ザ・グレート・展開予測ショー

星たちの密会(6.1)


投稿者名:矢塚
投稿日時:(02/11/23)


 セイリュートの交戦開始の宣言とともに、マリアのランチャーが火を噴き

がら空きになっていた『甲』の小さな頭部に命中する。完全に、不意をついた格好になっ

た。

 プラズマ弾頭弾が、着弾と同時に焦点温度一億度以上の極小のプラズマを瞬間的に発

生。発生したそれが着弾箇所を蒸発させ、周囲も溶解させる。突然の超高温に周囲の空気

が熱膨張を起こし、爆発した。バックアップで飛び出していた涼は、その爆発を確認す

る。

『甲』には、声帯が無いのだろう。悲鳴というものが一切無く、ただもだえ苦しむ仕草を

している。悲鳴がない分、その仕草は不気味に映った。

「やったか!?」

 それに答えるように、マリアから通信。

「着弾・右に4.2センチ・大気濃度の演算エラー。修正後・次弾発射。」

 たかがそれぐらいなら問題なかろうと、爆発の威力を見た涼は思った。

 現に、触覚一本と頭部の4分の1以上を削りとっていた。

「リョウどの!とどめをさせ!まだ動く!」

 セイリュートからの通信に、驚愕する涼。見れば、瀕死であることは確かだが『甲』は

まだ動いていた。

「往生際がわるいぜ!化けモンが!」

 涼の両肩から、凶悪な兵器が顔を出す。それと同時に右方向からの警報。

涼は『甲』のハサミに吹き飛ばされていた。数十メートル吹き飛ばされたがダメージはそ

れほどない。

「『甲』周辺に・高密度の・可燃ガスを・確認。」

 マリアからの緊急通信。涼も、ガス検知モードで確認する。

『甲』の、体中の毛穴とでもいうべき器官から大量の可燃ガスが

かなりの勢いで吹き出ている。『甲』は、巨大なハサミ二つで抉られた頭を完全に覆って

いた。

「なんだ?」

 涼の疑問に答えるより早く、マリアが警告する。

「涼・ゲットバック・アンド・レジストショック!」

 それに反応して、対衝撃シールドを展開する涼。展開とほぼ同時に、『甲』の側椀の一

本が持ち上がり自らの甲羅を勢い良く、叩きつけるように擦る。盛大に火花が散り、

大気中に散布されたガスに連鎖的に引火する。

 瞬間、とんでもない爆圧と爆音に二人は包まれた。
 

「なっ、気化爆弾!?リョウどの!マリアどの!無事か?応答してくれ!こちらセイリュ

ート!」

 『甲』の周囲およそ1キロメートルが、クレーターのように抉られていた。

 セイリュートが、必死に呼びかける。ノイズ交じりの応答が返ってきた。

「・・・ジッ・・・ジジッ・・・こちらは・・・涼だ・・・ジッ・・・何とか生きて

る・・・マリアも・・・無事だ・・・ジッ・・・状況を・・・教えてくれ・・・」

 二人の無事を確認し安堵しつつ、状況を伝える。

「今の『甲』の攻撃で、周囲1キロメーターが壊滅。『甲』生存を確認。自身の冷却の為

か、次の攻撃準備は確認されない。『甲』は瀕死であると思われるが、後1〜2回は再攻

撃可能と思われる。次を喰らったらさすがにまずい。」

 セイリュートの、極力感情を殺した通信を涼とマリアが確認し、目の前の化け物を

睨みつける。二人とも、機体装甲の損傷がかなり激しいが機動にはさほど問題無かった。

 『甲』はその場を動かず、ハサミは依然として頭部をしっかりと守っている。

 これでは狙撃できない。

「俺が、右のハサミを根元から切断する。その隙間から頭部をぶち抜けっ!いいか

っ!?」

 涼が即決し、マリアに言う。ランチャーのチェックをしていたマリアが、

少し遅れて返信する。

「オーケー・涼。」

「よっしゃ!いくぜ!」

 涼が勢い良く飛び出していく、マリアはその場でランチャーを構え狙撃に備える。

「・・・グッドラック・涼・・・」

 涼の突撃を見送ったマリアの口から、すこし悲しい響きを帯びた声が漏れた。

 その表情は、先程まで涼が違和感を抱いていたマリアではなかった。

 公園のベンチで、ぎこちなくも楽しい会話を交わしていたあのマリアだった。

 しかし、マリアの変化とその言葉は、涼には届いていなかった。

                        
              つづく

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