・・・・三年もたってるのか・・・・・ルシオラは今どうしてるんだ?」
「ヨコシマが美神さんの所から独立して、私もそこで働いてるわ。今日ここには、仕事帰りでちょっと立ち寄ったの・・・」


「幸せか?」
横島の唐突な問いに一瞬きょとんとしたルシオラだったが、すぐに笑みを浮かべ、頷く。
「ええ、幸せよ・・・なんていったって、結婚が間近なんですもの。」
「け、結婚!?だ、誰と!?」
この答えは予想していなかったのか、取り乱す横島。
しかしルシオラは、頬を染めながら落ち着いて答える。
「バカね・・・ヨコシマとに決まってるでしょ?」
取り乱した甲斐がなく唖然とする横島だったが、すぐに安堵の表情を浮かべる。
「そっか・・・・・・」


「あの・・・・この世界の拙者は・・・どうなったのでござるか・・・」
それまで黙っていたシロが口を開く。
違う世界の事とはいえ、横島の結婚の話を聞き不安になったのだろう。
横島と一緒にいられなくなったら自分はどうなるのだろう・・・と
それは本人も自覚していない、一種の嫉妬だったのかもしれない。

(この子・・・・)
シロのその感情、横島への思慕による嫉妬をルシオラは鋭く感じ取る。
(話したら、この子はどう思うだろう・・・)
これから自分が話すことに一抹の不安を感じる。
それでも嘘をつくわけにはいかず、ルシオラは静かに告げる。

「私は・・・あなたを知らないわ。」

この言葉にシロばかりでなく横島も驚く。
「知らないって・・・俺の弟子のシロだぞ?本当に知らないのか?」
「・・・・そう、弟子なの・・・先生って呼んでるからそんな所かなとは思っていたけど。」

一方シロは、そのやりとりも聞こえずに青ざめている。 
(ルシオラ殿が知らないって・・・・・こっちの先生が話さなかったのでござろうか・・・・)
だとしたら・・・・
(こっち先生にとって拙者はそんなに小さい存在なんでござるか?・・・)
もしかして自分の世界の横島も・・・・そんな不安がよぎる。

「そんな事ないわよ。」
シロははっと顔を上げる。
「自分はヨコシマのなかで、どうでもいい存在なのか・・・なんて考えてたでしょう?」
図星を指され、それをはっきりと顔に出すシロ。
「な・・・!そんな事考えてたのか!そんな事あるわけないだろっ!」
「だって・・・」
横島の言葉にも、他の可能性が思いつかないシロは不安を消しきれない。
「彼の言うとおりよ。彼が蘇生した直後に、自分の身よりあなたに何かないか心配したのを忘れたの?
“こっち”ヨコシマにしたって、自分の弟子をないがしろにするような人じゃないわ。」
「じゃあなんで・・・・」
シロの問いにルシオラは確信を持っている考えを告げる。

「シロちゃん・・・あなたはこっちの世界に存在していない・・・」

「そんな・・・・」
ルシオラの言葉にうめくような声をあげたのは、横島だった。
「別に不思議な事じゃないわ。
平行世界には無限の選択肢があるわ。あなた達がこうやって似た世界に紛れ込んだだけでも奇跡みたいな確率よ。」
ルシオラの言葉を黙って聞いていたシロだったが、やがて顔を上げる。

「ちょっと残念でござるが・・・・拙者自身はここにちゃんといるから・・・平気でござるよ。」
「シロ・・・・」
明らかに強がっていると判るシロに、横島は心配そうな顔を向ける。
「だ、大丈夫でござるって・・・・・そ、そういえば拙者、ルシオラ殿にはお会いした事がないのでござるが・・・」
横島に心配させたくなく、話題を変えようとしたシロの言葉に横島が青ざめる。
「せ、先生?」 
シロは自分の言葉が何を引き起こしたのかわからず、横島の顔を覗き込む。
一方ルシオラは、その表情から何かを感じ取ったようだった。


「話してくれる?・・・・」
ルシオラの問いに横島は一瞬視線を逸らすが、やがて心を決めたのか顔を上げる。
そして視線を向けたのは、ルシオラでなく・・・・シロだった。
「シロ・・・昨日話してやるって言った事・・・・今、話すよ・・・」
その言葉で、シロの心に昨夜の横島の発していた悲しみの感情が思い出される。


そして横島はゆっくりと話し出した―――

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